一般財団法人永頼会 松山市民病院
(愛媛県 松山市)
柚木 茂 院長
最終更新日:2023/09/15
高度急性期医療と患者支援で地域医療を先導
民間でありながら市民病院と名づけられた「松山市民病院」は、市民による市民のための病院として1956年に開設された。松山駅からは徒歩5分、松山城や愛媛県美術館などのランドマークにもほど近い場所に立地し、地域のみならず四国4県の医療をけん引する病院をめざし、医療提供を続けている。2020年7月に院長に就任した柚木茂先生は、「思いやりの中で高度な医療レベルの達成と高齢社会への対応を成し、長期にわたる治療生活へのケアも併せ持ちたい」と話す。同院では、四国がんセンターや松山赤十字病院との連携、自動車事故による重度意識障害患者の受け入れなども行っている。また、地域のハローワークと提携した就労支援を行うなど、病中のケアだけでなく患者の生活を多角的に支える。さらにこまやかなチーム医療を体制化し、改革を進める柚木院長に話を聞いた。(取材日2021年11月24日)
病院の成り立ちについて教えてください。
松山市民病院は、1956年に松山生活協同組合立として発足した市民のための病院です。のちに財団法人永頼会が設立され、現在は一般財団法人永頼会となっています。民間でありながら市民病院と名づけられ、どなたでもかかれる病院をめざしてきました。地域の基幹病院として急性期医療やがん診療など高度な医療の提供に努めると同時に、救急科を設立したり、術後管理や重症管理ができる部門を開設したりと幅を広げ、現在に至っています。社会の高齢化が進む中、病院の役割も変化していますが、私たちも、高齢化している患者さんの生活背景を含めた対応が求められていると感じています。その顕著な例が、新型コロナウイルス感染症へのさまざまな対策における、スピードを持った対応ではないでしょうか。柔軟性を持って大小の改革を重ねながら、多くの方に愛される病院づくりをしていくのが基本理念です。
他の医療機関などとの連携はありますか?
四国がんセンターとの関わりは親密です。週に一度、当院から医師を派遣して糖尿病の診察を行ったり、逆にこちらに来ていただいて、がんの手術を行ったりしています。松山赤十字病院や愛媛県立中央病院には、婦人科のフォローで、患者さんを受け入れてもらっていますね。また例えば、認知症があるなど当院までお越しいただくのが困難な場合は、患者さんの最寄りのクリニックと連携して投薬治療をすることもあります。地域の基幹病院として、そうした連携は非常に重要ですので、患者さんの受診歴や検査データ、投薬の記録などをインターネットで共有できる地域連携システムも利用しています。今後も、このような連携は積極的に行っていきたいと考えています。
患者さんの就労支援など退院後の支援についてお聞かせください。
就労支援については、2020年7月より、ハローワーク松山の就労支援ナビゲーターが病院内に出張し、当院の相談窓口職員らとともに患者さんの治療と仕事の両立支援の相談をしています。慢性疾患を持つ患者さんが、治療と仕事の両立について気軽に相談できる体制をつくることで、精神的な支えになればと思っています。また、地域連携室では、患者さんが地域で適切な医療を受けられるよう調整し、サポートしています。患者さんが地域の中で、急性期、回復期、慢性期とステップを踏み、スムーズにご自宅に戻れるよう、担当医師をはじめ、看護師、医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーを含む多職種のスタッフが常駐しており、入院当初から関わりながら、退院後の生活をイメージした支援を行っています。入院前から退院後も継続して、患者さんやご家族が不安のない療養生活が送れるよう一緒に考えていきますので、気軽にご相談ください。
自動車事故による重度意識障害患者を受け入れているそうですね。
当院が受け入れを始める前は四国に受け入れ施設がなく、近くても岡山県まで行かなければなりませんでした。これは事故に遭われた患者さんにもご家族にも大変なことです。当院では、脳神経外科の医師、専任看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、管理栄養士など多くの専門家が介入し、チームで回復管理を行っています。ご家族とともに患者さんのわずかな変化も見逃さないようにし、運動、摂食、発声、認知などを通して機能回復を追求します。このように、現場には多くの部門やチームがあり、日夜患者さんのサポートをしています。そうしたチーム医療が適切な治療を実現できると考えています。訪問診療や地域医療連携室など外と関わりを持つ部門も重要な役割を担っていますし、患者さんの利便性を重視した院内処方にもできるだけこだわっていきたいと思っています。
松山市民病院の今後の展望を教えてください。
山本前院長が築き上げた道筋を生かしつつ、地域の状況に応じて改革していかなければならないと考えています。新型コロナウイルス感染症の流行のように短期間でシステムを変えなければならないこともありますし、難題はいつの時代にもあると思うのですが、歩みを止めずに問題と真摯に向き合うことが大切ですね。まずは、患者さんの些細な変化や訴えを逃さず適切に治療を行うことが最優先。そのためには、医師やスタッフをまだまだ増やさなくてはなりません。松山市民、そして四国の皆さんが頼れる場所でありたいですね。
柚木 茂 院長
1982年岡山大学医学部卒業。2020年より現職。呼吸器外科が専門だが、同院では消化器外科と救急医療に携わる。「外科医師とは検査・診断・治療・看取りまですべて行う」をモットーに、内視鏡検査、術式決定と手術、抗がん剤治療、緩和医療まで対応する。日本外科学会外科専門医。