医療法人朗源会 大隈病院
(兵庫県 尼崎市)
齋田 宏 院長
最終更新日:2021/07/29
地域包括ケアを重視した診療で患者を支える
阪神本線・杭瀬駅から徒歩5分。駅前から続く商店街を進み、途中で見えてくるのが「医療法人朗源会 大隈病院」だ。杭瀬の地に移転開院してから70周年を迎えたという同院は、長く近隣の住民から愛されてきた病院である。診療の幅は広く、内科では一般内科をはじめとして、呼吸器、糖尿病、循環器、消化器などの診療を、外科では肝臓・胆嚢・膵臓・消化管を中心とした外科的疾患や悪性腫瘍などの診療を行い、外傷の処置や小手術のほか、147病床を有し2次救急医療機関として急患の受け入れも行っている。法人グループ内では、在宅事業や特別養護老人ホームの運営を行っており、医療と介護を一体化した連携体制で地域に必要とされる医療を幅広く提供。「これからの医療は、治すことだけが求められる時代ではありません。当院は病院とご自宅をつなぐ架け橋でありたい」と話すのは齋田宏院長だ。長年、尼崎市の地域包括ケアシステムの構築に尽力してきた存在で、2019年より同院の院長を引き継いだ。今回は齋田院長に、同院の特徴や地域医療にかける思いを聞いた。(取材日2021年7月8日)
病院の概要についてご紹介ください。
当院は1941年に開院し、この杭瀬の地に移転して来てから70周年を迎えました。地域の中核病院として147病床を有し、在宅療養支援病院や二次救急医療機関として医療を提供しています。診療機能では、患者さんが住み慣れた地で医療が受けられるように、内科、循環器内科、消化器内科、呼吸器内科、糖尿病内科、外科、心臓血管外科、消化器外科、泌尿器科、形成外科、整形外科、泌尿器科、リハビリテーション科、麻酔科、放射線科など数多くの診療科を設け、急性疾患から慢性疾患に至るまで幅広く対応しています。また、病気を治すだけでなく、健康診断や人間ドックの受付といった予防にも注力しており、QOL向上のための眼瞼下垂症の手術といった治療にも積極的に取り組み、患者さんが必要とされる医療の提供に努めています。また、近くにある同法人グループの歯科クリニックや診療所とも連携し、グループ全体として尼崎市民の健康を支えています。
貴院が注力している診療は何ですか?
地域包括ケアです。当院は高度成長期に必要とされた救急医療に力を入れて、地域の急性期病院として多くの患者さんを受入れてきましたが、少子高齢化が進み10年ほど前から慢性期疾患中心の診療へと変革しました。政府政策で「治す医療」から「地域全体で治し支える医療」への転換が提唱される中で、大隈病院でも、急性期病院で治療されて病状が安定してきた患者さんの受け入れも行いながら、効率的かつ密度の高い医療を行うための地域包括ケア病棟の開設や、当朗源会グループ内の在宅事業部や特別養護老人ホームなどと連携し、入院治療から在宅療養へのスムーズな医療の提供に取り組んでいます。また、その人らしく生活するということに重点を置き、いつでも安心して医療や看護が受けられるよう24時間体制の整備や在宅医療の推進を図り、「病気を治すだけではなく、患者さんの心も癒やす」という病院理念のもとに信頼される病院をづくりを志しています。
貴院が行っている具体的な取り組みについて教えてください。
病気の治療はもちろんのこと、介護や家族のお世話で困ったことがあればすぐに相談に来ていただけるような病院であることを大切にした取り組みを行っています。例えば、大学病院などに入院をして治療は終わったけど足腰の筋力が衰えてしまい、そのまま在宅療養に復帰することが難しいような方や、在宅療養をしていて一時的に入院が必要になった方などを積極的に受入れています。当院の147床の病床のうち、102床は地域包括ケア病棟、45床は療養病棟となっており、年間に受け入れる入院患者のうち、公的病院・民間病院からの受け入れが4割、外来・地域診療所・介護施設からの受け入れが6割と、地域からの受け入れが多いことを特徴としています。特に近年は地域包括支援センターからの入院依頼が増加傾向にあり、これまで当院が行ってきた地域連携の取り組みが周知され、近隣施設に根づいてきたことを意味しているといえます。
多職種のほか、行政や医師会との連携にも注力しておられますね。
独居、老老介護、引きこもり、認知症など問題を抱えている方は増えており、複雑化する中で重要視されているのが、病院、介護施設、訪問看護、調剤薬局などで働く者同士の多職種連携です。しかし、それぞれのポテンシャルは高くとも、それらを「つなぐ力」の不足はどこでも課題とされてきました。私は長年、兵庫県の地域医療再生事業計画に参画し、5年ほど前に尼崎市の医療と介護の連携センター「あまつなぎ」を発足しました。他府県では複数存在する同種センターを、尼崎市では1つと定め、方向性と窓口の明確化を実現しました。そのような事業参画の経験を生かし、当院でも病院やケアマネジャー、行政、医師会とのパイプ的役割を担い、ここ1~2年では医療介護連携のモデルケースとして多くの医療関係者が視察に訪れるほどに成長しています。今後はさらに情報共有やシステム促進、安心なセキュリティー構築を進めたいと思います。
今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。
「患者中心の医療」から「患者の生活中心の医療と介護」の提供が求められ、当院では、生活の質を高めるための円滑で密な医療と介護の連携を追求しています。ですが、それだけでは地域の人々の未来を支えることにはなりません。さらに30年後の未来を見据えて「これからの医療に求められるものは何か」ということを常に考えています。今回の新型コロナウイルス感染症の流行では、かかりつけ医の大切さが浮き彫りになりました。病気でなくても常に自分の体や心について相談できる場所は必要です。病院は地域コミュニティーの中心となっていく必要があるのだと思います。当院では、患者さんとのつながりを大切にする取り組みとして、毎月「くまちゃん通信」の発行や「おおくま健康教室」を実施しています。「自分や家族がどういった治療を受けたいのか」というような10年、20年後のことを安心して託せる病院づくりをめざしていきます。
齋田 宏 院長
1979年大阪医科大学卒業。兵庫県立尼崎病院(現・兵庫県立尼崎総合医療センター)勤務。2005年同院の消化器内科と地域医療連携の部長を兼務し、2015年に副院長就任。阪神医療福祉情報ネットワーク「h-Anshinむこねっと」や尼崎市医療介護連携支援センター「あまつなぎ」の立ち上げに参画。2019年6月より現職。日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医、医学博士。