社会福祉法人恩賜財団済生会 福岡県済生会福岡総合病院
(福岡県 福岡市中央区)
松浦 弘 病院長
最終更新日:2021/05/10
済生の精神で地域に根差した医療を展開
1911年明治天皇の済生勅語により、医療で生活困窮者を救うことを目的に設立された済生会。これをもとに「福岡県済生会福岡総合病院」は1919年に開設された。2019年に開設100周年を迎えた同院は、この福岡市天神の地で永きにわたり、地域密着の医療・福祉活動を推進してきた。生活困窮者への無料低額診療や離島診療などに積極的に参画し、済生の道を歩んできた。特に救急医療の歴史も長く1966年に福岡県告示救急病院の指定を受けて以来、救命救急の医療体制を確立し、現在では病床数380床、職員は960人で中規模ながら地域医療支援病院として福岡地区の第3次救急を担う、地域医療の中心的存在だ。また屋上にはヘリポートを設置しており、離島や県外、そして災害時などの傷病者の受け入れ体制も備える。その他、地域がん診療連携拠点病院、地域災害拠点病院にも指定されている。地域とともに成長し満足度の高い医療をめざす同院の取り組みについて、松浦弘病院長に話を聞いた。(取材日2021年3月31日)
病院の理念や職員に共通する想いについて教えてください。
当院では、「地域社会の皆さまや先生方に信頼され、真の満足をしていただける病院づくり」という理念のもと、「済生の心で医療・福祉に貢献します」、「良質で安全な医療を提供します」、「救急医療を充実し、高度専門医療を推進します」、「地域医療連携を積極的にすすめます」という4つの基本方針を掲げています。そしてこれらを実践していくため「最高の病院を目指して-地域のために、地域と共に成長する病院づくり-」をマスタービジョンに、職員一同日々の業務に取り組んでいます。職員一人ひとりが理念、基本方針、マスタービジョンを理解し自発的に行動し誇りを持って働くことが、患者さんや地域の先生にとってのより良い医療へとつながると考え、職員がやる気や能力を発揮できる環境づくりにも努めています。
急性期病院としての取り組みについて教えてください。
当院は3次救急医療機関として、主に命の危機に瀕しているような重篤な患者さんや高度医療を必要とする患者さんなどを受け入れる医療機関として、24時間365日「断らない医療」を心がけています。福岡市内でもトップレベルの救急医療を自負しており、特に循環器疾患では、循環器内科、心臓血管外科、血管外科がチームで心筋梗塞や大動脈解離などの急性期疾患を中心に幅広く対応しているほか、福岡市内では数少ないSCU(脳卒中ケアユニット)を有し、脳血管障害に対する高度急性期治療が可能です。また、福岡県の地域がん診療連携拠点病院に指定されており、がん治療センターを開設し診療科の垣根を超えたがん治療を行っています。中でも消化器系のがんと婦人科のがんには注力しており、腹腔鏡や胸腔鏡による手術から放射線治療や化学療法と組み合わせた手術まで幅広く対応しています。外来化学療法や初期段階における緩和ケアにも力を入れています。
公的医療機関の役割としてどのようなことを担っていますか?
まず、国が政策とする5疾病5事業に対する医療提供が大きな役目です。がん、脳卒中、心血管疾患、救急医療などについては、救急医療の充実および高度急性期医療の推進を行っています。次に災害医療については、福岡県の地域災害拠点病院として災害時には中心となって機能する役割を担っています。また大規模災害などの初期医療にあたるDMAT(災害派遣医療チーム)を要請に応じ、すぐに派遣できる体制を整えています。へき地医療については、福岡市の離島へ月に一度、医師や歯科医師などを派遣し診療を行っています。そして、済生会ならではと言えるものとして、生活困窮者への支援事業である「なでしこプラン」があります。これはさまざまな理由で医療サービスを円滑に受けられない方に対して、無料低額診療や健康相談などの支援を行うものです。「生(いのち)を済う(すくう)」という済生会創立の精神を受け継ぎ、今後も使命として続けていきます。
地域の他の医療機関との連携はどのように取っていますか?
当院では早い時期から地域医療連携室を立ち上げ、地域の医療機関からの紹介患者さんを受け入れる前方連携を重視してきました。地域の先生方とは定期的にカンファレンスを行い、コミュニケーションを図ることで、文書だけではない顔の見える連携を心がけています。また急性期病院にとっては、患者さんの退院後の生活を見据えた後方支援も重要です。そこで当院では、入院前から退院後のことをトータルで相談できる患者支援センターを設置しています。患者支援センターでは医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーがチームとなり、1人の患者さんを入院前からフォロー、入院する段階で退院した後に自宅へ戻るのか施設なのか、または回復期や慢性期の病院へ転院するのかを見据えた上で治療を進めています。必要に応じて医療ソーシャルワーカーからの情報や連携病院の空きベッド数の状況を参考に、スムーズな転院ができるように心がけています。
最後に今後の展望についてお話しください。
今後は「選択と集中」をテーマに、循環器疾患、がん、脳卒中などの高度急性期医療に特化し、急性期医療をこれまで以上に充実させることで地域のニーズに応えてまいります。福岡地区は急性期病院が多く、それぞれの病院が特色を持って診療をすることが重要になってきます。当院は総合病院として多数の診療科を網羅してまいりましたが、市の中心部であるこの地域の少子高齢化などの状況を考慮しながら、引き続き、当院に求められていることに応えていけるよう、急性期病院および公的病院としての役割を担いつつ、済生会としての使命を果たしていく所存です。健全な病院経営に努め、より良い組織風土の醸成・活性化により、職員の満足度と患者さんの満足度を相互に上昇させることで、われわれのめざす地域に根差した病院をつくっていきたいと考えています。
松浦 弘 病院長
1979年九州大学医学部卒業。九州大学医学部第二外科講師、ハーバード大学留学、島根医科大学医学部第二外科講師を経て1994年済生会福岡総合病院外科部長に就任する。2000年に副院長となった後、2017年より現職。専門は消化器外科。これまで多くの手術を経験しチーム医療の大切さを痛感したことから、現在は病院長としてチーム医療を推進する。ドクターとしてのモットーは一人ひとりの患者に寄り添う治療の実践。