独立行政法人国立病院機構 近畿中央呼吸器センター
(大阪府 堺市北区)
尹 亨彦 院長
最終更新日:2025/09/11


呼吸器疾患に幅広く応える特化型病院
大阪府堺市にある「国立病院機構近畿中央呼吸器センター」は、呼吸器疾患全般に対応する高度専門医療機関。国立病院機構における呼吸器医療の中核として、診療・研究・医療人材育成・情報発信を全国規模で担っている。肺がん診療において数多くの実績を持つほか、希少肺疾患の診療も強みで、肺胞蛋白症やリンパ脈管筋腫症など、専門性が求められる病気にも対応。喀血ではカテーテルを用いた気管支動脈塞栓術(BAE)を行い、慢性閉塞性肺疾患(COPD)進行例に対する気管支バルブ治療法にも対応するなど、西日本の医療をけん引する役割をもめざす。一方で、高齢化が進む周辺地域のプライマリケアも重視し、誤嚥性肺炎や終末期呼吸不全など、生活と密接に関わる健康課題にも医療と介護の両面から寄り添う。緩和ケアや感染症対策、呼吸ケアなどの多職種チームが連携し、患者一人ひとりの生活の質(QOL)を支えているのも同院の特徴だ。「これからも専門性と総合性を兼ね備えた呼吸器医療で、変化し続ける地域の医療需要に迅速かつ的確に対応していきたい」と語る尹亨彦(いん・きよひこ)病院長に話を聞いた。(取材日2025年8月12日)
こちらの病院の成り立ちと歴史について教えてください。

当病院は、国立病院機構の政策医療において、結核を含む呼吸器疾患分野の中核として、診療・研究・医療人材育成・情報発信を全国的なネットワークの中で担っています。地域に根差した高度な医療を提供するとともに、呼吸器疾患の診療に携わる医療人材の育成、そして独創的な研究の成果を世界に発信することを使命としてきました。その歴史は1964年4月、国立療養所大阪厚生園と国立大阪療養所の統合により「国立療養所近畿中央病院」として発足したことに始まります。2004年4月には独立行政法人化し、2018年9月には現在の名称へ変更するとともに、新病棟を開設。呼吸器疾患に特化した機能を維持しながら、地域のさまざまな医療機関との連携も深め、変化する医療需要に迅速かつ適切に対応し、全国の呼吸器医療のリーダーとしての存在をめざしています。
地域ではどのような役割を担っていますか?

当病院は呼吸器疾患専門施設として、歴史的に感染症診療に大きく貢献してきました。その流れを受け、現在では呼吸器疾患全般を専門に、難治症例や希少な肺疾患、そして結核をはじめとする感染症に幅広く対応しています。肺がん外科手術においてはたくさんの症例を手がけ、内科治療でも分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など、先進の薬剤を積極的に導入しております。また新薬や新しい治療法の試験も数多く行い、病理診断を専門とする医師、放射線診断に長ける医師らとも連携して、遺伝子変異の解析から診断、治療までを一貫して行える体制を整えています。新たに稼働を開始した強度変調放射線治療(IMRT)装置により、正常な細胞を守りながら、がんに集中的に照射する先進的な治療も可能になりました。がんと長く付き合いながら生活を続けられるよう、院内のがん相談支援センターとも連携し、患者さん一人ひとりに適切な診療の提供を心がけています。
呼吸器の希少疾患についても専門性高く診療されていますね。

肺胞蛋白症やリンパ脈管筋腫症といった希少な肺疾患をはじめ、症例数の少ない呼吸器の難病にも幅広く対応しています。喀血では対応する医療機関が少ない中で、カテーテルを用いて出血を止めるための気管支動脈塞栓術を実施しています。慢性閉塞性肺疾患の進行例に対しては、気管支バルブ治療法を行っています。近畿地方で保険適用の対象となる数少ない施設のうちの一つです。また、間質性肺炎や肺高血圧症などの慢性呼吸器疾患、肺炎や結核などの呼吸器感染症にも対応。非結核性抗酸菌症、肺アスペルギルス症など抗酸菌感染症の分野では西日本の指導的役割を担い、難治例にも積極的に取り組んでいます。膿胸など炎症性疾患に対する外科治療も可能です。こうした希少疾患や重症例の診療と研究に積極的に取り組み、全国的にも先進的な役割を果たしていきたいと考えています。
介護やプライマリケア的な総合医療にも取り組まれていますね。

高齢化が進む地域の中で、介護や総合的な診療を行うプライマリケアが重要だと考えています。院内には緩和ケア、感染コントロール、栄養サポート、呼吸ケアサポート、褥瘡(じょくそう)対策など、さまざまな分野の専門職をチームで配置。多職種が連携し、終末期の呼吸不全や合併症のある患者さんにも対応する体制を整えています。中でも緩和ケアチームには、緩和ケア専門の医師の他、がん性疼痛や緩和ケアについての専門性を持つ看護師、薬剤師、公認心理師、管理栄養士が在籍。肺がんなどの患者さんとご家族に対して、診断の早い段階から入院・外来を問わずサポートしています。さらに、感染管理や慢性呼吸器疾患などに精通する看護師もおり、これらの分野を専門的に学びたいという看護師への支援も行っています。こうした取り組みにより、当院は呼吸器の専門治療に加え、「総合的に診る」プライマリケアの役割も担い、専門性と総合性の両面から支えています。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

これからも呼吸器疾患に特化した高い専門性を維持しつつ、さらにオンライン診療をはじめとしたDXを推し進め、遠方にお住まいの希少疾患の患者さんにも専門的医療を身近に届けられる体制づくりを進めていきたいと考えています。検査・医療機器についても、診療に必要な先進的で高性能な機器導入を積極的に続け、また治験にも取り組み、より精度の高い診断と治療を提供してまいります。私が赴任した当初から印象的だったのは、多職種が連携するチーム医療体制の充実です。この強みを生かし、高齢化が進む地域で、複数の病気や合併症を持つ方にもプライマリケア的な立場から幅広く対応し、安心して任せていただける医療をめざしていきたいと思っています。地域の先生方とも密に連携し、必要に応じて当院で介入しながら、患者さんが住み慣れた地域で安心して暮らせるよう支えてまいります。呼吸器や肺の病気でお困りの方は、どなたでもお気軽にご相談ください。

尹 亨彦 院長
1984年大阪大学医学部卒業。大手前病院外科で一般外科の経験を経て、大阪府立羽曳野病院(現・大阪はびきの医療センター)で呼吸器外科を専門的に研鑽。大阪大学医学部附属病院第一外科助手を務めた後、りんくう総合医療センター呼吸器外科に勤務。2010年に近畿中央呼吸器センターの外科系部長に就任し、2020年から現職。日本外科学会外科専門医、日本呼吸器外科学会呼吸器外科専門医、大阪大学呼吸器外科学臨床教授。





