医療法人財団 神戸海星病院
(兵庫県 神戸市灘区)
井上 信孝 理事長
最終更新日:2024/12/03
時代の先を読み、先進的医療を提供し続ける
六甲山麓にある閑静な住宅街にたたずむ「神戸海星病院」は、150年にわたって地域住民の健康を支えてきた歴史ある病院だ。2006年に完成した新病棟は、雄大な外観と明るくスタイリッシュな空間が美しく印象的。長い歴史の中にはカトリック系団体が経営母体を担っていたこともあるそうで、院内のあちこちにはマリア像の姿も見られ清廉な雰囲気も漂っている。現在は地域の急性期から慢性期までの医療を支え、一般病棟116床、地域包括ケア病棟60床を有する。2023年4月に就任した井上信孝理事長は、病院について「職員は当病院に誇りをもって勤務し、患者さまのためと愛ある心で診療しています」とほほ笑む。その後の改編で残念ながら産科はなくなってしまったものの、現在は、整形外科・眼科・循環器内科を中心に幅広い診療科を設け「愛と奉仕」の精神で診療にあたっている。今回は、時代によって姿を変えながらも、こだわり続ける医療の質やホスピタリティーについて、詳しく話を聞かせてもらった。(取材日2024年11月1日)
こちらの病院の成り立ちや基本理念について教えてください。
当院は、1871年に「神戸万国病院」という名称で、神戸に居住する在留外国人のための病院として創立されて以降、長い間地域に根差した医療を提供してきました。1871年というと、ちょうど廃藩置県が行われ、郵便事業が開始した年。郵便といっても、まだ東京と大阪間を78日かけて飛脚が運んでいた時代のことです。その後、戦災での倒壊など大きな困難に見舞われる時もありましたが、患者さまやそのご家族、地域の皆さまに支えていただき、2021年には創立150周年を迎えることができました。このように振り返りますと、私たちの使命は地域医療と国際医療に貢献し続けることと考えています。当院の基本理念は「愛と奉仕」です。それは、何らかの形で相手の幸福に貢献することではないかと思います。「All for Patients」、すべては患者さまのためにという姿勢で、愛と奉仕の理念のもとに取り組んでいきたいと思っています。
病院の地域での役割について、お聞かせください。
これまで私たちは地域の皆さまのための病院として、地域ニーズにお応えしながら、進化し続けてまいりました。1960年代初めの高度経済成長時代には、当時まだ珍しかった計画分娩の構想を導入。現在は残念ながら産科はなくなってしまいましたが、数多くの分娩に対応しました。また1972年には、眼科の山中昭夫先生が赴任され、当時まだ普及していなかった白内障の手術を兵庫県の中でも早期に実施しました。今も難症例や希少疾患の手術など眼科は当院が力を入れる診療科の一つです。また、2018年には手術ロボットを導入。関節手術では、現在も数多くの手術実績を重ねています。私たちには、先進的な治療を積極的に取り入れてきたという自負があります。今後もその姿勢は変えずに、患者さまを中心とした医療を提供し、地域に必要とされる病院をめざしていきたいと考えています。
今後の医療はどういった方向に進んでいくとお考えですか?
社会構造の変化に伴い、疾患の構造も変化していくでしょう。そのため、病院には診療における総合力が必要不可欠だと考えています。日本の平均寿命は大きく伸び、100歳以上の高齢者が急増し、一方で出生率は過去最低を年々更新と、日本は「超高齢社会」となりました。中でも高齢者の独居の増加が顕著で、特に神戸市は全国的に見ても独居世帯率が高い地域の一つとなっています。高齢者の一人暮らしで難しいのが健康管理です。これまで多かった急性心筋梗塞や胃がんは減少傾向になる一方で、認知症や肺炎、心不全、腎臓疾患、脳卒中、うつ病などの病気や転倒骨折は増加すると予想されています。また高齢者は複数の疾患のある人やいくつもの疾患を抱えている人が多いため、単一の診療科のみでの対応は困難になると考えられます。診療科間での協力を強固にし、多職種が連携した診療を展開していく必要があると感じています。
具体的に取り組まれていることはありますか?
今後、急増が懸念されている病気の一つが心不全です。当院では早くからその再発防止に力を注いできました。慢性心不全による入退院の繰り返しは体力を衰退させ、フレイルやサルコペニアなどを増やすだけでなく、独居や老々介護といった社会問題も増加させると予想されています。医療は慢性心不全だけを治療するのではなく、多様な疾患や社会問題に対応するため、多職種チームによるアプローチが必要になってくるでしょう。そこで当院が取り組んでいるのが、心臓リハビリテーションです。個人では回復が難しい心臓のリハビリを医師、看護師、理学療法士、栄養士、薬剤師、臨床検査技師などのスタッフが多面的にサポートします。また孤独感による抑うつ状態は心不全の危険因子とされていますので、慢性心臓疾患に対する専門知識を持った看護師による外来でのサポートもスタートしました。体も心をケアすることで心不全の再発予防につながればと考えています。
最後に、地域の皆さまにメッセージをお願いします。
当院は、地域の方が身体的に、精神的に、社会的にも良好な状態で過ごせるウェルビーイングな病院をめざしていきたいと考えています。在宅医療や訪問介護の需要が高まる中、院内にとどまらず地域の開業医の先生方や介護・訪問看護ステーションとの連携強化にも注力してまいります。また地域の皆さまが健康により一層目を向けていただけるよう、市民公開講座、市民スポーツ講習など幅広い方に向けた勉強会やセミナーもこれまで以上に開催していきます。2023年4月に理事長に就任し、職員やスタッフから数多くの意見を頂戴し、医療連携の推進、業務の効率化、改善など、スピード感をもって対応してきました。今後も地域にとって必要とされる病院であり続けるために、そして皆さまの幸福に貢献できるように、先陣を切って進んでまいりたいと思います。
井上 信孝 理事長
1986年山口大学医学部卒業。六甲病院での内科研修を経て、国立神戸病院内科や神戸大学医学部附属病院にて勤務。循環器内科を専門として、1993年米国エモリー大学に留学し先進の医療研究に従事。2005年国立循環器病センター研究所脈管生理部室長を務める。2009年神戸労災病院循環器内科部長、副院長と歴任した後、2023年4月より現職。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医。