社会福祉法人恩賜財団済生会 福岡県済生会福岡総合病院
(福岡県 福岡市中央区)
定永 倫明 病院長
最終更新日:2025/09/03


100年以上命を守り続ける地域医療の要
1911年、明治天皇の済生勅語に端を発し、生活困窮者を医療で救うことを目的として設立された済生会。その「済生」つまり「命を救う」という想いのもと、1919年に「福岡県済生会福岡総合病院」が開院した。100年以上にわたり福岡の地域医療に貢献し続け、現在は救急医療と高度専門医療を両輪とした高度急性期病院へと発展し、住民の信頼を集めている。また公的医療機関として、生活困窮者に対する診療や離島医療にも積極的に取り組んでいるほか、災害拠点病院の指定を受け、DMAT(災害派遣医療チーム)を組織し活動するなど、済生の道を体現しているのが大きな特徴だ。2025年4月には、外科の医師として長年研鑽を重ねてきた定永倫明先生が病院長に就任。日々進歩する医学・医療の導入と実践に加え、効率化と院内連携を高める医療DXの推進にも尽力しているという。「地域に安心を与える病院として、職員一同真摯に務めを果たしていきたい」と決意を新たにする定永先生に、地域医療に果たすべき使命や、今後の展望などについて語ってもらった。(取材日2025年7月29日)
病院の理念と合わせ、病院長としての意気込みをお願いします。

当院は「地域社会の皆さまや先生方に信頼され、真の満足をしていただける病院づくり」という理念を掲げています。その理念を実現させるために、「済生の心で医療・福祉に貢献します」「良質で安全な医療を提供します」「救急医療を充実し、高度専門医療を推進します」「地域医療連携を積極的に進めます」という4つの基本方針を定め、病院運営に尽力しています。病院自体は福岡市・天神エリアのほぼ中心部に位置し、地域医療支援病院、三次救急医療機関、地域災害拠点病院、そして地域がん診療連携拠点病院などに承認・指定されていることから、福岡都市圏の中核を担う高度急性期病院としての機能を発揮することが私たちの使命となっています。済生という言葉には、まさに「命を救う」という意味が込められていますので、医師をはじめメディカルスタッフ一同が誇りをもってその使命を全うできるような環境づくりにも取り組んでいきたいと考えています。
高度専門医療について詳しく教えてください。

がん診療をはじめ、脳卒中や心筋梗塞といった循環器疾患診療が当院の高度専門医療にあたるのですが、患者さんの割合としては高齢の方が多く、重篤な併存疾患を持っているケースが少なくありません。そういった観点から見ると、当院はさまざまな診療科が連携できる総合病院であるため、安心して高度専門医療が提供できると考えております。新たな医療材料などデバイスが増える中、循環器診療では低侵襲なカテーテル治療を導入し、心房細動に対するアブレーション治療についても副作用の少ない技術を取り入れるなど、常に先進技術を活用しています。がん診療に関しては低侵襲の手術支援ロボットを使った手術に積極的に取り組み、大腸がんの手術については大半がロボット手術に置き換わりました。現在は大腸がんをはじめ、食道がん、胃がん、肝臓がんといった消化器外科領域と呼吸器外科領域、婦人科などで手術支援ロボットによる手術を展開しています。
救急医療に携わって約60年が過ぎました。

そうですね。1966年に救急告示病院に定められて以来、救命救急の医療体制を整備し、福岡都市圏の三次救急を担ってきました。重篤な症例にも対応できるように救命救急センターを有し、救急部を中心に複数の診療科が常時連携し、迅速かつ良質な救急医療を提供しています。2025年度からは救急救命士を新たに採用したことで、これまで以上に柔軟な救急対応ができるようになるのではないかと期待しているところです。従来、基本的に要請に応じて救急車を受け入れてきましたが、例えば近隣のクリニックに彼らを派遣して患者さんを当院に搬送するような取り組みもできるようになるでしょう。また地域災害拠点病院として地震などの大規模災害発生時の医療拠点という役割も担います。そのため医師やメディカルスタッフによるDMATを常に派遣できるよう準備するなど、万が一に備えるというのも私たちに課せられた任務の一つだと考えています。
さまざまな社会福祉活動や地域医療連携も特徴的ですね。

生活困窮者の皆さんに対する診療を推進しているほか、生活困窮者なでしこプランを展開。福岡市やNPOなどと協力して路上生活者の方を対象とした健康相談やインフルエンザ予防接種事業に取り組み、更生保護施設への定期的な健康診断を実施しています。やはり済生会設立の原点は生活困窮者を医療で救うという点にあるわけですから、高度急性期病院となった今でもこれらの活動は続けていくべきものだと思います。職員に対してもしっかりと済生の想いを伝えながら、「100年以上、地域に信頼されながら医療を提供し続けてきた」ことに自信を持ち、地域医療、そして地域の福祉のために働いてもらいたいですね。また地域医療連携は当院の基本方針の一つですが、急性期病院は入院期間が短く後方支援病院との連携は欠かせないもの。患者さんがご自宅などに戻って元の生活ができるよう、地域一丸となって取り組んでいきたいと思います。
最後に今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

病院は社会にとってなくてはならないインフラだというのが私の考えです。当院に求められている高度急性期病院としての役割をしっかりと果たすためにも、新たな医療機器など当院に必要な先進技術を積極的に取り入れる傍ら、スマートフォン端末を活用した医療DXなどにも力を注ぎ、院内環境を整備していきます。当院は地域とともに歩み、成長してきた病院です。今後も地域に安心を与えられる病院として職員一同真摯に努めていきます。しかしながら一つの医療機関でできることには限界があります。大学病院などのほかの基幹病院はもちろん、リハビリを担う後方支援病院と連携を強化していくことに加え、地域のクリニックの先生方ともコミュニケーションを深め紹介していただきやすい関係を構築し、患者さんが医療で困ることがないよう、地域全体で支える体制を整えていきたいと考えています。

定永 倫明 病院長
1990年九州大学医学部卒。九州大学病院第二外科(現・消化器・総合外科)に入職後、米・ハーバード大学に外科研究員として留学。九州大学生体防御医学研究所附属病院助手、九州大学医学部講師を経て、2008年に福岡県済生会福岡総合病院外科部長に着任。2025年4月より現職。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医。