愛知県がんセンター
(愛知県 名古屋市千種区)
丹羽 康正 院長
最終更新日:2020/11/25
高度で先進的ながん医療を届けたい
日々進歩を続けるがん治療。手術だけでなく、通院による治療の需要も増えるなど、治療の在り方や治療後ゴールが日々更新されていく中で、研究所を伴った医療機関として開設された「愛知県がんセンター」は、がんの専門病院として54年間にわたってがん患者とともに歩んできた。同院では、これまでの歴史を現在も受け継ぎ、先進的な医療技術を取り入れながらも、同時に科学的根拠に裏付けされた「標準治療」を重視。患者にとってより効果的で、より長い間予後の良い状態を持続できるような治療をめざし、多くの医師や医療スタッフが力を合わせているという。院長を務める丹羽康正先生は、「臨床と研究が近く、『科学的な考え方』に触れる環境にあること、そして各診療科の垣根が低く、チームとなって医療に取り組んでいることが当院の特徴です」と目を輝かせる。近年では、がんゲノム医療を取り入れた専門性の高い部門を新たに開設するなど、常に医療のレベルアップを図り、がん医療の前進に寄与する同院の強みや今後の展望を、ふんだんに語ってもらった。
(取材日2019年1月16日/更新日2020年10月27日)
貴院のこれまでの歩みと特色をお聞かせください。
当院は今から54年前、研究所を伴ったがん専門の公立病院として開設されました。以降現在まで、多くのがん患者さんの治療に従事してまいりました。私たちの使命は、高度で先進的ながん医療を開発し、適切な形で患者さんへ届けること。これまで数多くの抗がん剤の臨床試験や治験を行ってきたため、新しい治療薬の扱いにも慣れやすい環境にありますし、近年注目が高まっている、腹腔鏡手術や胸腔鏡手術といった低侵襲手術を実践できるよう環境を整え、手術支援ロボットの導入や内視鏡治療の技術更新などに取り組んできました。また、研究分野が非常に身近なため、私たち臨床医が医療を行う上で、科学的に考え、検証する「リサーチマインド」に触れる機会が多いのも、当院ならではの特色です。2018年にはがん研究を臨床に反映する「橋渡し研究」を充実させるべく、研究所の組織再編が行われました。今後、さらなる発展が見込めることでしょう。
診療において重視していることは何でしょうか?
先進的な医療の提供を行いつつも、これまで多くの治療実績を残してきた「標準治療」を初期治療のベースにしています。がんを治療する場合、まず組織診断を行い、特徴や転移の有無などのがんの広がりを適切に診断して、全身を含めて総合的に病態を把握し、患者さん一人ひとりに合った治療内容を検討します。当院は国内外の施設と連携を取っているだけでなく、がん治療のガイドライン改定に携わる医師も在籍し、新しく登場した手法を次の「標準治療」とするべく、力を尽くしています。他にも、最近話題になっている免疫治療薬の臨床経験を多数有しており、適宜標準治療に取り入れています。私たちがめざすのは、最良と考えられる治療をいち早く患者さんに提供することです。先進的な治療と従来法を十分に比較検討し、5年生存率や有害事象の回避など、総合的な観点をもって治療を行うことが必要と考えています。
希少がんの治療やがんゲノム医療にも取り組まれているとか。
厚生労働省はこれまで「がん診療の均てん化」を政策として推し進め、一定の成果が得られてきました。一方で、「希少がん」といわれる、一般病院では年に数例しか経験しないような腫瘍患者さんへの対応も問題となってきました。当院ではサルコーマ(肉腫)という希少がんの集約化をめざし、2016年にサルコーマ部門を開設しました。さらに2018年3月に閣議決定された「第3期がん対策推進基本計画」において取り上げられた「がんゲノム医療」に対応するため、一度に多くの遺伝子情報を得られる先進機器の発達をもとに、適切な抗がん剤や免疫治療薬に対応すべく、2017年に個別化医療部門を開設しました。また診断の過程で明らかになる遺伝性疾患への対応とカウンセリングを専門とするリスク評価部門を2018年より設けています。
がん患者の就労支援など、生活面のサポートも課題かと思います。
もちろんです。がん治療は、入院・手術で終わり、というものではありませんからね。がんと診断をされて当院を受診した時に患者さんの受け止め方はさまざまです。私たちはスクリーニングのアンケート調査を行い、深刻な心理状態の患者さんには看護師が初診時から介入を行うことにしています。また、がんと診断を受けた時に治療に専念したいと考え、通院での治療が長期にわたることを心配して、仕事を辞めてしまうというケースも少なくありません。そこで、患者さんが仕事と治療を両立していけるように、地域医療連携・相談支援部門ではさまざまなサポートを行っています。看護師や医療ソーシャルワーカーが、患者さんやご家族が抱く療養生活に関する心配事や疑問に応えるだけでなく、地域のハローワーク職員が就労支援に関する相談に応じています。少しでも不安や悩みを解消できるよう、これらのサポートの充実も大切なことと考えています。
今後の展望と、読者へのメッセージをお願いいたします。
近年、がん医療は大幅に進歩しました。低侵襲外科治療の代表であるロボット支援手術の保険適応拡大はもとより、抗がん剤の選択にゲノム医療の考え方が取り入れられ、免疫治療薬も臓器横断的に使用されるようになりました。早ければ来年度から遺伝子パネル検査が保険収載となる動きもあるようで、今後さらに遺伝カウンセリングの重要性が高まることが予想されるでしょう。一方、緩和ケアの充実は治療開始の段階からの介入が必要という考えに変容しつつあります。がんは一生のうち約半数の人がかかる病気といわれる中、当院でも入院から外来へ移行して就労しながら治療を続ける仕組みを推進する所存です。また、病診連携体制をさらに整えて、できるだけスムーズに患者さんに治療を提供できるように努めていきたいと考えています。がんは治る病気といわれるようになった現在、一人でも多くの患者さんが健康的な生活に戻れるよう、力を尽くしてまいります。
丹羽 康正 院長
1983年名古屋大学医学部卒業。専門は消化器内科で、中でも消化器内視鏡学に精通し、診断機器や新しい治療法の開発に従事した経験を持つ。2009年愛知県がんセンター内視鏡部長に就任。その後、副院長を務め、2015年より現職。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医の専門資格を有し、日本消化器がん検診学会では代議員を務める。