社会福祉法人恩賜財団 大阪府済生会泉尾病院
(大阪府 大阪市大正区)
平居 啓治 院長
最終更新日:2022/07/25
地域とつながり住民の健康に貢献する病院へ
JR大阪環状線大正駅から車で約10分、「大阪府済生会泉尾病院」の前には大阪港や北村南公園が広がる。1945年の開設以降、大正区の医療を支える病院として発展し、1988年には現在の場所へ移転。今日では周囲に同じ法人の特別養護老人ホームや軽費老人ホーム、身体障害者支援施設などが建ち並び、地域の医療・福祉ゾーンとして機能している。同院では高度急性期から急性期、回復期、慢性期、在宅医療まで地域のニーズに応える医療の提供に努め、2019年には外科的な治療にも対応できる心臓血管部門を新設。また慢性腎臓病や糖尿病の長期管理などを通じて、地域医療機関との連携を深めてきた。30年近くにわたり同院で勤務し、2017年から院長を務める平居啓治先生は、「できるだけ多くの住民とつながり、必要な医療を届けたいのです」と、気さくな笑顔で話す。職員が余裕をもって働ける職場の環境づくりにも注力し、病院と地域の未来へ思いを馳せる平居先生に、現在の診療内容や今後の取り組みについてじっくりと聞いた。(取材日2022年4月19日)
地域での役割や、診療内容について教えてください。
当院は1945年に泉尾商店街の近くで診療所として開設され、移転や増床を経ながら今日まで診療を続けてきました。大正区は、四方を大阪湾や木津川に囲まれ、橋を渡らないと区外へは出られない小さな区で、他の地域と同様に高齢化が進んでいます。また現在、区内には総合的な診療を行う病院が少ないこともあり、当院は地域の医療を支える病院としてさまざまな役割を担っています。24時間体制で二次救急を受け入れるほか、HCUや一般病床に加え、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟ももつケアミックス型の病院であることが特徴ですね。さらに当院の周囲には渡り廊下でつながった特別養護老人ホームのほか、軽費老人ホームや身体障害者支援施設やデイサービス、訪問看護ステーションなどの施設・事業所が集まり、当院が中核となって各施設と連携しながら、地域のさまざまな医療・福祉ニーズに応えています。
急性期医療や救急医療の状況をお聞かせください。
循環器内科は以前からあり、カテーテル治療や不整脈のアブレーション治療に力を入れていましたが、外科的な治療を行う設備や体制がなく、遠方の病院へ紹介せざるを得ませんでした。そこで2019年に心臓血管外科を新たに立ち上げ、両科のスタッフで心臓血管センターを開設。院内で、心疾患に対する外科的な治療や高度な専門性を要するチーム医療も行えるようになり、長年の課題を1つクリアすることができました。今後はさらにスタッフを増やし、より充実した診療体制をめざします。救急医療全般に関しては、現在はこの心臓血管部門や整形外科部門が中心となり、日中は救急隊の搬送要請をできるだけ受け入れ、夜間は当直医の専門領域に応じた受け入れを行っています。1日の入院患者の約半数は救急搬送された方ですので、今後も救急診療に関わるスタッフや医療設備の拡充に努める必要があると考えています。
がんの治療にも注力されていますね。
消化器内科には多様な専門領域をもつ複数の医師が在籍し、化学療法を中心としたがん治療を提供しています。また呼吸器内科にも2人の医師が新たに加わったので、肺がんの治療にも力を入れたいと考えており、すでに実施している化学療法に加え、近い将来には手術も始めたいと考えています。化学療法室や化学療法の相談に対応する外来では日本看護協会認定のがん化学療法看護認定看護師やがん薬物療法に精通する薬剤師が患者さんへの説明や相談にあたり、患者さんが安心して治療を受けられるよう環境を整えています。さらに当院には緩和ケアチームがあり、緩和ケアに詳しい医師や看護師がチームとなって治療早期からチームで回診を行い、患者さんの希望に応じて必要な緩和ケアを提供しています。緩和ケアについては医師によって考え方が異なる傾向がありましたが、このチームの取り組みもあり、現在では推奨される標準的な緩和ケアを行えるようになっています。
地域とは、どのように連携を図っていますか?
腎障害の管理は長期にわたり、また正確な診断や食生活を含めた生活指導が難しく、開業医院ではコントロールに苦慮されることがあります。そこで、腎臓内科ではオリジナルの「慢性腎臓病(CKD)地域連携パス」を活用し、地域の先生方と密に連携しながらサポートを行っています。糖尿病でも、自己血糖測定(CGM)や栄養管理を含めたきめ細かな生活指導や管理を行っています。それから在宅医療においては以前から訪問看護を行ってきましたが、さらに訪問リハビリの拡充を検討しています。コロナ禍では入院中のリハビリを控えざるを得ない時期があったのですが、日常生活動作の回復が遅れる患者さんが増え、リハビリの重要性を再認識しました。退院して地域へ戻った患者さんでも、訪問リハビリでフレイルや認知症の予防・早期発見に取り組む必要があると考えています。
今後の展望と、地域の方へのメッセージをお願いします。
地域へ出ると、治療が必要であるのに医療とつながっていない方が、特に独り暮らしの男性で多いことを痛感します。相当悪くなってから受診しても、治療が難しくなってしまうのですね。訪問看護や訪問リハビリでは「そのような方と早期につながりたい」という狙いもあります。当院では「がじゅまるサポート」という地域ケア支援の窓口を設けるなど、さまざまな形で受診への敷居を下げる取り組みを行っています。また、メディエーションという部門では、患者さんと医療職の対話を橋渡しして信頼関係を支えたり、悩みやストレスをもつ職員への支援も行うなど、医療を提供する場として、また働く場として病院の安心感や満足度を大事にしています。今後は老朽化した病院の建て替えなども構想しており、さらに地域から頼られる存在でありたいですね。健康に関して困ったことがあれば、ぜひ当院へいらしてほしいと思います。
平居 啓治 院長
1980年関西医科大学医学部を卒業後、内科学第一講座へ入局。1987年同大学院医学研究科を修了、1988年には米スタンフォード大学メディカルセンター血液科へ留学。1995年関西医科大学内科学第一講座講師を経て同年7月に大阪府済生会泉尾病院へ着任し、内科医長や院長補佐を務めたのち2017年より院長に就任、現在は総長も兼任。専門は臨床血液学、臨床腫瘍学。文学や芸術にも造詣が深い。