医療法人誠志会 砥部病院
(愛媛県 伊予郡砥部町)
中城 敏 院長
最終更新日:2023/09/22
共感を大切に、患者に合わせたサポートを
愛媛県の中予に位置する「砥部病院」は、高齢化が進む砥部町や近隣地域において、高齢者医療を支え続けている。2000年より院長を務める中城敏(なかしろ・さとし)先生は、「常に患者さんの立場に立ち、共感する」をモットーに、一人ひとりの患者と丁寧に向き合い、心の通った医療を患者やその家族に届ける温情あふれるドクターだ。ユーモアたっぷりのわかりやすい話でインタビューに答えてくれる姿は、そのままの様子で患者と接しているのだろうと想像させる。そんな中城院長に、砥部病院のこと、同院が力を入れている認知症治療のこと、今後の展望などを聞いた。(取材日2023年8月8日)
砥部病院の基本理念についてお聞かせください。
「常に患者さんの立場に立って考えて行動せよ」です。患者さんに共感することを大切にしていますが、共感は同情とは違います。同情は自分の考える枠組みで相手を見て、相手に対して自分がどう思うのかというもの。共感は相手の考える枠組みで考え、相手の気持ちを読み取るものです。釣り上げられた魚の気持ちになって「助けて」と叫ぶのが共感で、「かわいそう」と思うのが同情です。スタッフには、月1回発行し、20年間続く「麻生だより」という便りに書いて伝えるようにしています。私の患者さんに対する想いが伝わると、スタッフの優しさに表れます。例えば、患者さんが亡くなると、ご遺体をきれいに拭いていくのですが、その時に「ちょっと冷たいですよ」「手を伸ばしますよ」という言葉が自然に出てくるんです。そんなスタッフの姿を見れば、ご家族にもきっと、スタッフたちがいかに患者さんに寄り添ってきたかが伝わると信じています。
認知症患者さんへのサポートについて教えてください。
当院は高齢の患者さんが多いため、認知症の治療やケアに力を入れています。薬ではなく共感することによって、患者さんが安心して存在できるようにサポートしています。患者さんは「自分は拒否されていない」と感じることで、だんだん落ち着いてくると考えています。自宅にいる時は家族とけんかして暴れたり、物を壊したりするような患者さんであっても、周りでケアする医師やスタッフがその方の存在を受け入れることで「自分は嫌われている」から「自分は好かれている」と思えるようになれば、問題行動にも変化が見られるはずです。意識を落ち着かせるために薬を使い、治ったと考えるのは良くありません。暴力はなくなっても、ぼーっとし続けてしまうような状態では、その人らしさがなくなってしまいます。私は認知症の治療でなるべく薬を使いたくないと考えています。認知症であっても生き生きと毎日の生活を楽しみ、しかも問題行動がなくなることが重要です。
認知症の患者さんには、どのような対応をしていますか?
人と人とのコミュニケーションには2つのレベルがあると考えています。1つは感情のレベル、もう1つは知性のレベルです。認知症の患者さんと知性のレベルで会話しても、すぐ忘れてしまうため、コミュニケーションを取ることは困難です。しかし、感情のレベルは豊かに存在しているため、感情が傷つけられることが度重なると、嫌な気持ちだけが残ってしまいます。そのため、認知症の患者さんに対しては、知性の部分でなく、豊かな感情に注目します。その方の人生や生きてきた歴史を大切にして、コミュニケーションを図ることが重要です。認知症の人が発する言葉や行動を、素直に受け入れるのです。たとえ妄想のように思える内容でも、その方にとっては現実の世界なので、否定せずに共感し、人間的な関わり合いを重視することが何より大切です。
砥部病院が地域で担うべき役割を教えてください。
福岡県大牟田市が行っている「認知症の人が地域で安心して暮らせる社会にしよう」の取り組みが参考になります。徘徊かもしれない人を見たら、小学生や中学生が声をかける練習をしているようです。このように、大牟田市は、安心して徘徊もできるような町なんです。砥部町も同様に、認知症の人に優しい町にしたいですね。お年寄りが歩いていたら、「徘徊しているんじゃなかろうか」と声をかけてあげられるような、お互いが見守り合えるような町づくりをしたいと思っています。そして、当院がその一端を担うことができたらうれしいですね。
今後の展望をお聞かせください。
保険制度に従った診療で生じてしまう切れ目の部分を補っていきたいと考えています。より高次の治療は、愛媛県立中央病院や松山赤十字病院などにお任せして、当院はもっと落ちついた医療環境を提供し、在宅医療に結びつけていきたいと思います。自宅の環境が劣悪である可能性があるなど、在宅での療養が最も良いとは限りませんが、そういう部分も臨機応変に判断し、その人に最も適した医療を提供したいと考えています。例えば、ごはんを食べられなくなったらすぐに点滴ではなく、食べられなくなった原因を考え、さまざまなことを試したい。点滴はそのつなぎとしてはいいかもしれませんが、食べられなくなったらすぐに点滴をしてしまうのでは発展性がないと思うんです。マニュアルではないオーダーメイドのサポート体制で、患者さんと向き合っていきたいと考えています。
中城 敏 院長
1986年愛媛大学医学部卒業。2000年より現職。「医学を重んじつつ、その根底にある人間学に基づいた治療をしたい。認知症の人は純粋で、人間そのものです。そこにアプローチするためには人間を知らなければいけません」と語る。