名古屋市立大学医学部附属みどり市民病院
(愛知県 名古屋市緑区)
浅野 實樹 病院長
最終更新日:2023/10/12
地域密着型の大学病院として二次救急に尽力
2023年4月に旧名古屋市立緑市民病院より新しく生まれ変わった「名古屋市立大学医学部附属みどり市民病院」。名古屋市立大学医学部の付属病院の一つとなった同院がある名古屋市緑区は、市内でも最も人口が多いエリアであり、今後も人口増加が見込まれる一方、がん治療や脳梗塞、心筋梗塞といった急性期疾患への治療が区内では難しいという課題を抱えていた。そんな中、「地域の方が緑区外に行く負担を減らし、昔からある“みどり”で安心して治療を受けてほしい」という強い想いで行政、区内のかかりつけ医、周辺の病院と粘り強く交渉し、新病院としてスタートへ導いたのが浅野實樹病院長だ。「周辺の病院とも連携し、以前のように地域の皆さまに愛される“みどり”にしていきたい」という熱い想いを抱える浅野病院長。治療に加え、医師の育成や地域連携のモデルケースとなる教育研究機関の役割も視野に入れて改革を進める浅野病院長の取材時のネクタイの色は、イタリア語で「緑色」を意味するヴェルデ色。病院と緑区への愛にあふれる病院長のめざす病院の姿、注力している診療などについて話を聞いた。(取材日2023年8月22日)
名古屋市立大学が運営を引き継がれたそうですね。
前身である名古屋市立緑市民病院は愛知郡鳴海町国民健康保険組合診療所として1945年に開設された歴史ある病院で、地域の皆さまからは「“みどり”に行こう」と言われるほどに親しまれていました。しかし救急を含めた急性期疾患においては区外・市外への搬送・紹介が増え、患者さんの足も、そして地域のかかりつけ医の先生方のお心も離れている状態だったと思います。私自身、緑区民の一人として、そして名古屋市立大学出身の医師として地域の病院として機能していないのではと危機感を感じ、2022年より改革の準備を進め、今やっとスタート地点に立った段階です。地域の開業医の先生方、そして区民の皆さまのお言葉をいただく中で、大学病院レベルの医療を必要とされていると痛感すると同時に、皆さまに愛される、例えるならサンダル履きのまま来院できる気軽な心持ちで安心して通ってくださるような病院をめざし、日々奮闘している最中です。
病院の特徴はどんなところにあるのでしょうか。
まず、「地域密着型大学病院」であることです。循環器系や消化器系の急性期疾患に対応するレベルの高さを持ちながら、日々の生活の一部のように気軽に通える雰囲気であることが新しいカラーになると考え、愛着ある「緑市民病院」の名称を引き継いだひらがなの「みどり市民病院」としました。改革にあたって重視したのは、地域の方がどんな病院を必要としているか、そして周辺の大学病院、基幹病院とどう連携できるかという点です。正直なお話、「“開業医レベルの病院”にするのなら不要」という忌憚ないご意見も何度もいただきました。区外へと搬送される患者さまを快く受け入れてくださる各病院との強固なネットワークは、地域の先生方のご尽力の賜物に他なりません。私たちはその関係性を壊すことなく、共存していくことを前提とした病院づくりを今なおトライアンドエラーで続けています。
そのために診療科もパワーアップされているそうですね。
私自身、35年以上心臓血管外科の医師として前線で治療にあたっており、心臓血管外科では特に信頼の置ける医師を招きました。MBA(経営学修士)の学位も取得するような非常に気骨ある医師で、新型の医療機器を整えるのと並行して血管内治療や動脈瘤の治療、そして開心術を始められるよう準備を進めてもらっています。他にも感染症専門の医師として、名古屋市で初期から新型コロナウイルスの患者さまを担当し、感染症対策を実施した医療提供が可能になる体制を作った長谷川千尋医師を、消化器内科では急性胆管炎や急性膵炎などリスクの高い治療を積極的に受け入れる内藤格医師を招いています。開業医の先生方にも内視鏡検査を得意とする優秀な方は非常に多く、当院で同じことをやっていては改革の意味がありません。内視鏡診断支援システムAIの導入による検査精度の向上に加えて、医師の働き方改革、そして後進の育成にもつなげたいと考えています。
後進の育成・研究も「大学病院」の役目だとお考えなのですね。
それこそが、当院が「名市大医学部附属病院」であることの大きな意義の一つだと考えています。大学は学術研究機関であり、付属する同院も同様に先進の医療情報を発信できるレベルであるべき。だからこそレベルの高い医師や機器の存在が不可欠なのです。整形外科では関節鏡手術とスポーツ整形を得意とする小林真医師をお招きしています。スポーツ整形は成人だけでなく、地域のクラブチームや部活動に情熱をかける学生さんたちのためにもある治療です。その子の将来がかかっているケガも起こり得るでしょう。そういう際にご自宅の近くで手術を受け入院も可能であれば、ご本人も親御さんも、そして学校のご友人や顧問の先生も安心なさることと思います。またお子さんの夜間の突発的な症状に対する、小児救急の外来を22時まで行っています。緑区は今なお人口が増えており、若い方々が不安なく生活できるような体制も整えていきたいと考えています。
今後も患者さんを第一に考えた病院づくりを行うのですね。
開院当初、私は玄関に立ち、患者さまお一人お一人にあいさつをしていました。私を含めた医師、看護師だけではなく受付スタッフ、ガードマン、売店の店員さんすべてが当院の“顔”であり、プロフェッショナルである。そこに上下関係はありません。私が病院長であるのは責任を取るためであって、序列をつけるものではないのです。自分は何ができるか、地域の方が何を求めているのか、どうすれば周囲の病院とWin-Winの手を取り合える関係になれるのかを考え、トライし続けられるのが一流のプロです。だから地域の皆さまにお伝えしたいのは、まずは玄関のATMの利用だけでも構わないので気軽にいらしていただき、忌憚ないご意見をお聞かせいただきたいということ。その日できなかったことは次の来院までには改善している、そういうスピード感のある病院をめざしています。そうやって愛される“みどり”を地域の皆さまとともに作っていく所存です。
浅野 實樹 病院長
1985年名古屋市立大学医学部医学科を卒業。名古屋市立大学病院、刈谷豊田総合病院、アメリカ・ロマリンダ大学心臓胸部外科への留学や常葉大学教授、名古屋市立大学医学部附属東部医療センター副病院長などを経て、2023年4月より現職。自身を「小さな映画会社のプロデューサー」と例え、明るくはつらつとしたキャラクターと緑区住民への情熱を胸に新病院の構築に邁進する。小児心臓移植、先天性心疾患治療にも多数携わる。