医療法人財団はまゆう会 新王子病院
(福岡県 北九州市八幡西区)
筬島 明彦 院長
最終更新日:2025/10/17


透析とリハビリテーションで腎臓病をケア
1960年代の保険適用を受け、多くの慢性腎臓病患者をサポートしてきた人工透析治療。黎明期ともいえる1976年に、北九州エリアの専門クリニックとして透析治療を導入して開設されたのが「新王子病院」だ。2000年には有床のリハビリテーションクリニックを近隣に開設。現在は病院へとその機能を集約し、透析患者の筋力減少などに早期介入しADL(日常生活動作)維持にも力を注いでいるほか、管理栄養士による栄養指導なども実施。慢性腎臓病の初期治療から看取りまでトータルでカバーできる医療拠点として、半世紀にわたって地域医療に貢献してきた。一方、蓄積してきた診療ノウハウを生かし、慢性腎臓病の原因となる糖尿病や高血圧症をはじめとした生活習慣病の治療、骨折や脳血管障害の患者に対するリハビリなどにも対応している。「健診異常があった際はもちろん慢性腎臓病になる手前の段階から一度受診していただき、患者さんに寄り添った優しい医療を提供していきたい」と語る筬島明彦院長に、病院が果たすべき役割や診療の特徴などについて詳しく聞いた。(取材日2025年9月2日)
半世紀の歴史を持つ御院の成り立ちについて教えてください。

当院は1976年の透析黎明期に開設された人工透析専門の黒崎クリニックを始まりとしています。当時は全国的に透析専門の医療機関が少なく、福岡県済生会八幡総合病院で慢性腎臓病治療に取り組んでいた市丸喜一郎先生が、地域の皆さんにより身近な場所で人工透析治療を提供したいと設立しました。1988年には王子病院に改称し、2000年に透析患者さんを中心とした相生リハビリテーションクリニックも設立。2014年に施設を現在の場所に移転し、両施設を統合して「新王子病院」となりました。あまり知られていませんが、透析を受けている方は老化しやすくフレイルやサルコペニアといわれる身体的、精神的な衰えが早く見られます。そのため早期からのリハビリ介入が必要です。当院がリハビリを開始した頃は透析患者へのリハビリは一般的ではなく、市丸先生の情熱で実現できました。それ以来、当院は透析とリハビリの2本の柱で診療を行っています。
外来では内科のほか腎臓内科と循環器内科に対応しておられます。

腎臓内科にはタンパク尿や血尿など、健康診断を受診して検尿結果に異常があった方が多く受診しています。そこから見つかる初期の慢性腎臓病のケアをはじめ、進行中の継続治療や末期である腎不全の診療に取り組んでいます。末期の場合には透析治療を導入しますが、血液透析については県下でも多くの症例数があります。また透析患者さんは合併症として心不全をはじめとした循環器疾患を罹患するリスクが高く、循環器内科の医師を常駐させています。当然、慢性腎臓病に罹患していない心疾患の方の診療も受け入れていますが、慢性腎臓病の包括的な治療の取り組みという意味合いが強くなっています。昔は糸球体腎炎などが慢性腎臓病の多くの原因となっていましたが、近年では糖尿病や高血圧症などの生活習慣病に起因して腎機能を悪化させてしまうケースも多々あります。そのため生活習慣病の治療というのも私たちの一つの役割となっています。
リハビリ部門の特徴についても教えてください。

当院のリハビリはその成り立ちから、透析患者さんが多いのが特徴です。心肺機能に問題があることが多いため、いきなり一般的な運動療法を実施するわけにはいきません。ですから心肺機能や血圧の変動、酸素飽和度を見ながら、運動レベルを上げていく必要があるのです。数値をモニターしていくことに加え、循環器内科の医師が心臓リハビリの専門家として関わっていくので、患者さんの心肺機能への負担などのリスクを抑えた安全な状態で機能改善が期待できます。また長年リハビリに取り組んできたという経緯もあり、整形外科疾患に対するリハビリや、狭心症や心筋梗塞といった心疾患の外科治療を受けられた患者さんの機能回復にも対応できるようになりました。今は理学療法士をはじめ約30人が在籍するなどスタッフも充実したことで、集団リハビリではなく個別対応によるオーダーメイドなリハビリが提供できるようになっています。
回復期を担う病院として医療機関との連携も気になるところです。

慢性腎臓病には急性心筋梗塞や心臓弁膜症、大動脈解離など重篤な心疾患の合併症がありますから、患者さんの命を守るためにも近隣の急性期病院とは緊密な連携を図っています。幸い、北九州エリアは急性期病院が多く、迅速な対応が可能です。加えて透析治療を受けている患者さんは循環器疾患だけではなく消化器疾患など多様な合併症を抱えていますので、それぞれに特化した医療機関とタッグを組んでいます。当院だけですべてに対応できるわけではありませんが、患者さんに安心して治療を任せていただくためには、病病連携はもちろん、在宅でお過ごしいただくという点からはクリックの先生方との病診連携も欠かせません。急性期病院やクリニックと相互に患者を受け入れていくことも、回復期を担う私たちの役割です。近年は高齢化も問題で、ADL(日常生活動作)が低下し歩行が困難という場合も少なくありません。そのため送迎バスを運行して対応しています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

当院がめざすのは人に優しいぬくもりのある医療です。患者さんは透析治療が中心で、現在通院中の方や、亡くなった方のご家族から感謝のお手紙をいただくことがあります。自分たちがやってきた想いが伝わったのだと、職員一同のモチベーションになっています。慢性腎臓病は進行してから治療を始めるのではなく、生活習慣病など原因となっている疾患の治療を行い、症状のない慢性腎臓病の初期段階からフォローしていくことが重要です。例えば、健康診断でタンパク尿などの異常があれば、腎機能の状態に関係なく放置せず受診することも必要。最近では透析患者さんのフレイルやサルコペニアも問題になっているため、進行を予防するためにリハビリを提供できるという点は、さらなる私たちの強みになりました。今後も診療とリハビリで皆さんを包括的にサポートしていきますので、慢性腎臓病に限らず、血糖値が高い、血圧が高いという段階からぜひご相談ください。

筬島 明彦 院長
1983年産業医科大学卒業。産業医科大学病院第2内科に入職し、山陰労災病院腎臓内科副部長、産業医科大学第2内科講師、同病院腎センター講師などを経て、2003年に王子病院(現・新王子病院)副院長、2016年に現職に就く。日本透析医学会透析専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本内科学会総合内科専門医。日本腎臓学会功労会員。産業医科大学にて医学博士を取得。