愛媛県立今治病院
(愛媛県 今治市)
川上 秀生 病院長
最終更新日:2024/12/12
地域との連携強化で中核病院の役割を果たす
1945年に日本医療団今治病院として開設され、1983年に現在の土地に建てられた「愛媛県立今治病院」。長い歴史を重ねる中、地域からの信頼と期待に応えるため、今治圏域における公的中核病院として救急医療、急性期治療に積極的に取り組んできた。2023年より紹介受診重点医療機関として、地域の医療機関からの紹介患者、輪番制救急病院から紹介される中等症、重症患者を中心に診療を行っている。地域周産期母子医療センターを併設しており、ハイリスク妊娠分娩の管理や24時間体制での新生児医療を実施。子どもに対する虐待の早期発見にも児童相談所と協力して取り組む。脳梗塞や心筋梗塞など急性期治療にはほかの病院とのネットワークも必須。地域の開業医との連携も重要となる。川上秀生病院長は「今治地区自体を一つの病院として考えて、当院だけでなく他院と連携することで、急性期から慢性期、在宅に至るまで患者さんを支えていきたい」と連携体制の大切さを語る。老朽化対策として移転新築が計画される中、いっそうの医療体制の強化や、新たな仕組みづくりなどバージョンアップを進めていく考えだ。(取材日2024年10月23日)
こちらの病院の特徴について教えてください。
当院の大きな役割は今治圏域の公的中核病院として救急医療、急性期医療を担うことです。特徴の一つとして地域周産期母子医療センターを併設していることが挙げられます。現在、今治圏域で分娩のできる施設は数が限られているため、ローリスクからハイリスクの妊娠分娩の周産期管理も行い、対応できる範囲の緊急母体搬送の受け入れもしています。受け入れが難しい場合も、愛媛県立中央病院や愛媛大学医学部附属病院とも密に連携しています。小児科は地域周産期母子医療センターの新生児部門として24時間体制で新生児医療を実施。日常診療においては愛媛大学医学部附属病院などと連携し、専門の外来を実施するなど体制もしっかりしています。また、今治圏域では実施施設の少ない医療的ケア児の訪問診療や、児童相談所と協力しての子どもの虐待の早期発見、学校検診や生活習慣病検診などにも取り組んでいます。
がんなど外科手術についてもお聞かせください。
手術は鏡視下手術を中心に急性胆嚢炎、急性虫垂炎、上部・下部消化管穿孔、胆石症、ヘルニア、胃がん、大腸がん、肝臓がん、乳がんなどの手術を実施しています。また2023年度から今治圏域の腹部救急ネットワークの一員として、時間外の腹部緊急手術に対応しています。このネットワークは輪番制救急病院に運ばれた緊急処置が必要な重症腹部疾患の患者さんを受け入れるためのバックアップ体制であり、緊急消化器内視鏡処置や緊急腹部外科手術ができる体制を整えている病院を中心に構成されています。外科だけでなく消化器内科とも連携しており、胃や大腸からの出血などについては緊急内視鏡も可能です。腹部の疾患に関しては幅広く対応できると思っています。対応できない重篤な症例は松山市の三次救急病院に搬送しますが、できるだけ今治圏域で分担しようということでネットワークができました。
高齢化に伴い、心疾患も増えているそうですね。
虚血性心疾患のカテーテル治療においては近年広がっているステントレス治療を多く実施しています。高齢の患者さんにとっては血液をサラサラにするための薬を飲む期間が短くなるメリットがありますね。心不全に関しては愛媛大学医学部附属病院と連携し、重症心不全を専門に扱う外来を実施しています。心不全は入院、治療しても再入院されることが多いため、退院後の地域の医療機関、介護施設との連携のために「心不全情報シート」を県立4病院で活用し、患者さんの予後改善を試みています。心臓弁膜症に関しては愛媛県立中央病院と連携し心臓弁膜症に特化した外来を設けています。2023年からは心房細動を中心に不整脈のアブレーション治療を開始しました。さらに「今治ACSネットワーク」の一員として、3週間に1週の頻度で急性冠症候群の緊急カテーテル治療にも対応しています。
脳血管疾患や整形外科についてはいかがでしょうか。
脳出血や硬膜下血種については開頭術、内頸動脈内膜剥離術を行っています。愛媛大学医学部附属病院と連携し、脳動脈瘤のコイル塞栓術や内頸動脈狭窄症に対するステント留置術などの血管内治療も実施しています。また以前より、脳血管の詰まりに対して行う経静脈的血栓溶解療法(t-PA治療)の圏域内ネットワークに参加しており、3週間に1週、脳梗塞に対するt-PA療法や、経カテーテル的血栓回収療法を行っています。t-PAができる病院は限られていますので、ネットワークは重要です。また整形外科では変形性関節症や腱・靱帯・関節唇・半月板障害の関節病変、骨折などの四肢外傷、脊椎の変形疾患や外傷、手指障害、スポーツ障害など多岐にわたる診療を幅広く行っています。高齢者の方の大腿骨頸部骨折による救急搬送は多いですね。
今後についてお考えをお聞かせください。
建物の老朽化に伴い、移転新築の計画が策定されています。移転候補地は現在地から南西へ約4キロのしまなみヒルズです。感染症病棟もしっかり確保し、患者さんが安心して来られる病院をめざします。現状、診察室の仕切りがカーテンなど現代に合わない部分もありますので、患者さんのプライバシー確保も大事にしたいですね。今後、今治圏域の「最後の砦」的な存在として、いっそう救急医療、急性期医療、災害医療の体制を強化し、三次まで及ばずとも二次救急病院を越える役割を果たし、地域医療に貢献したいと考えています。患者さん重視のもと、急性期医療は当院で、慢性期やリハビリ期はそれぞれの病院で、退院して開業医に戻り、また悪くなったら当院へ、というふうに在宅医療機関とも情報共有して、今治地区自体を一つの病院のように考えて各機関と連携していきたいです。併せて、古い仕組みを見直し、新たな仕組みづくりにも取り組んでいく所存です。
川上 秀生 病院長
1989年愛媛大学医学部卒業、1996年同大学大学院修了。同年愛媛県採用・県立今治病院配属、同病院副院長などを経て2021年より現職。専門は循環器内科で日本循環器学会循環器専門医。血管内視鏡で動脈硬化の成因を調べる研究にも従事。DMAT隊員として県外各地の災害医療にも携わった経験を持つ。