医療法人済世会 河野名島病院
(福岡県 福岡市東区)
河野 正美 理事長
最終更新日:2026/02/24


世の中を救う、地域に開かれた精神科医療を
福岡市東区名島。多々良川と博多湾を望む高台に、街のランドマークのような白い時計台が見える。ここ「河野名島病院」は、1946年の創立以来、80年以上にわたり地域の精神科医療を支えてきた歴史ある病院だ。「精神科病院」と聞くと、少し障壁が高いイメージを持つ人もいるかもしれない。しかし同院は、そんな固定観念を覆すような開放的で温かい雰囲気に包まれている。リニューアルされた院内には準天然温泉や屋上庭園が設けられ、患者が心身ともに安らげる環境を整備。また、地元のプロ野球チームのスタジアム看板や、プロサッカーチームへの協賛など、スポーツ支援を通じた地域交流も盛んだ。その根底にあるのは、「済世会」の名のとおり「世の中を救う」という揺るぎない理念。理事長の河野正美先生は、精神科医療における人権尊重を第一に掲げ、患者はもちろん、その家族、そして現場で働くスタッフまで「すべての困っている人」を救う体制づくりに邁進している。今回は河野理事長に、同院がめざす「選ばれる病院」としての在り方や、人材確保へのユニークな取り組み、そして未来への展望について詳しく話を聞いた。(取材日2026年1月15日)
「世の中を救う」という理念に込められた想いを教えてください。

当法人の「済世会」という名称には、先代理事長の決意が込められています。単に病気を治すだけでなく、「世の中のすべての人を救うのだ」という強い思いです。精神科医療の現場には、患者さんご本人はもちろん、そのご家族、対応に苦慮して連れて来られた警察官や救急隊の方々、そして現場で懸命にケアにあたるスタッフなど、多くの「困っている人」が存在します。そうしたすべての方々を丸ごと受け止め、救うことが私たちの使命だと考えています。特に昨今の精神科医療では、患者さんの「人権」を守ることが何よりも重要です。私たちは精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づき、民間病院としての現実的な制約の中で、いかに患者さんの尊厳を保ち、安全な医療を提供できるかを追求しています。法律に縛られているからこそ、逆に言えば、患者さんの権利をきちんと守ることができる。この「正しく診る」姿勢こそが、世の中を救う第一歩だと信じています。
法人内の2つの病院の役割と連携体制についてお聞かせください。

当法人には、都市型で社会復帰をめざす「河野名島病院」と、自然豊かな環境で長期療養や重度認知症ケアを担う「河野粕屋病院」があります。それぞれに役割を持っていますが、患者さんやご家族にとっては「どちらに行けばいいのか」迷われることも多いでしょう。そこで、連携体制の向上の一環として受診相談窓口を一本化しました。フリーダイヤルにお電話いただければ、専門の精神保健福祉士が状況を伺い、適切な病院や医師へスムーズにご案内します。精神的な不調を「雨降りの時期」とするなら、入院は「雨宿り」。そして退院する時には、雨上がりの空に虹がかかり、太陽が輝いていることに気づいてほしい。そんな願いを込めた「にじいろ」をキーワードに、温かく迎えられる体制づくりに力を入れているのです。また、経済的な不安を抱える方も多いので、通話料無料のフリーダイヤルにすることで、相談への心理的なハードルを少しでも下げたいと考えています。
クリニックとの違いや、こちらならではの強みは何でしょうか?

近年、町のメンタルクリニックは増えていますが、私たちは「病院の役割は、入院治療をしっかり担うこと」だと定義しています。通院治療はクリニックの先生方にお任せし、ここでは対応が難しい重症の方や、入院が必要になった際の「受け皿」として機能する。この分業こそが地域医療のあるべき姿だと考えています。当院の強みは、いざという時にすぐに入院できる体制があることです。これはご家族にとっても大きな安心材料になります。また、プライバシーに配慮した特別個室の整備にも力を入れています。個室があることで、スタッフも初対面の患者さんの受け入れ判断がしやすくなり、より迅速な対応が可能になります。さらに当院には男女別の病棟があり、混合病棟では対応が難しい患者さんも引き受けられる体制を整えています。これらのハード面を充実させることで、地域からの信頼に応えていきたいですね。
精神科病院のイメージ変革や、地域貢献への取り組みは?

どうしても精神科病院、それも入院を伴うものとなると、ネガティブなイメージを持たれている方も少なくありません。それを払拭し、「地域に開かれた安心できる病院」をめざしています。例えば、地元のプロ野球チームの本拠地にある看板や、プロサッカーチームへの協賛などは、「あ、聞いたことがある名前だ」という安心感を醸成するための取り組みです。また、女子野球選手を看護助手として雇用したり、院内の体育館を地域のバレーチームに開放したりと、地域との接点を増やしています。若い選手が現場にいると、病棟全体が明るくなるんですよ。社会復帰支援の「にじいろプロジェクト」では、就労をめざす患者さんと企業の架け橋となる活動を行っています。マッチングの難しさはありますが、「患者さんが社会へ戻るための選択肢を持ち続けること」が当院の使命だと捉え、継続しています。
今後の展望について教えてください。

これからの病院経営において、人材の確保は最重要課題です。そこで当院では、年間休日を123日に増やし、完全週休2日制を導入しました。職員が定着し、長く働ける環境をつくることが、結果として患者さんの受け入れ体制強化に直結します。そして、今後の大きな展望としては、新病棟の建設を計画しています。そこには、昔の街並みやミニカーを展示し、認知症の患者さんが懐かしい記憶を通じて本来の自分を取り戻せるような展示空間を設けられたらいいな、なんて考えているところです。また、精神科疾患特有のお口のトラブルを防ぐため、歯科診療室も一新しました。ハード面でもソフト面でも、常に進化し続け、患者さんからも働く人からも「選ばれる病院」であり続けたいと思います。

河野 正美 理事長
愛知医科大学医学部医学科卒業。九州大学病院神経科勤務。1994年に九州大学大学院医学研究科に進学。1998年医療法人済世会河野病院院長に就任。2001年医学博士号取得。2005年7月に医療法人済世会理事長に就任。認知症をはじめとする老年精神医学が専門。精神神経疾患全般のサポートの窓口として、地域に開かれた病院運営を信念としている。





