独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター
(愛知県 名古屋市中区)
小寺 泰弘 病院長
最終更新日:2025/05/22


臨床と研究を両輪に据え地域医療を推進する
名古屋市役所の北隣に位置する「名古屋医療センター」は、名古屋城や市役所の時計台を間近に望む市中心部に立つ。明治の創設に始まり、戦時中には陸軍病院として、その後は国立病院を経て国立病院機構の一員として、DMATの派遣から新型コロナウイルス感染症患者の受け入れに至る災害対策に注力。またエイズ治療東海ブロック拠点病院、地域がん診療連携拠点病院としても、その長い歩みの中で常に政策医療機能の充実を図りつつ高度先駆的な医療を追求してきた。そんな歴史ある同院に昨春着任した小寺泰弘病院長は、「高いレベルを維持してきた日本の医療は今や財政難で危機的な状況にあるが、最大限努力して地域医療を維持していかなければいけない」と思いを語る。就任後1年が経過した小寺病院長に、同院の特徴や今後の展望について詳しく聞いた。(取材日2025年4月25日)
病院の特徴について教えてください。

当院は、1878年の創立当初より診療、人材育成、医学研究のすべてを重視する姿勢で医療を推し進めてきました。精鋭がそろう臨床・研究を行っている部門では院内外の研究を支援する高度な機能を有し、先進的で質の高い医療の開発を進めております。特に国立病院機構のスケールメリットを生かした共同研究やセミナーへの参加を通じてリサーチマインドを持つ医療者の育成にも努めております。30以上の各診療科では、さまざまな疾患において高い診療レベルをめざしていますが、特にがん診療とエイズ診療では、愛知県のみならず東海圏における医療の基盤を支える医療機関として、年間を通して多くの患者さんを受け入れております。
がん診療について特に力を入れている分野はありますか?

当院は、血液のがんに関して、専門性を高めてきた実績と歴史があり、血液内科では、白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの悪性疾患に対して、抗がん剤治療、放射線療法、造血幹細胞移植、輸血療法などを行っています。また、県内で小児がんを診療する専門病院の一つとして、白血病や悪性リンパ腫などの血液がんと骨肉腫、網膜芽細胞腫などを中心に診療しております。小児白血病・悪性リンパ腫の遺伝子検査も行っており、小児血液がんの研究においても重要な役割を担っています。造血幹細胞移植については、血液内科と小児科で共同する細胞療法チームが積極的に移植を行っています。さらに移植後の長期フォローアップを専門とする外来も設置しました。移植患者さんのみならず小児がんの既往がある患者さんが成人期以降も安心して診療を受けられるような取り組みも行っています。
救急医療についてはいかがですか?

名古屋市中心部より北西地域の三次救急医療を担っており、市内の数多くの救急車を受け入れています。新型コロナウイルス感染症の流行下では、政策医療の一環として多くの感染症患者さんを受け入れてきました。感染症がまん延する時期には救急需要が増えて病床など医療リソースがひっ迫することもありますが、重症な患者さんを極力受け入れるよう尽力しています。日常診療との両立は大変ですが、脳神経外科、消化器外科、整形外科、呼吸器外科、泌尿器科等の分野の緊急手術や心臓、脳、その他の血管を介したカテーテル治療、内視鏡検査・治療などを必要とする患者さんをできる限り受け入れています。また、停止していた腎臓内科も稼働を再開し、腎機能に不安がある患者さんにも対応できるようになりました。一昨年の7月に導入した地域のクリニック向けのオンライン予約システムにより紹介患者さんの受診手続きも迅速に行えるので、ぜひご活用いただきたいです。
オンライン予約システムは病診連携にも役立っているのですね。

土曜に診療するクリニックも増えていますが、当院の外来は土曜と日曜が休診です。そこで、土曜でも紹介患者さんの予約ができる仕組みをつくりました。オンライン予約システムを使えば、患者さんの目の前で空き状況を照会できるため、その場で当院への受診予約ができます。CTやMRI、PET、骨密度測定などの検査の場合でも利用できるので、利便性が向上しています。システム導入前は、クリニックで紹介状をもらった患者さんがご自身の都合の良い日に来院されるケースが多かったのですが、それですと受付から診察まで待ち時間が発生します。オンラインシステムから予約された紹介患者さんの場合は、日時も診療科も予約されていますので、スムーズに受診できるようになっています。
最後に、今後の展望と地域の方々へのメッセージをお願いします。

わが国の医療を取り巻く環境は厳しさを増すばかりですが、この地域はまだ人口減少には至らず、高齢化に伴って医療需要は微増し続けております。地域にはさまざまな規模や特徴を持った医療機関が多く存在しますが、各々の特徴を知り、機能を補い合いながら協力し合って地域医療を守るのがわれわれの第一の使命です。その上でコロナ禍以来不安定となっている医業収支を改善し、年季の入った病棟の建て替えを実現したいと考えております。これまで当院のDMATは災害のたびに大きな役割を果たしてきましたが、東海地方もいつ震災に見舞われるかわかりません。有事の際にも当院の周辺には津波の被害も届かず地盤も固いため、病院としての機能が維持できると想定しています。他の医療機関と連携して市内の災害拠点病院としての役割をきちんと果たせるよう、年に3回の災害訓練を行っております。今後も地域医療を守る意識を高めていきたいと思います。

小寺 泰弘 病院長
1985年名古屋大学医学部卒業。腫瘍マーカーや抗がん剤感受性の研究に勤しみ、愛知県がんセンター消化器外科にて研鑽を積む。2011年より名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学講座教授。2019年より名古屋大学医学部附属病院院長となり、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを乗り越えた後、2024年4月より現職。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医。名古屋大学名誉教授。