社会医療法人三宝会 南港病院
(大阪府 大阪市住之江区)
三木 康彰 理事長
最終更新日:2025/09/16


優しさと笑顔のある医療で、地域と歩む
大阪メトロ四つ橋線の北加賀屋駅から直上、南港通と新なにわ筋の交差点に面した「南港病院」。戦後、小さな外科医院としてスタートし徐々に診療内容を拡大、現在は救急診療や整形外科診療を中心に、地域の医療ニーズに応える。また同法人のクリニック、高齢者施設や障害児支援サービスなども南港病院グループとして一体感を持って運営され、地域のあちらこちらで健康や福祉を支えている。そんな同院を率いる三木康彰理事長が大事に考えるのが、「患者や家族を肯定し共感する、優しさと対話のある医療」だ。同院ではユマニチュードという認知症ケアの手法を早くから取り入れ、グループ全体で実践を重ねてきた。「現在では多数のスタッフがユマニチュードに共鳴し、専門性を持つスタッフも新たに加わってチーム医療やケアの質を高めてくれています」と三木理事長も信頼を寄せる。さらに2026年には「南港ユマニテ病院」としてリニューアルし新築移転を予定。「地域からいっそう信頼され、職員がやりがいを感じて頑張れる病院でありたい」と語る三木理事長に、同院の取り組みや今後の展望について、じっくりと聞いた。(取材日2025年7月14日)
最初に、病院の歩みや特色をご紹介ください。

父が当院の前身「南港外科」を開設した1962年当時、この地域には造船所や貯木場が多く、そこで働くために四国や九州から多くの方が来られました。その方々が高齢期を迎えていますので、現在は高齢者に多い整形外科疾患や内科の慢性疾患の診療、救急診療やリハビリテーションにも注力しています。私自身、この地域や当院に育ててもらったという思いが強く、患者さんに優しい病院、地域から認められ信頼される病院でありたいと思っています。ですので、自分たちがやりたい医療を優先するのではなく、患者さんに必要とされ喜んでもらえる医療、ありがとうと言ってもらえる医療を提供したいのです。新型コロナウイルス感染症の流行時には早くから発熱の外来を開設。当時は院内外から批判もありましたが、スタッフと一致団結して乗り越えたことで、地域からは「あの時はよく頑張ってくれた」と言ってもらえますし、病院として成長できたと感じています。
看護やケアに、ユマニチュードを取り入れているそうですね。

ユマニチュードはフランスで考案された認知症介護の手法で、患者さんに優しく接するケアが特徴です。当院では介護保険開始前から高齢者や認知症の方の入院が増えましたが、当時は認知症への理解がなく、医療関係者でも「認知症があったら手術ができない」、身体疾患で受診しても「精神科へ入院してほしい」というような時代でした。またスタッフが認知症患者さんの悪口を言ったり、患者さんが嫌がっても効率優先で無理やり処置をしたりするような病院もあったようです。旧知の患者さんが認知症で入院しても十分なケアを受けられない姿を見るのは本当につらかったです。そこでどうすればスタッフが患者さんに優しくできるのか、私自身が各地の勉強会へ出向いて探す中で出会ったのがユマニチュードでした。ユマニチュードでは、無理やりしない、でも諦めないケアが基本です。また具体的な方法がわかりやすい言葉で示され、現場で取り組みやすい点も魅力的でした。
導入はスムーズでしたか? 導入後、ケアに変化はありましたか?

私が学んだユマニチュードの知識を院内勉強会で繰り返し伝えるにつれ、徐々に広まり自発的に学んでくれるスタッフも増えていたのですが、新型コロナウイルス感染症の流行期には、患者さんのそばへ行くことすら難しい状況に。「このままでは後戻りしてしまう」と強い危機感を覚えました。しかし、この時期を乗り越えたことで優しい医療やユマニチュードに共感するスタッフが増え、「ここで働きたい」と入職してくれたスタッフも増加。現在は、毎朝全施設をつないでオンライン朝礼を行いますが、そこで今週のユマニチュードの目標を紹介し合い、症例発表やユマニチュードに関する外部評価に取り組むなどして、定着に努めています。実際に病棟の雰囲気は大きく変わり、安心感のある笑顔を見せてくれる患者さんが増えましたし、嫌がる患者さんにケアを無理強いする光景もなくなりました。看護やユマニチュードのレベルは、確実に高まっていると思います。
では、現在の診療内容について詳しくお聞かせください。

地域医療でニーズの高い救急医療では、24時間365日体制で救急搬送や救急科外来で患者さんを受け入れています。普段から「何かあれば来てください」と患者さんにお伝えしているのに、いざという時に「専門家がいないから」「新しい感染症の発熱だから」と診療を断っていては信頼されないでしょう。しっかり勉強して患者さんに対応したいですし、専門外であれば適切な専門家につなぐことが地域の二次救急医療機関の役割だと考えています。整形外科疾患では院長である私の弟が頑張ってくれています。リハビリテーションは整形外科疾患をはじめさまざまな病気、年代に対応しますし、各病棟では多職種によるチーム医療が充実しています。さらに病院から地域へ出て訪問看護や通所リハビリテーションなども実施。グループ内のクリニックや高齢者施設などとも小さな情報まで共有しながら、地域の暮らしに必要となるさまざまな医療・福祉サービスを展開しています。
2026年の新築移転に向けて、準備が進んでいるそうですね。

施設の老朽化もあり新築移転を模索してきましたが、住之江公園駅から徒歩5分ぐらいの場所に新病院を建設中、2026年末には「南港ユマニテ病院」として移転予定です。ベッド数、診療科数とも今よりも増える見込みでユマニチュードを軸とした病院であることを名称に反映しました。病室はプライバシーや感染症対策を考慮して個室が中心です。看護では、特別養護老人ホームのユニットケアのように、セル看護と呼ばれる分散型の看護システムを導入。より患者さんの近くで仕事ができるようにします。さらに共用部には図書室やカフェスペース、アロマトリートメントルームを設け、地域の方がふらりと立ち寄れる場所にしたいです。新病院では地域の交流や健康づくりなどにも今以上に関わり、町を暮らしやすく楽しくしていきたいです。当院のファンを増やし「何かあったら頼みますね」と地域から頼られ、職員も誇りとやりがいを持って頑張れる病院をめざしています。

三木 康彰 理事長
1984年川崎医科大学を卒業後、大阪大学第一外科へ入局し、関連病院の外科で研鑽を積む。2002年南港病院院長に就任し、2005年には社会医療法人三宝会理事長を兼任、2023年より南港病院総院長。乳腺外科、消化器外科などの外科診療に加え、精神疾患を含めた総合診療を実践。生まれ育った地域を活気づけ、住民から愛される病院づくりに奔走する。趣味のトライアスロンではトレーニングを重ね国内外のレースに参加。