春日井市民病院
(愛知県 春日井市)
成瀬 友彦 院長
最終更新日:2021/02/12
多くの笑顔をプレゼントできる病院をめざす
尾張北部の中核都市、春日井市とその周辺地域の基幹病院として、救急疾患、がんをはじめ、幅広い疾患の患者を受け入れる体制を整える「春日井市民病院」。急速に高齢化する地域の状況に対応し、近年は地域の医療機関との連携診療の体制づくりやACP(アドバンスド・ケア・プランニング)の普及にも努めてきた。2019年に院長に就任した成瀬友彦先生がめざしているのは、「患者さんやご家族に笑顔をプレゼントできる病院」だ。57歳と若く、はつらつとした成瀬院長は、フランクで親しみやすい人柄。その話からは地域医療への熱い情熱が伝わってくる。同院の特徴や今後の展望を余すことなく語ってもらった。(取材日2020年12月18日)
病院の歴史や地域の中での役割を教えてください。
当院は1951年に内科、外科を有する42床の病院としてスタートしました。1998年には現在地に新病院を建設。552の病床とほとんどの領域をカバーできる22の診療科を持つ地域の基幹病院となりました。人口約32万人の春日井市と周辺地域を中心に診療していますが、住民の方々には「困ったらとにかく当院に来ていただければ、解決法が見つけられます」と説明しています。中には当院で高度な治療を提供できないケースもありますが、そんな場合でも断らずにきちんと診断し、大学病院など適切な施設にご紹介しています。また春日井市は東部にある大規模ニュータウンの住民の多くが高齢者となり、医療需要が急速に増加しつつある地域です。例えば、当院では多数の患者さんに人工透析を導入していますが、それはやはり高齢者の数が多いことを反映しています。ですから、高齢者に多い病気はしっかり診療できる体制を整えています。
地域のクリニックとの連携に力を入れているのですね。
当院で手術などを行った後も継続的な治療が必要なことが多いので、かかりつけ医との連携が重要です。10年前には当院の紹介率、逆紹介率はともに50%を超える程度でしたが、その後地域の医療機関との連携を推し進めて地域医療支援病院となり、現在は紹介率80%、逆紹介率は100%以上です。なぜ100%を超えるのかといえば、紹介以外の患者さんも病状が落ち着いた段階で、近くで診ていただけるかかりつけ医の先生に紹介しているからです。かかりつけ医と当院の両方で診る体制ですから、患者さんも安心できるのではないでしょうか。当院と連携する医療機関は医科、歯科合わせて約400施設ありますが、年1回の連携先の先生方との懇談会や各医院の個別訪問などにより、顔の見える関係を築いています。懇談会では医学の話題だけではなく出席者の出身高校やクラブ活動などの資料も配布します。そんな話題のほうが話が弾むんですよ。
他に、院長として力を注いでこられたことは何でしょうか。
救命救急センターで「受け入れを断らない」救急医療を実践することです。年間数多くの救急車を受け入れていますが、当院の救急応需率は、昨年度最高99.1%、平均97%に達しました。これはスタッフの努力の賜物だと思います。ときには5分間に救急車が3台来ることもありますが、それでも「断らない」姿勢を貫きました。断った場合は、院長に理由を述べなければならないルールにしてありますから大変だと思いますが、市民の信頼は得られたと自負しています。救急医療の貴重な戦力は20人の研修医です。受け入れ件数が多い分、1人あたりの負担は大きくなりますが、募集する段階でそのことは話していますから、忙しいのは覚悟のうえで救急を学ぶ意欲のある研修医が集まってくれています。当院で研修を受けて巣立ち、また戻ってきてくれた医師も多いんですよ。
がん患者さんを支える取り組みで、何か特徴はありますか。
ACP(アドバンスド・ケア・プランニング)という言葉をご存じでしょうか。将来、人生の最期をどう過ごしたいか、どんな医療やケアを受けたいかを本人、家族、医療者が話し合っておく取り組みです。当院はACPが広く知られる前の2015年から取り組みを開始し、現在では院内だけで100人以上のACP相談員がいます。がん患者さんに限らず、ご高齢の方や重い病気を持つ方に人生の最終段階のご希望を聞き、それを実現するお手伝いをします。さらに現在はACPを地域に広げる活動もしています。がんの末期患者さんが静かに最期を迎えたいと希望されているのに、救急の現場で蘇生処置をしてしまったようなことも報道で伝え聞きますので、地域全体でACPを共有するような仕組みをつくりたいと思っています。終末期医療をどのように行うかはどの病院も悩んでいる問題ですが、県内のいくつかの病院が当院のACP同意書を参考にしてくださっています。
今後の展望と住民へのメッセージをお願いします。
当院は2022年5月の完成をめざし、新棟を建設中です。春日井市は宅地開発により若い住民も増加してきていますが、そこで重要になるのは小児医療、中でも増加するアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどへの医療体制です。新棟には小児アレルギーセンターを設置し、診療経験豊富な小児科医師、皮膚科医師に加え栄養士も配置し、尾張地区では初めてとなるアレルギーの診療拠点にしたいと思っています。その他手術支援ロボット、エックス線で透視しながら外科手術が行えるハイブリッド手術室、内視鏡センターなどが入る予定です。私がめざすのは「患者さんとご家族に笑顔をプレゼントできる病院」です。当院での治療により完治し笑顔になって頂くことはもちろんですが、中には治せない病気もあります。そんな時でも患者さんが人生を終えた時に「お父さん、最期に良い時間が過ごせたね」とご家族にも笑顔になってもらえるような病院になれば、と願っています。
成瀬 友彦 院長
1989年名古屋大学医学部卒業。市立四日市病院、名古屋大学医学部附属病院での勤務を経て、1997年春日井市民病院入職。2019年より現職。専門は腎臓内科。