出産への不安と分娩時の痛み軽減へ
前向きな出産を支える無痛分娩
社会福祉法人 石井記念愛染園 附属 愛染橋病院
(大阪府 大阪市浪速区)
最終更新日:2026/08/03


現在、全国的に妊婦の間で無痛分娩へのニーズが増加している。無痛分娩とは、背骨の硬膜外腔という場所にカテーテルで麻酔薬を入れることで、出産時の痛みの緩和をめざす方法だ。だが、どの程度の緩和が期待できるのか、母体や赤ちゃんへの影響などに不安を感じ、選択に悩む人も多い。大阪にある「愛染橋病院」は、自然陣痛からの無痛分娩に24時間365日対応。産科医師、助産師、小児科医師、麻酔科医師によるチーム医療で新たな命の誕生を支えている。そこで今回は、産婦人科医・中尾恵津子副部長、麻酔科医の香河清和部長、橘一也部長に無痛分娩のメリットやリスクを含む概要を聞いた。(取材日2026年6月11日)
目次
自然陣痛からの無痛分娩に24時間365日対応。医師が協働して新たな命の誕生をサポート
- Qそもそも無痛分娩とはどんな仕組みでしょうか?
- A

無痛分娩で行われる麻酔について説明する香河清和先生
【香河先生】無痛分娩とは、麻酔薬を用いて分娩時の痛みの軽減を図ることと考えています。現在世界的に最も多く行われている無痛分娩は、硬膜外麻酔を用いた無痛分娩です。脊髄レベルで神経の働きを弱め、子宮や産道からの痛みの信号を脳に伝わりにくくするために、局所麻酔薬に少量の麻薬を含めた薬剤を硬膜外腔に投与し、痛みの軽減を図る手法です。
【中尾先生】無痛分娩といっても痛みの感覚が完全になくなるわけではありません。しかし、出産時の強い痛みの緩和を図ることで体力の消耗を抑えることも期待できます。当院ではこれまで多くの無痛分娩を行ってきましたが、安全に行う体制づくりのため、月18件を目安に対応しています。
- Q無痛分娩のメリットを教えてください。
- A

麻酔科の橘一也先生。出産時は自然な息みも大切だと語る
【橘先生】まず、分娩中の痛みの軽減を図ることで落ち着いた出産につながること。陣痛時も産婦の呼吸が安定し、胎児への酸素供給の維持が見込めること。不要に体力を消耗せず出産後早期から育児が可能であること。分娩後の処置時の鎮痛につながること。緊急帝王切開時の手術麻酔にも継続して利用できること。以上5つがメリットとして挙げられます。
【中尾先生】さらに妊婦さんは早い段階から出産に不安を感じているため、妊娠期間中から不安を取り除けることもメリットです。また、出産時には自然な息みと自身で分娩する気持ちがすごく重要ですので、怖がることなく、落ち着いて出産に臨めることも非常に有用だと感じています。
- Q無痛分娩の流れを教えてください。
- A
【香河先生】一定の間隔で陣痛が来るようになったら、ご本人とタイミングを相談し硬膜外カテーテル挿入の処置を行います。硬膜外腔にカテーテルが留置された後、カテーテルから薬剤を投与していきます。麻酔作用の判定は、陣痛時に痛みが軽減しているかどうかを確認します。また、麻酔の作用が得られている部位では冷感が減弱しますのでその確認を行います。無痛分娩では痛みの抑制は図れますが、運動神経の減弱は避けたいので、下肢にしっかりと力が入るかどうかも確認します。同時に副作用や合併症が起こっていないかも観察します。分娩経過中の痛みの変化に合わせて薬剤投与を調整し、分娩が終了した時点で薬剤投与を終了します。
- Q無痛分娩のリスクを教えてください。
- A

麻酔を使用することへのリスクを解説する中尾恵津子先生
【中尾先生】お産への影響に関しては、血圧が下がりやすくなるため点滴やお薬で対応することがあります。また、分娩の時間が長くなったり、器械分娩は増えますが、帝王切開が増えることはありません。
【橘先生】まれに生じる合併症としては、高位・全脊髄くも膜下麻酔、局所麻酔薬中毒、硬膜外血腫、硬膜外膿瘍・感染、硬膜穿刺後頭痛、アレルギーなどがあります。比較的起こりやすい副作用は、麻酔による一時的な足のしびれ、低血圧、嘔気、過強陣痛、かゆみ、発熱、背部痛などです。いずれも発生を早期に疑い、早期に適切に対処します。
- Qこちらの病院で実施している無痛分娩について教えてください。
- A

長年の経験を生かし、チームで産前から産後までを支えていく
【中尾先生】自然な陣痛を待って24時間365日対応できるようにしています。母児ともに安全な分娩経過となることを第一の目標とし、できるだけ痛みの軽減を図ることで、一人ひとりの産婦さんに寄り添った分娩となるよう、産科医師、助産師、小児科医師、麻酔科医師が協働して新たな命の誕生をサポートいたします。また、女性医師がいるのも当院の特徴で、安心して受診できるポイントになるかと思います。
【橘先生】何より当院には、新生児集中治療室を備えています。万が一生まれたお子さんが集中的な治療が必要な状況であっても、小児科医師が集中的に治療にあたってくれます。この点は当院の大きな特徴といえます。

中尾 恵津子 副部長
大阪府出身。山口大学医学部を卒業。大学在学中、自身の誕生日に分娩の実習があり、「自分もこうして生まれてきたんだな」と感動。多くの女性の出産をサポートしたいと思い産婦人科の道へ進む。市立豊中病院、りんくう総合医療センター、市立貝塚病院、大阪大学医学部附属病院、大阪病院を経て愛染橋病院に入職、現在に至る。日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医。

香河 清和 部長
1992年佐賀医科大学(現・佐賀大学医学部)卒業後、大阪大学医学部附属病院、大阪けいさつ病院、国立循環器病研究センター、大阪府立母子保健総合医療センター(現・大阪母子医療センター)、大阪府立成人病センター(現・大阪国際がんセンター)、市立豊中病院で麻酔科臨床に従事。2024年4月より愛染橋病院麻酔科に着任、現在に至る。日本麻酔科学会認定麻酔科専門医。

橘 一也 部長
1994年熊本大学卒業後、大阪大学医学部附属病院の麻酔科を経て、国立循環器病研究センター、大阪母子医療センターにおいて小児麻酔、産科麻酔、集中治療に従事。2026年より愛染橋病院の麻酔科に勤務。周産期の麻酔管理を専門とする。日本専門医機構認定麻酔科専門医。





