社会医療法人愛仁会 千船病院
(大阪府 大阪市西淀川区)
吉井 勝彦 院長
最終更新日:2024/08/07


周産期医療を軸に、医療を通じた社会貢献を
大阪市北西部の急性期病院「千船病院」は、大阪湾と淀川、神崎川に囲まれた西淀川区にある。昭和初期に重工業地帯として発展してきたこの地域は、近年では宅地開発され、ベッドタウンとなりつつある町だ。同院の最寄り駅、阪神なんば線の福駅も高架化工事の真っ最中。「医療を通じて地域を活性化していきたい」と語る吉井勝彦院長は、地域医療を行う病院は、病気を治療するだけの場所ではなくコミュニティーの場になっていかなければいけないと話す。周産期医療を軸としながらも、幅広い診療を提供できる体制を整え、地域完結型の医療を追求する同院。地域に溶け込み、地域から求められる医療を実践している同院の取り組みについて吉井院長から話を聞いた。(取材日2024年6月10日)
病院の歴史と地域における役割について教えてください。

当院は、1958年に千船診療所として阪神本線千船駅前に開設され、西淀川区の工場で働く労働者の健康管理を担ってきました。2017年には阪神なんば線福駅前に新築移転し、現在は21の診療科を擁する病院となっています。川に囲まれた地域であり、できるだけ地域内で医療が完結できるよう日頃から近隣の医療機関との連携を深めています。病床不足が懸念される昨今ですが、紹介入院にも対応できるよう、昨年10月に地域医療連携推進法人の制度に則り、16床を増床することができました。開放型病院として、診療所のかかりつけ医と当院医師が共同で患者さんを診療できる取り組みも行っています。救急医療はもとより、妊娠22週目から出生後7日未満の母体と赤ちゃんの医療を総合的に行う「地域周産期母子医療センター」の役割を担いハイリスク出産に対応するほか、がん医療にも注力し、がん治療・緩和ケアの充実にも努めています。
周産期医療が特徴なのですね。

ハイリスク妊娠分娩管理に重要な母体胎児集中治療室(MFICU)が6床、新生児集中治療室(NICU)が15床、新生児回復室(GCU)が20床と、徹底した設備環境の中、常勤産婦人科医30人、小児科医21人が、助産師、看護師とともにチームとなって周産期医療を支えています。当院の法人グループにある看護助産専門学校で学んだスタッフが、より専門性の高い看護医療を提供しています。また、無痛分娩にも24時間体制で対応していることも特徴です。麻酔科医が常駐することで、計画分娩だけでなく、自然な陣痛が始まったタイミングでの麻酔が可能であり、急変時には迅速な対応もしております。当院は産科救命や新生児蘇生の講習の場にもなっており、日頃から周産期救急のシミュレーション教育も行い、チーム連携を深めています。
他の診療科での医療や取り組みについても教えてください。

当院は、低侵襲手術も積極的に取り入れており、2023年4月から2024年3月までの鏡視下手術は1600件を超え、ロボット手術は200件を超えました。ロボット手術の最大の特徴は目と手にあり、目は人間の40倍に及ぶ拡大視が可能で、また手は人間よりも関節可動域が広く、手ブレがないため、米粒に「千船病院」と書くことが可能です。高度肥満症に対しては、減量チームを組織し、胃など消化管に対して外科手術を行っています。外科・糖尿病内分泌内科・呼吸器内科・麻酔科などさまざまな診療科医師と臨床心理士・管理栄養士・理学療法士・減量コーディネーターの減量チームが、お互いに尊重し合いながら、医療を進めています。実績を重ね、人材も集まり、肥満治療の専門性も高まりました。また消化器内科では超音波内視鏡・バルーン内視鏡・食道内圧測定機などを備え、胆膵・消化管の高度な専門診療を行っており、夜間・休日も緊急対応しております。
整形外科では、関節部門も設置されているそうですね。

関節疾患に悩む高齢者は多くおられますが、この地域は川に囲まれているため、川向こうの病院には容易には診療に通えません。人工関節手術では、適切な位置をコンピューターで計算する「ナビゲーションシステム」を利用した高度な手術を提供しています。大腿骨骨折では、待機日数が長引けば術後の回復にも影響するため、できるだけ早期に手術対応しています。さらに情報交換の場として、人工関節術後の患者会「健歩の会」としてのバス旅行も開催しています。患者さんが情報交換をしたり、気軽に医師に相談をしたりできる場も必要と考えています。
医療を通じたコミュニティーづくりにも力を入れているのですね。

病院として、患者さん同士の横のつながりも大切だと考えています。産科でも、新型コロナウイルス感染症流行前は出産時に仲良くなられた妊婦さんがグループになり、一緒にお祝い膳を召し上がれる場も提供しておりました。時期を見て再開させたいですが、お母さん同士のつながりができれば、子育てに悩む時期の相談相手も増えていきます。当院は、「医療を通じての社会貢献」を基本理念に掲げており、地域のコミュニティーの場でもありたいと考えています。行政・地元企業と連携し、病院前多目的広場で福ハッピーフェスタというイベントを毎年3回開催しているのも、街を活性化させたいという思いからです。「病院に行ったらなんか楽しいことあるよ」と地域の方々に思っていただければうれしいです。地域から選ばれる病院、そして職員にとっても当院で働けることが誇りになるような病院をめざし、今後も医療の質向上と人材育成に力を入れていきたいです。

吉井 勝彦 院長
1959年生まれ。1984年高知医科大学卒業後、神戸大学医学部附属病院の小児科にて臨床研修。1986年同大学院医学研究科入学。公立豊岡病院、姫路赤十字病院、甲南病院、千船病院、兵庫県立こども病院周産期医療センターにて研鑽を積む。2003年より再び千船病院に勤務し、2012年小児科部長を経て2018年に院長へ就任。日本小児科学会小児科専門医。