社会医療法人きつこう会 多根総合病院
(大阪府 大阪市西区)
丹羽 英記 院長
最終更新日:2020/11/25
得意領域を核に成長、地域のニーズにも対応
大阪市西区、京セラドーム大阪の西側に立つ「社会医療法人きつこう会 多根総合病院」。1949年に初代理事長が21床の病院を開設、1968年には救急病院の指定を受けるなど、地元では「多根さん」の名で親しまれてきた病院だ。同院に丹羽英記院長が30代半ばで着任したのは1987年のこと。手術を得意としていたことから、外科診療の充実を図るべく外科部長に就任。1998年には日帰り手術センターを立ち上げ、「現状維持は衰退の始まり」の言葉を胸に、同部門の発展に尽力してきた。2010年には院長に就任、2011年には西区九条南に移転・新築した同院で、がん放射線治療や3D内視鏡、救急部門の充実など、スピーディーかつ同院の強みを生かした診療体制拡充にまい進する。同時に「自分の家族を入院させたい病院」をモットーに、医師や職員のやりがいや満足度にも思いを寄せる。取材では院長に、これまでの歩みや現在の診療の特徴、地域中核病院として自負する役割や今後の展望について聞いた。
(取材日2019年8月16日)
病院の成り立ちや、診療面での特徴をご紹介ください。
多根要之助前理事長が、「戦後復興の役に立ちたい」との思いで1949年に21床の病院を西区九条に設立したのがスタートです。このため、私立病院ですが早い時期から公立病院に近い立場で地域医療に携わってきたそうです。私は、大阪大学で教えを受けていた、現理事長の小川嘉誉先生が当院の院長に就任されたのを機に、1987年にこちらへ入職しました。しかし当時は外科手術の実施が多かったわけではなく、安定した環境で診療を続けていくためには、病院の規模や診療レベルを上げる必要があると感じました。私自身は外科の医師として、迅速で、合併症の少ない手術になるよう努めてきたことから、日帰り手術に注目。1998年には日帰り手術センターを設立し、センター長として執刀や運営にあたってきました。現在、この部門には全国から患者さんが訪れてきています。
日帰り手術に適した疾患や患者さんはあるのでしょうか。
私は、術後その日のうちに食事が取れて、自力で歩けて、痛みがご自身でコントロールできれば、疾患を問わず日帰り手術の対象になると考えています。最近は、胆石症や鼠経ヘルニア、そして下肢静脈瘤の手術が多いですね。仕事で多忙な方はもちろん、ご家族のサポートがあれば高齢者や認知症の方にも日帰り手術は可能です。入院しないため生活環境を変えずに手術が受けられるのは大きなメリットです。なお、日帰り手術では術後の不安が大きいと思いますが、当院では豊富な経験のある医師が執刀にあたります。またセンターの看護師やコーディネーターは、術前後の面談の中で、帰宅後に変化や痛みが生じても患者さん自身が的確に判断、対応できるよう丁寧に説明し、不安をなくしてから帰宅してもらうようにしています。術後は24時間体制で看護師や当直医が電話相談に応じ、手厚い対応に努めています。
がん診療については、どのように取り組まれていますか。
当院はがん診療に力を入れており、外科がメインとなってがんの手術を日常的に行っています。中でも、胃や大腸の内視鏡を用いた腹腔鏡下手術を希望される患者さんが多く来院されています。また、2011年に設立された放射線治療科には放射線治療を専門に行う医師が3人常勤することで、多くの患者さんに対応できるように体制を整えています。放射線治療科は別館の1階にあるのですが、別館の2階を本館と渡り廊下でつなぎ、化学療法部門、乳がん専門の外来や腫瘍内科を移転して、新たにがん治療を専門に行う部門として稼働する予定です。なお、当院には緩和ケア病棟もあり、こちらにも3人の医師が常勤しています。がんの初期治療から手術、化学療法、放射線治療、緩和ケアと切れ目のない診療体制で、がん診療の拠点としての機能をさらに高めていきたいと考えています。
地域連携の中で貴院が担う役割について、お聞かせください。
「24時間365日断らない救急」に努め、現在は毎日6人の常勤医が当直にあたり、救急搬送を受け入れています。救急外来部門は広く、フロア内にエックス線や一度に複数の画像が撮影可能なマルチスライスCT装置を設置して素早い診断に役立てています。また当院は大阪府の地域災害拠点病院であり、災害派遣医療チーム(DMAT)は、被災地での活動を通じて非常時対応の技能を習得。非常時には京セラドームのデッキを利用したトリアージも想定しています。さらに地域連携では、開業医の先生方や他の総合病院との良好な関係が欠かせません。開放型病院の登録医の先生方をお招きした総会を毎年実施しており、数年前にはその場で、近隣の中規模病院6病院の院長が集まりシンポジウムを開催しました。和やかな雰囲気の中、「対立するのではなく、お互いの強みを知り弱みを補完し合いながら医療圏内の患者さんをサポートしよう」という話で盛り上がりましたね。
最後に、今後の展望についてお聞かせください。
病院周辺の西区、港区、大正区では今、若い家族やお子さんが増えています。そこで2019年の春からは2人の女性医師を招き、これまで手薄であった小児科診療にも力を入れています。また、整形外科ではスポーツ整形に精通した若手の医師が活躍しています。消化器内科や救急でも若い医師が意欲的に仕事をしてくれています。さらに当院には研修医が多数来てくれています。振り返りますと、私自身が若くして外科部長になり、意欲のある医師やスタッフたちと新しい手術手技や日帰り手術の実現に奔走してきました。若い先生たちにも良い発想を出して新たな取り組みを展開してほしいですし、彼らをバックアップしていきたいですね。また、医師やスタッフが「自分の家族を入院させたい」と思える診療内容や雰囲気を育てることで、患者さんにも安心かつ快適に受診してもらえると考えています。
丹羽 英記 院長
1980年に大阪大学を卒業後、大阪大学第二外科で研修。大阪逓信病院(現・第二大阪警察病院)や大阪大学第二外科を経て、1987年に多根総合病院に着任。1992年に外科部長、1998年からは日帰り手術センター長を兼任し、2002年に副院長、2010年には院長に就任。日本短期滞在外科手術研究会の常任幹事。