公益財団法人林精神医学研究所 林道倫精神科神経科病院
(岡山県 岡山市中区)
林 英樹 院長
最終更新日:2025/10/22


精神科救急医療から地域生活までサポート
統合失調症、アルコール依存症、認知症、うつ病、発達障害など、精神疾患全般の治療を行い、精神科救急医療から地域生活支援までトータルにサポートする「林道倫精神科神経科病院」。その歴史は、精神医学者として日本の精神医療に貢献してきた林道倫(はやし・みちとも)氏が、岡山大学学長を退官後の1952年、「林精神医学研究所」と「林道倫精神科神経科病院」を設立したことから始まる。時代に合わせた精神医療を実践する中、1986年にはアルコール依存症病棟を開設。岡山市の「依存症専門医療機関(アルコール健康障害)」の選定を受ける。そのほか、精神科救急医療の入院を受け入れる精神科救急急性期医療病棟、高齢者合併症病棟を設け、在宅医療ではデイケアや訪問看護・障害福祉まで幅広く充実した精神医療を提供。「その人らしく生きられるよう共に支えあいます」を理念に掲げ、多職種によるチーム医療を実践している。長年にわたり同院の診療を担ってきた林英樹院長は「われわれは患者さんを応援し支えるサポーターです」と穏やかに話す。そんな林院長に、同院の元気で明るいスタッフ文化、診療方針、地域における役割について話を聞いた。
歴史のある病院と伺っています。

当院は、岡山大学長を退官した林道倫が、67歳の時に開設した精神科神経科の専門病院です。1952年の設立当時、精神科医療は十分な治療法が確立されていない時代でした。その中で「治療的な病院」をつくることが林先生のテーマでした。退官後に私財を投じて研究所と付属の精神病院を設立し、80代半ばまで診療を続けられました。その後、1976年に南雲與志郎(なぐも・よしろう)先生が院長に就任。林先生の「ここを理想的病院の範としたい」という創立の理念を引き継ぎ、入院・外来の医療に加え、社会復帰活動、デイケア、訪問看護までの流れを確立しました。2002年に私が法人理事長を拝命した頃、精神医療は「医学モデル」から「生活モデル」へと移り変わる時期でした。そこで、アルコール依存症や認知症の方のためのデイケア施設、グループホームや作業所を開設し、在宅で生活を支えるための「居場所づくり」にも力を入れるようになりました。
こちらの病院の特徴、地域における役割を教えてください。

先ほどお話ししたように、2000年代から、精神医療全体が「患者さんが何を希望しているか」「どんな生き方をしたいか」を中心に据え、それを私たち医療従事者と関係機関がサポートしていくという考え方に変わってきました。この考え方は、当院の理念である「その人らしく生きられるよう共に支えあいます」にも通じています。われわれ医療者は、常に患者さんのサポーターです。中でも、家庭や地域、施設では対応しきれない急性期の激しい精神症状が出たピンチの時、入院を受け入れることは精神科病院の非常に大事な役割だと考えています。以前から夜間、休日を含め、365日の受け入れをめざしてきましたが、2025年の1月にその整備が完了しました。現在は、精神科の救急患者に対して、多職種が協力して集中的な治療を行う急性期の救急医療体制を整備。不安定な時期に集中的な治療を行い、できるだけ早く元の生活に戻すことをめざしています。
特に注力されている取り組みについて教えてください。

今年策定した5ヵ年計画では、2つのことを明確にしました。1つは精神科の救急医療、そして、もう1つは「地域密着多機能包括型病院」としての取り組みです。デイケアやナイトケアを通じて患者さんを支え、長期入院患者さんを地域で受け入れるため、福祉機関や訪問看護ステーション、行政などと協力。精神保健福祉士、作業療法士、公認心理師、薬剤師など多職種で関わりながら医療を提供することが発展の柱です。入院された患者さんに対しては、診断後、薬物療法などに取り組み、多職種で関わりながら、退院時期を目標設定します。その間、リハビリテーションや病気について学ぶ心理教育も行います。自己管理の方法や再発防止について学んでいただくことで、退院後の生活につながります。金銭管理や掃除、薬が飲めないなどの問題を抱えている人に対しては訪問看護師が定期的に訪れてサポート。ヘルパーさんや買い物代行などのサービス調整も行っています。
地域にとってどのような病院でありたいとお考えですか?

「公平で平等な医療の提供」を信念としている当院では、「無料低額診療事業」にも尽力しています。まず一つは差額ベッド料は頂かないということ。これは長年実践してきた「過度なご負担をかけない」という考え方です。もう一つは無料低額診療事業です。経済的に困っている方が、「受診できない」「治療が滞ってしまう」ということがないよう、経済状況に合わせて費用面での相談に応じています。また、当院には2つの外来があり、病院のほうは6時にドアが開くのですが、私が出勤する7時には、外来患者さんが集まって和気あいあいとお話しされています。当院が、そのような患者さんの「よりどころ」であってほしいと思いますね。2003年に開設したクリニックも、現在、当院の外来診療部門として機能し、気軽に受診される患者さんも増えました。また近年は、地域の精神科クリニックから紹介された患者さんのカウンセリングやデイケアにも対応しています。
最後に、今後の展望をお聞かせください。

岡山市内には、素晴らしい病院があり、充実した医療環境が整っています。しかし、岡山県内の東側や北東の地域は、精神科の医療施設が十分とは言えません。これらの地域で当院が何かできることはないかと考えており、今後は地域と連携して、市内と同じような医療を受けていただける環境の整備にも力を入れていきたいですね。当院には、とても優秀なコメディカルが多く、彼らは患者さんのために「こうしてはどうですか?」「このように考えているのですがどうでしょう」と、いろいろ提案してくれます。運営側が考えていないようなアイデアを伝えてくれることもあり、元気で明るいスタッフには本当に感謝しています。当院が脈々と受け継いできた「言いたいことが言える」という文化は、これからも大切にしていきたいと思います。そして、今後も精神科救急医療を担う病院として、地域生活を支えるサポーターとして、病院全体で力を尽くしていきたいですね。

林 英樹 院長
1984年高知医科大学(現・高知大学医学部)を卒業。1987年「林道倫精神科神経科病院」に入職し、1999年副院長、2002年理事長、2004年院長に就任。患者を支えるサポーターとしての役割にやりがいを感じ、長く精神医療に携わる。精神救急医療から地域生活支援まで幅広く尽力。日本精神神経学会精神科専門医、精神保健指定医。著書に『家族をアルコール依存症から守る本』がある。





