社会福祉法人大阪社会医療センター 大阪社会医療センター付属病院
(大阪府 大阪市西成区)
六車 一哉 病院長
最終更新日:2023/04/05
誰にも平等な地域医療の拠点でありたい
大阪市西成区にある、あいりん地域。日雇い労働者や住所不定者が多く存在する町の中心で、半世紀以上にわたって生活困難者の健康をサポートしてきたのが「社会福祉法人大阪社会医療センター 大阪社会医療センター付属病院」だ。かつては特別な人のための特別な病院という先入観が先立っていたが、2020年12月に新築移転によってリニューアルを果たし、旧来のイメージを刷新。変容する町の雰囲気や時代の変遷に沿うように、新たなステージを迎えている。その中心となって病院を率いるのが六車一哉(むぐるま・かずや)病院長。現在は数多くの一般患者の来院を実現し、さらに質の高い医療実現に向けて労を惜しまず取り組んでいる。そんな六車病院長に、病院のコンセプトや現在の状況、将来に向けた課題など、ポジティブな取り組みを率直に語ってもらった。(取材日2023年3月1日)
まずは病院の成り立ちを教えてください。
当院が開設されたのは1970年。当時の日本は高度経済成長期の真っ只中で、この西成区のあいりん地域には仕事を求める大勢の日雇い労働者が全国から集結していました。そのため住所不定で社会保険に加入せず、経済的な余裕もないため一般の病院で診療が受けられないという人が町にあふれている状況でした。そうした生活困難者を受け入れ、地域に特化した診療を提供しようと行政主導で開設されたのがこの病院です。本当に困っている人を助けるという目的からスタートしており、時代が変わってもそのコンセプトはずっと引き継がれています。そして2020年、築50年で老朽化した病院を建て替え、機能やイメージを一新して次の時代を迎えることになりました。外観や内装などの見た目はもちろん、数多くの病床や医療機器、電子カルテなどのシステムを導入し、地域の皆さんに対してより高レベルで幅の広い医療を提供できるようになったと実感しています。
新病院では、どのような部分が変わりましたか?
やはり新築リニューアルの効果は大きく、現在は近隣にお住まいの一般の方の来院が急増しています。私たちも新病院の周知に積極的に励んできましたが、そのかいもあって、日雇い労働者に特化した病院、保険もお金もない人しか診ない病院と、これまでちょっと敬遠していたような方にも足を運んでいただけるようになりました。中でも大きな変化は、女性の患者さんが大幅に増えたことです。旧病院時代は女性の受診者はほとんどなく、無用なトラブルを避けようと女性の入院をお断りしていた経緯があります。現在は個室数の確保や病床の隔離などを行い、他院と変わらず女性患者さんの入院の受け入れが可能となりました。いつまでも以前の習慣にとらわれていては進化できませんから、病院のイメージを変える大きな前進ではないかと思います。ちなみに新病院の病床は80床です。うち30床を療養病床として段階的にスタートさせ、感染症対応病床も用意しています。
生活困難の患者さんには、どのように接していますか?
日雇い労働や住所不定など、生活に困っておられる方に対する無料低額診療の提供というコンセプトは今も変わりありません。その中で課題となるのはやはり受診者の高齢化で、外来診療やリハビリテーションに力を入れるとともに、医療相談や生活相談にも手厚く応じています。普通の病院では生活の相談まではなかなか乗ってくれませんから、この地域に特化した当院の特徴の一つといえるでしょう。生活に困窮すると、さまざまな精神的な悩みを抱え、つい感情をあらわにしてしまう患者さんも中にはおられます。時には些細なトラブルが生じることもありますが、そこで大切にしたいのは普通の病院で一般の方に接するのと何ら変わらぬ態度で臨むことです。医療を受ける権利、健康に生きる権利は誰にも平等にあるわけですから、それと同様にその方の人格を尊重し、分け隔てなく平等に接していく。それが何よりトラブルを減らす効果につながるのではないかと私は考えます。
今後に向けた課題や展望があればお聞かせください。
このあいりん地域も現在は環境の改善や開発が進み、景観はかなり変貌しつつあります。そんな新しい町のランドマークとして、当院が地域のターニングポイントの拠点の一つになれればと考えています。当院は総合病院と呼べるほどの規模ではありませんが、例えば眼科や耳鼻咽喉科など、外来の診療科を将来的にはもう少し増やしていければと考えています。日常でお困りの頻繁に診てほしいと思うような疾患の対応ができれば、もっと多くの皆さんに気軽に利用していただけるかもしれません。もう一つの課題は、かかりつけで通っていただいている患者さんに対する救急対応ですね。現在は体制的な問題があって、夜間や休日に自分の病院で対応ができません。患者さんに対するサービスという点では不十分で、そこにとても歯がゆさを感じています。ぜひマンパワーを確保し、さらに質のいい医療やサービスを皆さんに提供していけるよう努力していきたいと思います。
最後に、地域の方々へ向けたメッセージをお願いします。
当院のドクターは、全員が大阪公立大学医学部附属病院からの出向です。大学と比較しても遜色のないレベルの医療提供が可能だと考えています。それに加え、寄せ集めではないチームワークの強さも持ち合わせていると自負しています。また、看護師や薬剤師をはじめとする常勤スタッフの年齢構成も若く、それぞれの職場が明るくとても活気があります。コロナ禍にあっても職員一丸で頑張ったおかげでクラスターの発生もなく、なんとか無事に乗り越えてこれました。みんなで絶対に患者さんと病院を守っていくという、強い意志と責任感があればこそ実現できたのではないでしょうか。社会的に弱い方々を対象としたセーフティーネットの役割を果たしつつ先入観や偏見を排し、地域の誰もに平等に良い医療を提供していくこと、健康を支えていくことが私たちの最大の目標です。その基本コンセプトを変えることなく、地域社会とともにさらなる進化をめざしていきたいですね。
六車 一哉 病院長
1992年徳島大学医学部卒業。大阪市立大学医学部附属病院第一外科に入局し、外科医師として同大学や総合病院などに勤務。2006年から大阪市立大学大学院外科学講座講師、准教授、病院教授を歴任。2022年から現職に就任し、病院の要としてさらなる医療サービスの向上に努める。論文や共著書籍執筆のほか、消化器がんに関する医療シンポジウムなどの社会貢献活動にも積極的に取り組む。