公益社団法人日本海員掖済会 神戸掖済会病院
(兵庫県 神戸市垂水区)
藤 久和 病院長
最終更新日:2021/10/27
健康寿命を延ばすべく脳と心臓疾患に注力
JR神戸線の垂水駅からバスで約10分、海が臨める絶好のロケーションにある「公益社団法人日本海員掖済会 神戸掖済会病院」。1914年11月に現在の元町近くに開設し、神戸の街の発展に医療の面から大きく寄与してきた同病院は、今や12の診療科と325床を擁する病院となり、垂水区や西区など神戸市の医療を支える存在となっている。救急搬送の受け入れ数も多く、早くから脳卒中や循環器疾患治療にも取り組んできた。緊急カテーテル治療や不整脈に対するアブレーションといった急性期の診療はもとより、高齢社会で急増する心不全や合併症を持つ循環器疾患の患者にも対応するため、周辺地域のクリニックや療養施設との連携推進や、多職種でチームをつくって診療にあたるなど、さまざまな工夫をしている。「地域のニーズに合った医療を提供することが当院の使命」と語るのは、2020年より病院長となった藤久和先生。自由度が高く、個々のスタッフが能力を発揮しやすいという同院らしさを生かした病院運営に取り組む藤病院長に、診療の特徴や今後の展望について聞いた。
(取材日2021年8月19日)
病院の成り立ちと歴史、基本理念について教えてください。
日本海員掖済会は、わが国の海運の草創期に船員の養成とその保護を目的として、日本各地の港に設立された「海員寄宿所」の医療事業が前身となっています。中でも当院は港町神戸を支えるべく、1914年に開院しました。2001年には垂水区に移転し、2013年のICUの開設や2015年の地域医療支援病院の指定など、その必要性や認知度も徐々に地域へ広がりを見せています。そもそも「掖済」とは「助け救う」という意味です。基本理念には「掖済の精神に基づき、社会すべての人々に対し人間愛に満ちた心優しい医療を提供する」とあります。法人内では、若手医師の育成などの交流以外に、非常時の人財派遣や震災時の支援などを行い安定した医療提供に努めているほか、その地域ごとの特色やニーズを捉えた診療体制を整え、施設基盤の強化や人材の育成に力を注いでいます。
地域医療における病院の位置づけと役割について教えてください。
当院は、垂水区および西区を中心に神戸市の急性期を支える第2次救急病院です。比較的都市部と思われる神戸市ですが高齢化は顕著で、救急の出動件数は多く、増加傾向にあります。当院でも地域に貢献するべく救急医療に注力し、神戸市の中でも非常に多くの患者を受け入れています。また、人口の比率の変化により地域の医療ニーズは、より高度で先進的な医療を求められるケースから、緩和を目的とした医療を希望されるケースまで多様化しています。従来のように1つの病院内だけで完結する医療は、もはや意味をなさず地域のニーズにも合わないと思います。そこで当院では、急性期で入院された患者さんが慢性期や療養期も安心して過ごせるよう、地域の高度急性期病院やクリニック、医師会、行政、介護ヘルパーさん、ケアマネジャーさんなどとの密なネットワークを構築し、多様な状況に応じた医療やリハビリテーション、介護を提供できるように努めています。
診療の特色と力を入れている診療分野について教えてください。
2019年12月に施行された脳卒中・循環器病対策基本法の指針からも循環器内科と脳神経外科に関しては注力しています。健康寿命の延伸や医療介護費用の削減には、脳卒中や心臓疾患予防の推進が欠かせません。急性期治療の強化とリハビリテーション治療の充実で、将来的な寝たきりや認知症患者の減少をめざし、QOLを改善して豊かな生活をサポートしていきたいと考えています。例えば、1秒の遅れも許されない脳疾患治療に対応するため、当院では脳神経外科から毎日1人以上の医師が必ず当直しているほか、CTやMRI、血管撮影装置といった装置はそれぞれ2台整備するなど、治療が迅速に開始できる体制を整えています。また、循環器内科では急性期の治療はもちろんのことリハビリテーションなども含めた総合的な治療計画づくりに、医師や看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士など、多職種が連携したチーム内で話し合って取り組むようにしています。
貴院が医療を提供する上で重要視されていることは何ですか?
組織としての安定性と持続性です。永続的に医療を提供するには、足腰の強い病院でなければならず、その実現には人財の確保が必要不可欠です。引退前の高齢医師や子育てなどで休んでおられた女性医師の活躍の場を広げるとともに、若手医師も働きやすいワークライフバランスが取れる新たな制度や働き方改革などを進めています。具体的には、2人主治医制を導入し、患者さんの受診のしやすさを図るとともに、当直は夜勤と同じ扱いにしてしっかりと休める体制を整えました。このように全スタッフのパフォーマンス維持を追求することで、患者さんには安定した医療をお届けできると考えています。私は、当病院の長所は自分が理想とする医療を追い求めることができる、自由度の高さにあると思います。伸び伸びと仕事ができるといった特長は看護師の定着率の高さからも推し量ることができ、今後も柔軟な院内の雰囲気を大切にしていきたいと思います。
最後に、地域の方へメッセージをお願いいたします。
当院は垂水区内でも大きな急性期病院の一つです。脳卒中や心筋梗塞などの急性期対応に関しては数多く対応しており、その実績は地域でも指折りだと自負しております。しかし、高度急性期医療を担う病院のようなネームバリューはなく、まだまだわれわれの努力が必要だと感じています。2017年に地域包括ケア病棟を設置、2020年4月より日本海員掖済会は一般社団法人から公益社団法人となりました。より一層の公益性を重視しながら、地域の中で継続的に医療を提供できる体制を強固なものにしていきたいと考えています。当院の強みである急性期を中心とした救急や整形外科のほか、循環器内科、脳神経外科分野はもちろん、ほかの診療科においても、地域の皆さまに愛され、「神戸掖済会病院があるから大丈夫」と頼っていただける病院をめざし職員一丸となって頑張ってまいります。
藤 久和 病院長
1987年岩手医科大学卒業後、循環器内科に魅力を感じて大阪大学医学部附属病院に入局。その後、同大学大学院に進み1992年修了。桜橋渡辺病院、大阪警察病院で虚血性心疾患や末梢血管疾患など血管内治療を行うエキスパートとして数多くの手術や治療を手がける。1998年から神戸掖済会病院に勤務し、2020年4月に病院長就任。「臨床現場が生きがい」として、現在も外来を担当する情熱家。兵庫県淡路島出身。