医療法人財団今井会 足立病院
(京都府 京都市中京区)
澤田 守男 院長
最終更新日:2024/02/27
多方面から女性のトータルライフをサポート
ドイツで西洋医学を学んだ初代院長の足立健三郎先生が、近代的な病院をめざして1902年に設立した「足立病院」。立ち会い出産にこだわる一方で、無痛分娩をはじめとした先進的な出産にも積極的に取り組んできた。年間数多くの分娩を受け持ち、地域の産科医療の中心的な役割を担い、地域住民からは親しみを込めて「足立さん」と呼ばれるほど、京都エリアでは身近な病院だ。中には何世代にもわたって、この病院で出産をするファミリーが多く、地域にしっかりと根を下ろしている様子がうかがえる。近年は不妊治療、産婦人科疾患の治療、小児科診療、子育て支援、在宅医療など幅広いフィールドでも地域をサポート。疾患の治療にとどまることなく、メンタルケアなども取り入れて、女性やその家族の悩みや不安を取り除くことに力を注いでいる。2022年には開院120周年を迎え、2023年には新病院がオープン。病院の今後の展望 や時代の変化に対応する新しい取り組みについて、院長の澤田守男先生に話を聞いた。(取材日2021年3月30日/ 再取材日2024年1月16日)
2023年に新館がオープンしたそうですね。
これまで病院があった場所のすぐ向かいに6階建ての新館を建設し、2023年8月にオープンしました。それと同時に旧館は新型コロナウイルス感染症に罹患した妊産婦専用の病棟として運用開始。現在は一般51床、旧館の病床16床の合計67床を有しています。新館開設に伴い、電子カルテの導入などDX化も併せて実施し、時間短縮や効率化も進めました。ポータブルエックス線撮影装置の導入で撮影データはすぐに確認できますし、お母さんの陣痛や胎児の心拍も全スタッフが個々の端末で把握できるようになっています。また、NICU(新生児集中治療室)を設置し、30週の早産から対応可能に。これまでのように他院に搬送することなく、当院で診療できることは産婦人科の医師にとっても、また患者さんにとっても安心感につながると思います。スタッフも増え、充実した設備と十分なマンパワーで、これまで以上に京都の周産期医療を担っていく考えです。
立ち会い出産など、母子に寄り添ったケアが印象的です。
新しい命が生まれる出産は、家族の始まりでご家族に立ち会っていただくことはとても大切だと思います。当院では、ご主人やお子さんたちと、赤ちゃんの誕生を一緒に迎えられるようにご家族での立ち会いを推奨しています。また出産後もご家族で過ごしていただけるよう複数のベッドを完備したお部屋をご用意することも可能です。今はまだ新型感染症流行の影響で制限がありますが、ご家族の宿泊に関しても徐々に元のかたちに戻せるようにと考えています。他にも、力を入れてきた無痛分娩に関しては徐々に増えている状況です。麻酔科スタッフが365日24時間体制で常駐するなど安全性にこだわり、現在は3~4割の方が希望されるようになりました。お産は一生のうちで一度あるかないかという人も増えてきている時代です。お母さんがゆったりと安心して赤ちゃんの誕生を迎えられるよう、今後もさまざまな取り組みを行っていきたいですね。
産科に限らず、幅広い診療も行っていますね。
「女性の一生に寄り添う」というテーマのもと、院内には検診部門や生殖部門も備わっています。中でも不妊治療では、数多くの症例を手がけ、2022年1月~12月の体外受精総数は5022件に上りました。さらに今後は産褥ケアの施設を展開していく予定です。産後に数日間ステイして子育てを学んでいただくとともに、お母さんの休息にも役立つと思っております。他にも、旧館の北側には新たに4階建てビルの建設を控えており、ここを含めて旧館とで、内科・眼科・皮膚科・泌尿器科・消化器内科などを集約させ、産婦人科だけではない、女性のお悩みに特化した施設に生まれ変わる予定です。
地域のため、さまざまな取り組みを行っていると伺いました。
患者さんの一生を守るには、シームレスな医療体制が必要不可欠です。当院の法人グループ内には、病院・クリニック・保育園などがあり、それらとうまく連携することで患者さんに対して多様なサポートを提供したいと考えています。例えば、退院後も医療的ケアが必要なお子さんには、通院や小児在宅医療でサポート可能ですし、病児保育や子育て支援なども実施しています。また地域とのつながりも大事にしており、近くの小学校では「いのちの授業」と題して妊娠や出産に関する出張授業を行ったり、京都市などと協力して「京都こども宅食プロジェクト」に取り組んだりと、自分たちができることを考えてかたちにしてきました。 最近では、閉院を考えていた婦人科医院と提携し、当院から人材の派遣やリニューアルをお手伝いするという取り組みも実施しています。当院はお産だけを診るのではなく、より時代に合った医療サービスの提供を追求しています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
「足立病院」では、京都市内の数多くの出産を担っております。これは決して一朝一夕にできることではなく、120年以上もの歴史があってこそだと感じています。プライベート病院でスタートした「足立病院」ですが、地域の中で大きな役割を持っているという自覚を胸に、これからもその使命を全うしていきます。そのためには、きちんと維持運営し、皆さまに安心と安全を提供する医療体制を構築していく必要があります。これからも患者さんが安心して当院にかかっていただけるように、スタッフ一同ホスピタリティーにあふれた「おもてなし」を大切に、地域の方々のお声にしっかりと耳を傾けながら、新しい産婦人科医療のかたちを発信していきたいと思います。
澤田 守男 院長
1996年京都府立医科大学卒業。学生時代に分娩を見学し、感動して産婦人科の医師を志す。専門は婦人科腫瘍、骨盤外科。国立がんセンター(現・国立がん研究センター)、京都府立医科大学、京都第一赤十字病院で婦人科がんの研究に取り組み、京都第一赤十字病院婦人科副部長を経て、足立病院へ。2019年4月より現職。自身も足立病院で生まれたという。趣味はランニング、カメラ。