医療法人慈孝会 福角病院
(愛媛県 松山市)
角南 典生 院長
最終更新日:2022/07/05
回復期リハビリテーションで在宅復帰を支援
診療理念に「お年寄りに対する尊敬の気持ち」「やりがいのある職場づくり」「地域社会への貢献」を掲げる「福角病院」は、松山市の城北地域で希少な回復期リハビリテーション病棟を持つ病院。脳血管疾患や大腿骨や脊椎、骨盤骨折などの急性期治療を終えた患者の回復期をサポートすべく、入院治療や外来診療、リハビリテーションを通じて、在宅生活に復帰する手助けを行っている。明るく広々とした院内には、運動療法・物理療法・作業療法・言語聴覚療法・摂食機能療法など、さまざまなリハビリテーションを行うための設備とスタッフをそろえている。院長の角南典生先生は、4年前まで松山市民病院で脳神経外科部長を務めていた経験豊富な医師。勤務医時代、福角病院で治療やリハビリを終え、自宅や施設での生活に戻っていく患者を目の当たりにし、「回復期リハビリテーションについて、もっと市民の皆さんに知ってほしい」と思うようになったそうだ。インタビューでは明るく、時にはジョークも交えながら、回復期リハビリテーションの内容や同院の特徴をわかりやすく説明してくれた。(取材日2021年11月17日)
福角病院は地域の中でどのような役割を担っているのでしょうか。
当院は、急性期病院を退院後も引き続き入院治療が必要な方や、自宅での療養が困難な方のために、医療、看護、介護、リハビリテーションを提供する病院です。3階は、急性期病院で脳血管疾患や重症の骨折などを治療した後の患者さんが入院し、在宅復帰をサポートする回復期リハビリテーション病棟です。4階は、ご自宅では療養できないような状態の患者さんが入院する医療療養病棟で、看取りにも対応しています。そして、5、6階には介護老人保健施設「福角の里」を併設。医療と介護が連携しながら患者さんを支援していく体制となっています。私自身の専門は脳神経外科で、長年診療経験から、初見でその患者さんがどの程度まで回復できるかおおよその見通しを立てていたのですが、当院に来てそれは口にしないようになりました。回復の度合いは、患者さんの意欲と医療チームの努力によって未知数であると教えられたからです。
こちらの回復期リハビリテーションとはどのようなものですか?
当院の回復期リハビリテーション病棟では、疾患によりますが、1日最大180分のリハビリが可能で、365日稼働しています。もちろん疲れないように20分や40分といった単位で、休憩を挟みながら行います。キッチンや畳の部屋で、自宅での生活に即した訓練も実施しますが、それをサポートするのが、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のスタッフたちで、各自の専門性を生かしたリハビリに取り組んでいます。回復期のリハビリというのは、転院直後の数日間が大切です。高齢の患者さんは病気で一度寝たきりになってしまうとやる気まで喪失し、「歩いて家に帰ろう」といった意欲がない状態の方や、リハビリはつらいし痛いからと「もう、このままでも良い」と思ってしまうような方もいらっしゃいます。そういう患者さんに、いかにしてやる気を出してもらうのかが最も難しく、だからこそスタッフが集まる会議やミーティングで常に話し合い、力を入れています。
心に残る患者さんとのエピソードはありますか?
以前担当した92歳の女性の患者さんのことが印象に残っています。脳梗塞の治療後寝たきりの状態となり、肺炎も併発しておられました。ところが、少し良くなってくると勝手に点滴や酸素チューブを外し、眠れなかったり、10分おきにナースコールを鳴らしたりするように。かといってリハビリをする意欲のない患者さんでした。ところが、たまたま夜中に火災報知機の誤作動があった時、歩けないはずなのに怖さのあまり歩いて詰所まで来て、看護師に抱きついたのです。翌朝、病室を訪問すると「先生、怖かった」と私の胸に顔をうずめて泣くので、思わず抱きしめて差し上げました。この出来事がきっかけで、その方は真面目にリハビリに取り組んでくださるようになりました。やればできると感じること、そしてスタッフとの信頼関係が治療やリハビリテーションにはとても大事なんだと思いましたね。
そのほか、病院の特徴や強みについて教えてください。
私たち職員も患者さんと同じ食事メニューをとっているのですが、当院は料理がおいしいと思います。外部委託の業者ではなく当院の職員が調理しており、管理栄養士にいろんな意見が言えるんですよ。みそ汁をもっとおいしくしたいと言ったら、違うみそを使ってくれるようになりましたし、米や魚などの食材も仕入れ先を吟味して選んでいます。食事は入院中の数少ない楽しみですから、おいしい食事をしっかり食べていただきたいと思います。あと回復期病棟の取り組みとして入院2週間以内に多職種のスタッフと患者さん、ご家族を交えた担当者会議を行っているのも当院の特徴と言えるでしょう。ありがたいことに最近は、クチコミを頼りに遠方からも患者さんが来られます。「福角病院はリハビリテーション設備が充実している」「スタッフが話しやすい」「食事がおいしい」といった声を聞けるよう、医療はもちろんそれに付随するサービスの充実化も図っていきたいです。
コロナ禍での工夫と、今後の展望についてお聞かせください。
コロナ禍以降、担当者会議や患者さんのご家族との面談もスマートフォンを使ってリモートで行うようになりました。スマホを使えない高齢の患者さんの場合は、家族と面会するためにもスマホの使い方をスタッフが教えたりすることもあります。また、脳卒中予防の講演会なども再開しはじめました。新型コロナウイルス感染症の流行が収束したら、そういう機会も再び増えてくるでしょうから、回復期リハビリテーションについてもっとPRしていきたいと考えています。例えば、腰痛圧迫骨折などは家で寝ているしかないと思い込んでいる方も多いのですが、実際は回復期リハビリテーションの対象となり、入院・リハビリによって改善を図ることができるんです。私はこれまで一貫して「患者さんのための医療」に取り組んできました。必要な情報を提供し、必要な検査や治療を迅速に安全に行う「基本」をこの病院でも徹底していく考えです。
角南 典生 院長
1976年岡山大学医学部卒業。1982年から松山市民病院に入職。以後34年間、同院の脳神経外科で診療経験を積み、脳神経外科部長を務めた。2017年1月福角病院に副院長として着任、2021年4月院長に就任。現在も回復期リハビリテーション病棟を担当し、脳卒中など脳疾患患者の主治医として日々患者と向き合う。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医。