社会医療法人警和会 大阪警察病院
(大阪府 大阪市天王寺区)
澤 芳樹 病院長
最終更新日:2023/06/23
大阪の命と健康を支える「未来病院」へ
「大阪警察病院」は大阪市天王寺区、大阪市内を南北に延びる上町台地にある。増大する医療ニーズに応える新病院建設に向け、2018年には医療法人化、2022年には社会医療法人化を果たし、民間病院として新たな歴史を刻み始めた。この間には、大阪大学医学部名誉教授である澤芳樹先生が第8代院長に就任し、2025年の新築移転を控え新たなビジョンを掲げて精力的な病院運営を行っている。澤院長は、高度な診療水準の発展に加え、従来の高度急性期病院では盲点になりがちであった領域にも注目し、診療機能の拡充に着手。また民間病院らしい“スピーディーで融通が利く”新たな病病連携にも取り組む。「新病院ではさらに数多くの救急搬送を受け入れ、あらゆる急性期医療を適切に提供したい。患者さんが医療の隙間からこぼれ落ちることのない、名実ともに市民の医療を支える病院をめざします」と力強く語る澤院長に、同院の特徴や新たな取り組み、新病院の構想などを聞いた。(取材日2023年4月3日)
大阪市民に親しまれ、いざという時に頼りにできる病院です。
1937年に開設された当院は、当初は警察や消防関連の治療を行う職域病院でしたが、太平洋戦争中の空襲を機に一般の患者さんを診療するようになり、その後は地域の病院として発展してきました。私が医学部を卒業した1980年の時点でも、専門性の高い医療に取り組んでいたことから研修先として希望する声も多く、その印象は市民にも医療関係者にも浸透していたと記憶しています。警察という名前から一見堅苦しそうにも思えますが、専門的な医療を提供しながら医師も看護師も患者さんに優しく寄り添う、そういう雰囲気が当時から今日まで変わらず息づいていると感じますね。当院は開設当初から大阪大学医学部とのつながりが深く、現在も全診療科において人的な交流が活発で、専門的な知識や技術を駆使した医療を提供しています。また近隣の病院や開業医の先生とも非常に強いネットワークがあり、多くの患者さんが紹介で当院を受診されています。
改めて、診療面での特色をご紹介ください。
多くの診療科で専門性の高い医療を提供していますが、特に循環器領域の診療体制は充実しており、私自身も心臓が専門ですので一層の強化を図りたいと考えています。具体的には、心臓移植以外ほとんどの循環器手術に対応できる体制を整え、人工心臓やカテーテル治療、救急医療はもちろんですし、冠動脈疾患ではハイブリッド手術など患者さんの負担が少ない低侵襲での血行再建をめざしています。通常の開胸手術についても、極めて小さな傷口で行う低侵襲心臓血管外科手術や内視鏡下心臓手術の専門家が在籍しています。また弁膜症に対しては経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)を実施し、患者さんに応じた弁の選択を行うほか、透析患者さんの難症例にも対応。さらに最近では僧帽弁に加え大動脈弁でも、通常は人工弁に置換するところ、患者さんご自身の弁を温存する形成術も実施しています。他科でも、ロボット手術など新たな技術が意欲的に導入されています。
重症下肢虚血の診療を始められると伺いました。
重症下肢虚血は糖尿病の患者さんに多く、血流が悪化しているところに潰瘍などができると傷が治りにくく壊死が進み、最終的には足を切断せざるを得なくなります。切断後には行動範囲が狭まってしまうのでロコモティブシンドロームに陥ることも多く、その後の生活や寿命は非常に厳しいものになるのですね。命に関わる重大な病気ですが、専門の診療科が確立していないこともあり注目度が低く、患者さんは多いものの実際の患者数すらわかっていませんし、治療体制も不十分だと感じています。そこで当院では新たにこの疾患の専門家を招き、大動脈・血管センターで、循環器内科や糖尿病・内分泌・代謝内科、腎臓内科、さらに形成再建外科など関連領域の医師も参加して集学的な治療を提供します。下肢切断となるケースを、何とか減らしていきたいです。また、これらの治療やフットケアは院内だけでなく、在宅医療との連携が不可欠ですのでそこにも力を入れていきます。
これまで取り組んでこなかった領域にも目を向けるのですね。
総合診療の役割にも注目しています。総合診療を行う外来では、多くの病院ではどの科を受診したらよいかわからない患者さんの振り分けを担うことが多い。しかし本来の総合診療には、発熱や腹痛など、誰にでも起こる多彩で日常的な症状を適切に診療し、診断にもつなげる、内科系の救急のような役割があると私は考えています。そこで、新型コロナウイルス感染症患者の自宅療養を支援する医療団体の中には、総合診療を専門とする医師も多いので、そうした団体と当院の救急医療部門との連携を検討中です。内科系の救急患者さんのファーストタッチや、外科系疾患で入院中の患者さんの発熱など、従来の高度急性期病院では手薄になりがちであった部分で活躍してもらえるのではないかと期待しています。地域の民間病院だからこそ、大学病院にはない視点で医療と向き合う必要があるのです。
2025年の新築移転へ向けての展望をお聞かせください。
現在、桃谷駅の近く、当院と統合する第二大阪警察病院の北側で建設が進んでいます。660床のうち集中治療室が65床、先進の診療環境を整えて、救急搬送を断らず年間1万件まで受け入れられるような救命救急体制をめざしています。また「いのち輝く未来病院」というコンセプトを掲げ、電子カルテを搭載したスマートフォンで業務負担を軽減するなど、ICTを活用したスマートホスピタルの実現に向けて動いています。研究所も開設し、医師が行う治験の支援、民間企業との共同研究などで、意欲ある人材を支え医療水準を高めていきたいですね。一方、急性期医療を終えた患者さんを安心してお任せできるような回復期・慢性期病院とのネットワークを深めるべく、同じ思いを持つ地域の病院の先生方とアライアンスを構想中です。新病院ならではの高度な診療と広く柔軟な連携で、大阪市の医療レベルを高めようと尽力していますので、期待していただければと思います。
澤 芳樹 病院長
1980年大阪大学医学部を卒業後、同第一外科入局。ドイツMax-Planck研究所への留学を経て2007年より⼤阪⼤学⼼臓⾎管外科主任教授。日本における心不全外科治療の普及に貢献。2011年に内閣官房医療イノベーション推進室次⻑、2012年京都⼤学iPS細胞研究所特任教授なども務める。2021年9月より大阪警察病院院長現職。2023年4月より社会医療法人警和会理事長就任、第二大阪警察病院院長兼任。