地方独立行政法人神戸市民病院機構 神戸市立医療センター西市民病院
(兵庫県 神戸市長田区)
有井 滋樹 院長
最終更新日:2021/08/19
救急医療を原点として捉え、地域へ貢献する
地方独立行政法人、神戸市民病院機構が運営する4病院の1つ、「神戸市立医療センター西市民病院」。長田区、須磨区、兵庫区エリアを有する神戸市街地西部地域の中核病院として、地域医療を多面的に支える市民のための病院だ。病床数は358床、25の診療科のほかチーム医療推進部を置き、地域と連携しながら良質な医療を提供している。院長の有井滋樹先生は、東京医科歯科大学医学部附属病院で副病院長を、独立行政法人労働者健康安全機構浜松労災病院で院長を歴任。2018年に着任してからは「救急医療は医療の原点」との考えから、同院の救急医療体制の改善に着手。院内のシステム構築とマインドの醸成を行い、その両輪で可能な限り多く受け入れ体制を整えた。そのかいあって、現在ではこの地域で多くの救急搬送の受け入れを行っている。2029年にはJR神戸線新長田駅前への移転が決まった。高度な機能を持ちながら、コンパクトで市民に優しく、街の活性化にも貢献できる病院を、と夢がふくらむ同院について、有井院長に話を聞いた。
(取材日2021年7月15日)
病院の歴史と着任時の印象について、お聞かせいただけますか。
当院は1924年、長田区三番町に設立された神戸市立神戸診療所が起源です。その後何度か改称し、1970年に現在の場所へ移転して市立西市民病院と改めました。2007年には神戸市立医療センター西市民病院となり、2013年には地域医療支援病院に指定。現在の体制となって、昨年で50周年を迎えています。私は2018年に、こちらに着任しました。周囲からさまざまな評判を聞いてまいりましたが、実際にここへ来て感じたのは、「まだまだ伸びしろのある病院だ」ということです。環境を整えれば地域の患者さんに信頼していただけ、頼っていただける病院になるだろう、と運営に対して意欲が湧きました。当院は2029年に新長田へ移転し、新しく生まれ変わります。高度な機能を備えながら動線は短く、患者さんに優しいコンパクトな病院がコンセプトです。患者さんだけでなく地域の人も訪れる、コミュニティーの中心、広場のような場所になる予定です。
地域における位置づけと役割についても伺います。
救急医療はもちろん標準医療に関しても、この市街地西部で完結することをめざしています。ポートアイランドには地方独立行政法人神戸市民病院機構が運営する、中央市民病院があります。ここは神戸市の救急医療の最後の砦として位置づけ、特殊な医療についての切り札として置いておくべきですので、まずは「西市民に行ったら、事足りる」と患者さんに言っていただけるように、日々努力しております。特に周産期医療については、この近辺に小児科で入院設備を持つ病院として当院が一手に引き受けておりますので、ハイリスク分娩の受け入れもなかなか厳しいのが現状です。小児周産期医療の過疎地であるため、当院の果たす役割は大きいと考えています。認知症医療についても、認知症疾患医療センターでは認知症になる前段階や発症を遅らせていくよう、積極的に取り組んでおります。神戸市が力を入れる、認知症医療の一翼を担っています。
救急医療にも力を入れておられるそうですね。
私が思う医療の原点は救急医療です。医療が進歩し、健康診断などで患者さんが前もって来院される機会は増えました。しかし、病院というのはもともと「急に胸が痛くなった」「おなかが痛い」「頭が痛い」と駆け込む場所でした。駆け込んで来た患者さんに対して、治療を迅速に行っていくのが医療の根本だと思います。私が着任した翌年の2019年に、救急車の受け入れが、一気に増加しました。「すべてを断らない」救急医療は不可能です。不可能なことをめざすのではなく、「可能な限り受けていこう」と院内の意識を変えました。その上でシステムをつくり、マインドを醸成しました。需要の多い消化器系は内科、外科ともにしっかりとしたオンコール体制を敷き、その他の科にもサポートを依頼。科を超え、職種を超えて、お互いの多様性を認めながらリスペクトし合うことを、当院では大切にしています。
地域との医療連携にも力を入れておられます。
当院は地域医療支援病院であり市民病院、地域密着型の病院ですから、地域との医療連携は非常に大事になってきます。近隣病院への医療支援として、さまざまなオープンカンファレンスや医療連携セミナーを開催しています。2020年からは地域の診療所の先生方のニーズに対応して、糖尿病専門の医師による薬による治療の選択、管理栄養士による栄養相談が、患者さんの負担が少ない1回の受診で完結するよう「糖尿病ワンタイム連携」を開始しました。また市民の皆さんに向けては広報誌「虹のかけはし」や当院のホームページで、診療情報や医療スタッフの役割、各種市民向け教室の開催案内などを行い、情報提供を積極的に行っています、また医師、看護師、コメディカルが中心となって、認知症対応や生活習慣病をテーマにした市民公開講座や各種教室を開催。市民の皆さんの健康向上のお手伝いを行っています。
最後に読者へのメッセージと今後の展望をお願いします。
当院は2029年、新長田駅前の若松公園内に移転、新築する運びです。大きなモニュメントが病室の窓から見えると思いますから、患者さんたちにきっと元気になっていただけることでしょう。私の頭の中にある新しい病院は、アットホームでデラックスホテルのような病院です。患者さんは不安な気持ちで緊張しながら来院されます。その時に医療職員が、心からの笑顔で接すれば、きっと安心し緊張も解けるでしょう。病院はアットホームでなければいけません。さらに子どもから高齢者まですべての市民に優しく、将来的には街の活性化につながる場所としても機能するべきだと考えます。まるでホテルように居心地が良く便利で、「西市民病院があるから、ここに住みたい」と思ってもらえる場所でありたいと思います。“志は高く、目線は低く”です。私の後を引き継ぐ人が、まっすぐ進めるように、まだしばらく努力してまいります。
有井 滋樹 院長
京都大学医学部第1外科にて医師としてのキャリアをスタート。2000年には東京医科歯科大学肝胆膵・総合外科教授、2012年には浜松労災病院の病院長に就任。2018年より神戸市立医療センター西市民病院の院長となる。地方独立行政法人神戸市民病院機構理事、独立行政法人 労働者健康安全機構浜松労災病院名誉院長にも着任。