地方独立行政法人福岡市立病院機構 福岡市立こども病院
(福岡県 福岡市東区)
楠原 浩一 院長
最終更新日:2025/03/10


子どもの未来を守る小児高度専門医療を追究
「こどものいのちと健康をまもる~すべてのこどもと家族の明るい未来を願って~」を理念とする「福岡市立こども病院」は、1980年に小児専門の高度医療機関として福岡市中央区唐人町で開設した。その後、建物の老朽化・狭隘化により、2014年に東区香椎照葉に移転。「小児高度専門医療」「小児救急医療/地域医療」「周産期医療」を診療の3本柱とし、多くの子どもの命と健康を支えている。2023年に同院院長に就任した楠原浩一先生は、小児科の中でも特に小児感染症における研鑽を積んできた専門家。その知見を生かし、後進の育成にも取り組んでいる。県内外から多くの小児患者が訪れる同院の病床数は239床。一般病棟に加え、PICU、 HCU(ハイケアユニット)、NICU、GCU(新生児回復室)も備え、ヘリコプターでの緊急搬送にも対応している。さらに院内学級を設置し、近隣の小・中学校の先生と担当医が連携を取りながら、院内で学びが受けられる体制を構築。「病院だけでは解決できないことも、関係機関と連携し、解決に努めています」とほほ笑む楠原院長に、小児医療に対する同院の姿勢や取り組みなどを聞いた。(取材日2025年2月3日)
まずは、病院の成り立ちと歴史についてお聞かせください。

当院は、1980年に福岡市中央区唐人町で「福岡市立こども病院・感染症センター」として開設されました。西日本の小児医療をカバーする高度医療機関として、難病をはじめさまざまな疾患をお持ちのお子さんが県内外より来院されています。開設以来、小児に特化した高度医療を提供する中、建物の老朽化と狭隘化が進み、2014年に「福岡市立こども病院」として移転開院いたしました。以来、「小児高度専門医療」「小児救急医療/地域医療」「周産期医療」を診療の3本柱に子どもたちの命と健康を支えています。運営で大事にしていることは「医療の安全と質の向上」。20年ほど前に「医療ミスや院内感染などのリスクを減らすために、入院期間は1日でも短くすべきである」という医療管理学の考え方があることを知りました。入院診療をはじめとする医療行為そのものが患者さんのリスクになり得ることを今も常に意識しながら、医療安全の向上に努めています。
地域における病院の位置づけと役割についてもお聞かせください。

福岡にお住まいの方への医療提供はもちろんですが、当院は九州・沖縄、中国・四国をカバーする小児周産期医療に特化した施設ですから、その点を踏まえても与えられた役割は大きく、難病も含むさまざまな疾患と日々向き合っています。救急医療でも、福岡地区を中心に多くの患者を受け入れています。福岡県においては、地域の大学病院などとともに小児周産期医療の最後の砦としての役割を担いたいと考えています。豊富な診療科を備える当院では、それらを横断するかたちで9つの診療部門を備えており、小児がんを除くほぼすべての診療領域をカバーしています。小児高度専門医療の中でも特に注力しているのが循環器疾患です。複雑な先天性心臓病の手術件数は豊富な実績を誇り、手術を希望される方が県外からも来院されます。また当院では各分野の医師の育成にも取り組んでおりますが、心臓血管外科と循環器科については全国から多くの医師が修練に来られています。
そのほか取り組んでいる手術や、病院の特徴についても伺います。

整形・脊椎外科では脊柱側弯症の手術を数多く執刀しています。また、1つの胎盤を共有する双子に血流のアンバランスが生じ、血液量の多い胎児と少ない胎児に隔たりが生じる「双胎間輸血症候群」に対し、胎児内視鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)を実施していることも大きな特徴の一つです。また、同じ疾患に対して複数の診療科でアプローチし医療の質を向上させるため、各種部門を設置しています。これも当院の特色といえるでしょう。入院施設に関しましては、全部で239床で、そのうち30床が産科になります。小児部門では、一般病棟が4つと、PICU、 HCU、NICU、GCU、計8つの病棟があります。病棟以外では院内学級を設置。近隣の小・中学校の先生と担当医が密に連携を取りながら、院内で学びが受けられる体制を構築。またヘリポートを備え、出生後間もなく心臓手術が必要な場合など他県からの救急搬送にも対応しています。
地域医療連携室はどのような役割を担っているのでしょう。

地域医療連携室はさまざまな業務を担っていますが、入院と退院時のサポートもその一つ。当院では退院後も看護ケアが必要か否かを入院前に判断し、必要な場合は入院前後からケアにおける関係各所との調整・準備を進めてまいります。病病連携、病診連携についても地域医療連携室が担当しておりますが、当院の特色から保健福祉センター、児童相談所、療育センター、子育て支援を担う行政機関や福祉機関といった医療施設以外とも連携しながらお子さんの健康を支えております。小児の場合は、虐待に対してもさまざまな機関と連携を図る必要がありますので、院内でチームを組み動いています。このような取り組みを行う中、小児周産期医療に特化した病院ということで、職員一人ひとりが誇りを持って業務にあたってくれていることを強く感じますし、医師のみならず、看護師も小児看護の研鑽を積んだ者が多く在籍しています。また、資格取得のための支援も行っています。
最後に、今後の展望や地域へのメッセージをお願いします。

少子化が進む中、少しでも安心して子どもが産める、育てていける社会にならなくてはいけないと思っています。その中で、小児周産期医療に特化した病院が果たす役割は非常に大きいと考えています。そして、地域における公的病院としての役割があります。今後も地域住民や医療機関の期待やニーズによりお応えできる病院でありたいと思っています。当院は医療安全に取り組む中で、「心理的安全性」にも注力しています。おかしいと思った時にすぐに声を上げられる職場でなければ、安全を担保できませんので、その点においても医療の安全と質の向上につなげるべく力を入れてまいります。子どもには末来の無限の可能性(open future)があり、それを守ることは、小児医療に携わる者の責務です。出張講座の「こども病院生涯学習講座」など地域との結びつきも大切にしながら、今後も多くの方へ貢献できるよう、職員一同精進してまいります。

楠原 浩一 院長
1983年九州大学医学部卒業後、同大学小児科入局。その後、米国留学、産業医科大学医学部小児科学教授、同大学病院副院長などを経て、2023年4月福岡市立こども病院院長就任。小児科の中でも特に感染症を専門とし、小児感染症や感染症診療と関わりが深い自己炎症性疾患の臨床や研究での経験を生かし、後進の育成にも取り組む。西日本における高度専門医療機関として、多くの子どもの命を救うべく力を尽くしている。