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医療法人神甲会 隈病院

(兵庫県 神戸市中央区)

赤水 尚史 院長

最終更新日:2024/09/25

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患者や社会へ還元できる甲状腺診療をめざす

阪急電鉄神戸高速線花隈駅の西口から山側へ進むと、丸みを帯びたガラス張りの外観が特徴的な「医療法人神甲会 隈病院」が見えてくる。隈鎮雄初代院長が1932年の開院当初から甲状腺診療に取り組み、隈寛二2代目院長の時代には本格的な甲状腺専門病院へとシフト。甲状腺疾患特有の経過や心理的な負担にも目を向け「患者の人生に寄り添う治療」を実践し続けてきた。その後2001年から20年にわたり同院を率いた宮内昭3代目院長は、自ら「甲状腺微小がんの積極的経過観察」を提唱するなど、病院全体で新たな治療法の開発や研究にも注力。甲状腺診療に特化した人材と診療環境が生み出す質の高い治療を提供する同院には全国から患者が受診し、また活発な学術活動で国内外の甲状腺診療をリードする病院の一つでもある。そして2022年4月には、内分泌診療を専門としてきた赤水尚史先生が4代目院長へと就任。同院の文化である「患者中心の医療」を追求することが「専門病院として果たすべき役割と使命」であると語る赤水院長に、同院の診療の特色や将来展望を詳しく聞いた。(取材日2021年12月14日/更新日2022年4月1日)

最初に、診療方針や診療のシステムについてご紹介ください。

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当院では、結節性甲状腺腫や甲状腺がんなどの甲状腺腫瘍、バセドウ病・橋本病などの甲状腺機能亢進症や低下症、甲状腺中毒症といった、あらゆる種類や世代での甲状腺疾患、さらに副甲状腺や乳腺の診療も行います。治療法も抗甲状腺薬などの服薬、アイソトープ治療、手術と多岐にわたり、患者さんの経過に応じてある時期には服薬や経過観察を行い、またある時点では手術が必要になることもあります。そこで当院では以前から内科や外科という診療科にこだわらず、「院全体で情報を共有して個々の患者さんを診る」という方針をとっています。外科の医師が担当する手術でも、全診療科の医師や看護師、さらにコメディカルスタッフや事務職まで参加できる術前カンファレンスが開かれ、例えば治療経過を知る内科の医師や、病理診断科の医師との意見交換が活発に行われます。「隈病院」という専門家チームで「患者さん中心の医療」に取り組んでいます。

甲状腺の診療では、検査が重要な役割を担うそうですね。

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甲状腺ホルモンはごく微量の変動でも病態に大きく影響しますし、甲状腺の腫れや悪性腫瘍ではサイズが診療方針を左右します。1日平均約600人(2021年1月~2022年3月)の患者数を受け入れる当院では、毎日多くの血液検査や超音波検査を行っています。そこで、検査結果を高い精度で迅速に出せるよう、検査を主に担当する臨床検査技師は専門的なトレーニングを積み、高水準の検査レベルを保持しています。血液検査の分析機器も新しい機種を導入し、検査値に異常があれば別メーカーの分析機器で再検査を実施。また画像検査のレポートは医師によるダブルチェックを行います。診察後に新たな検査が必要になっても多くは当日中に追加検査や再検査の結果が出ますので、診断や治療方針の確定に至ります。受診される多くの外来患者さんに対応できる検査環境があり、さらにヨウ素摂取率検査や穿刺吸引細胞診など専門的な検査ができることも当院の強みです。

患者さんが抱える負担には、どのように対応していますか。

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まず、通院回数自体をなるべく減らしています。検査において質とともにスピードを重視しているのは、初診の患者さんであってもなるべく1日で検査から診断、治療方針の決定、お薬の院内処方まで終えてもらうためです。ただ、受診日には院内で長時間過ごしていただく場合もありますので、患者さんには受付の際に専用端末をお渡しして検査や診察へ効率よくご案内し、その他の時間は院内のカフェなどで自由に過ごしてもらえるようにしています。再診の患者さんは院内の機器やインターネットから次回の予約もできます。また、バセドウ病などの甲状腺疾患ではホルモンの変化やストレスで精神症状が出やすく、がんの治療では心理的な負担も大きいです。このため、当院の外来では精神科の診察を行うほか、臨床心理士によるカウンセリングや患者同士でのおしゃべり会など「心を大事にする」場も設けており、広くご利用いただけます。

活発な研究活動や情報発信でも、注目されています。

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当院には甲状腺診療に熱意を持つ医師が多数在籍し、膨大な症例や活発な議論をベースにしながら、質の高い研究を行える環境があります。これまでにも、3代目院長の宮内先生が提唱した「甲状腺微小がんの積極的経過観察」をはじめ、声を守るための術中神経モニタリングなどの新たな治療法が開発され、各国のガイドラインやテキストで採用されるなど、世界中で臨床応用されています。そして、今後の甲状腺治療では遺伝学的検査や分子標的薬を用いた治療、精神症状の治療、眼症状への対応など、個々の患者さんの症状に合わせた「個別化医療」がより必要になると考えます。多様化するニーズに応えるためにも、医師がそれぞれの長所や個性を生かし、追求するテーマについて自発的に研究できるような体制を構築していきたいですね。また研究の成果は学会や論文を通じて広く共有し、多くの患者さんに役立てていただくことが重要です。

最後に、これからの展望と抱負をお聞かせください。

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「患者さん中心の医療」という当院の理念は、これからも大事になると考えています。それぞれの患者さんの症状や心、生活に寄り添える「個別化された医療」を「総合的な診療体制」、つまり診療科や職種を越えた多くの人の手でこまやかに提供することが、当院がめざす「最良の医療」であると思うからです。そのためには、先端の医学や医療を積極的に取り入れ、臨床的な研究の推進も必要です。甲状腺診療には、バセドウ病の眼症状や悪性度の高い甲状腺未分化がんなどまだ十分な治療法が見出せていない課題もありますので、研究を進めていければと考えています。このような取り組みが新たな治療法につながり、毎日の診療へ迅速に還元する。さらに、最終的には世界中の患者さんに喜んでもらえることが、当院の社会的な使命であり役割であると考えています。

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赤水 尚史 院長

1980年京都大学医学部卒業。同大学医学部附属病院や神戸市立中央市民病院など関連病院で内分泌疾患の診療・研究に従事し、米国国立衛生研究所(NIH)留学などを経て2007年京都大学医学部附属病院探索医療センター教授、2010年より和歌山県立医科大学内科学第一講座教授。隈病院へは2020年に副院長として着任し、2022年4月より院長に。和歌山県立医科大学名誉教授。

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