愛知県厚生農業協同組合連合会 足助病院
(愛知県 豊田市)
小林 真哉 病院長
最終更新日:2023/08/31
将来30年先の医療を照らす地域医療を
愛知県屈指の紅葉の名所「香嵐渓」に抱かれるようにして立つ、「足助病院」。名鉄三河線の猿投駅からバスに揺られて30分。濃い紫色の建物は、巴川が流れる自然豊かな風景に溶け込むようにたたずんでいた。香嵐渓の紅葉、小さなかたくりの花、水墨画のような雪景色、そんな地域の風景写真が受付の壁にも表現されている。自然豊かな魅力がありつつも、中山間地域ならではの少子高齢化や交通弱者の存在は問題として浮かび上がる。就任5年目の小林真哉病院長は、「地域コミュニティを活性化しながら、地域住民の方々が『終の住処』を永続できるよう『想い』のこもった医療・福祉・介護を提供しています」と話す。白衣の背中にも「聴心する足助想診」というキャッチコピーを刺繍し、日々、その意識を心に刻みながら病院運営をする小林病院長。病院を中心に地域全体を活性化していこうと熱い思いを抱く小林病院長に、病院の理念や取り組みについて詳しく聞いた。(取材日2023年7月13日)
病院の歴史と地域の特徴について教えてください。
1950年、足助町に内科と外科の病院として開設されたのが始まりです。1966年に現在の場所に移転し、少しずつ改築工事を進めながら規模を広げ、2013年にリニューアルしました。建物の色は黒に見えるかもしれませんが、深い紫色です。威圧感を与えず周囲の自然に溶け込める色として、前病院長である早川名誉院長が選びました。現在は、一般病床100床、地域包括ケア病床48床、要介護者の長期療養・生活のための介護医療院42床の病棟に加え、訪問看護ステーションや在宅介護センター、通所リハビリステーションを併設しています。山間に小さい集落が点在し、医療範囲の大部分が中山間地域です。高齢化と人口減少が進むこの地域で、へき地拠点病院としてへき地診療所への医師派遣や巡回診療、研修医の教育などに励むとともに、福祉、介護とも連携する病院が地域コミュニティの中心となれるよう、さまざまな取り組みを行っています。
病院がなぜ地域コミュニティの中心となる必要があるのでしょう?
地域住民の健康、幸福寿命延伸のためには、まず地域を元気にすることが必要。年齢問わず、誰もが利用する病院だからこそできる地域貢献があると思います。当院は「自助、共助、公助し、想い寄り添う医療」を理念に掲げています。「共に集い、近助する福祉・介護」とも。病院が単に医療を受ける場としてだけではなく、地域住民が集う場であり、助け合いの絆を結ぶ場になるのが理想。実際に、当院の中庭小ホールではご近所さん同士がテーブルを囲んでお茶を飲んだり、バスを待つ高校生が談笑したりしていますね。住民同士のコミュニティが活性化し、地域全体で高齢者を助けていければという思いで「『終の住処』を支える病院」という目標を、病院運営の柱の一つにしました。「住み慣れた場所で最後まで暮らしたい」という願いの実現のため、在宅医療など併設施設も含めた地域全体で、最後の最後までお世話をする。そんな思いで日々、皆さんと向き合っています。
病院運営の柱には、他にどんなことを掲げていますか?
「教育の場としての病院」と「防災拠点としての病院」です。教育の場としては、年間約70人の初期研修医がへき地医療を学びに来ます。高齢化が進む地域のためか、患者さんも若い医学生には寛大で、笑顔で迎えるという地域性があるようですね。医学生だけでなく、高校生の職場体験としてコメディカルの仕事ぶりを見てもらったり、地域の学校で出前授業を行ったり、高齢者に向けた医療や福祉の講演会を行ったりと、子どもから高齢者まで地域住民すべてが学べる場を提供しています。また近年多発する自然災害は医療と切り離すことはできず、「防災拠点としての病院」は地域医療には欠かせません。この地域でも、豪雨で道路が寸断されて帰宅困難になることもあります。私が持つ気象予報士と防災士の資格も利用して「気防健究会」を立ち上げました。「終の住処」として安心して暮らせる街づくりに貢献するため、職員仲間とともに知識を広め、啓発活動をしています。
今後の新しい医療の実現に向けた取り組みはありますか?
豊田市・次世代モビリティ・協業ネットワークに参画しています。当院が行政や福祉との連携にも力を注いでいるからこそ、声をかけていただきました。これは、空飛ぶクルマの開発や製造、運航サービスなどを行うベンチャー企業をはじめとした市内企業同士の協業を促すネットワークであり、豊田市の新たな地域産業です。もともと当院では施設設備点検や広報活動、防災活動に小型の撮影ドローンを使っていましたが、物流ドローン構想が地元にあることに縁を感じました。医療、福祉、介護の現場でどう利用していくかを検討し、災害支援も視野に入れた活用をめざし、すでに医療・介護用品や食料品を空輸する実証実験も進んでいます。この空飛ぶクルマで、病院長在任中に訪問診療ができたらいいなと未来を想像してわくわくしていますね。
最後に、この地域の方々へのメッセージをお願いします。
体力気力の低下や免許返納など、老後の不安は尽きないと思います。「終の住処」を支える病院として訪問診療も今後増やしていきたいと思っていますが、出かける用事がない状態も認知症や足腰の弱りにつながるので、病気でなくても病院のイベントに足を運んで積極的に出かけてください。急性期医療の中でも、心血管障害などで高度医療が必要な方には豊田厚生病院やトヨタ記念病院に紹介していますし、熱中症などで短期入院で回復できるようであれば当院でも十分対応できます。高齢の方からは「住み慣れた地を離れたくない。足助病院でできることだけでいいんだわ」という言葉を聞くことも多いです。在宅医療についても、被介護者だけでなく介護者も安心して暮らせるよう心配りができるのが当院の魅力。どんなステージの方でもその人が望む医療を届けられるよう、そして「足助病院」があって良かったと思っていただけるよう、病院と地域で支えていきます。
小林 真哉 病院長
1992年名古屋市立大学医学部卒業。岐阜県立多治見病院の消化器内科などで研鑽を積んだ後、名古屋市立大学病院で基礎研究に携わる。2004年足助病院内科に赴任し、副病院長を経て2019年より現職。日本消化器病学会消化器病専門医で、総合診療や老年内科も担当。気象予報士と防災士の資格を持つドクターとして講演も多数。前病院長の退任祝賀会のために初めて習い、演奏したサックスが趣味となり、病院ライブもこなす。