日本赤十字社 鹿児島赤十字病院
(鹿児島県 鹿児島市)
砂原 伸彦 院長
最終更新日:2025/05/27


赤十字病院としての役割と地域医療への貢献
1923年に創立された「鹿児島赤十字病院」。鹿児島県の赤十字病院である同院は災害拠点病院の機能を有し、災害医療を担うほか、救急告示病院として救急医療、へき地医療にも注力。2023年には全120床の病棟のうち、新型感染症の流行拡大を受け、新型コロナウイルス感染症患者用に、病床40床を地域包括ケア病棟に転換。地域の開業医との病診連携、高齢者施設、介護老人保健施設との「顔の見える関係づくり」にも力を入れている。県内の中でも豊富な実績を誇るリウマチの診療では、リウマチ科、整形外科、脳神経外科の連携によるリウマチ膠原病センターを設置し先進の治療に尽力。2022年から同院を運営する砂原伸彦院長は、リウマチ関節外科を専門に整形外科部長として1995年に同院に入職して以来、30年以上同院の診療を行ってきた。「この病院が良い病院だと思うからこそ長く勤めてこられたのだと思います」と話す砂原院長に、赤十字病院としての使命とその取り組み、急性期にも対応する地域の基幹病院としての役割、そして、これからの目標や展望について話を聞いた。(取材日2024年12月2日)
御院の特徴、地域における役割を教えてください。

当院は鹿児島県の赤十字病院として、災害医療やへき地医療など日本赤十字社に属する医療施設としての使命と、地域医療の提供を大きな柱としています。私が当院に赴任した1995年、着任2週間後に阪神・淡路大震災が発災しました。それまでの病院勤務において災害医療の認識はなく、刻一刻と迫る大災害に圧倒されたことを今でも覚えています。当時、救護班は陸路で被災地に向かい、その際の赤十字病院の活動に驚いたところから、私のここでの病院勤務が始まりました。東北地方太平洋沖地震や熊本地震では、私自身も日赤医療班の一員として被災地に派遣され救護活動を行っています。このように災害医療は、当院の大きな特徴の一つです。もう一つは、へき地医療です。当院はトカラ列島の三島をはじめとする鹿児島県鹿児島郡十島村の中核医療施設として、県から4人の医師を派遣していただき、そのうちの2人は専従医師として島の医療に従事しています。
御院はリウマチの治療において豊富な実績をお持ちだそうですね。

120床の小さい病院ではありますが、専門性を持つことは大切だと考えています。リウマチ膠原病センターは1982年に立ち上げられ、外科的手術まで対応できるセンターという立ち位置で病院の特徴を打ち出してきました。副院長がリウマチ内科、私がリウマチ外科を専門としておりますので、積極的な内科的治療を行い、機能障害が進行している方に対しては外科的治療を行う。そして、医療だけでなく、その患者さんがどうやって社会復帰するのかも考え、医師やリウマチ医療の専門知識を持つ看護師、リハビリテーションを行う理学療法士や作業療法士によるチームで包括的な医療を提供しています。生物学的製剤による治療も導入しており、看護体制や副作用対策などの構築による全人的な医療も特徴の一つです。手術を必要とする高齢の患者さんや変形性関節炎などを合併している方に外科的治療を行い、機能障害の改善を図ることがリウマチ科と整形外科の役割です。
救急医療についてもお聞かせください。

救急に関しては、可能な限り地域の患者さんを引き受け、断らない体制をつくることを目標としています。昨今のパンデミック時には、県からの要請で2000年の早い時期から患者さんを引き受けました。40床を新型コロナウイルス感染症患者さん専用の病床として配置、新型感染症に詳しい医師や呼吸器内科の医師はいませんでしたが、新型コロナウイルス感染症は未知の疾患でしたから、全員が診るべき疾患と捉え、リウマチ科、総合診療部門を中心に、要請があれば応じる体制を整えました。一時は、どこの施設も患者さんが引き受けられない状況で問題となりました。しかし、感染者でケガや骨折など外科的治療が必要になるケースもあります。当院が感染症対策をしながら経過的治療に介入する体制を取れたこと、陽性患者さんの引き受けを病院一致の考えとし、赤十字の使命として受け入れたことは、大きな地域貢献であったと自負しています。
先生が病院運営で大事にされていることは何でしょう?

当院の理念の一つに「協働」があります。職員一人ひとりに考え方があり、いろいろな情報も持っていると思いますが、職場においてはお互いの顔が見え、お互いの仕事を理解してともに働くことが必要です。それをよりスムーズに推進できるよう、毎日10分程度の朝会で、医師や各部長、室長が集まり、情報を共有しています。参加はあくまで自由ですが、職場のつながりづくりを目的に継続しています。お互いの人となりを知ることは大事ですし、悩みや苦労、大変さは、ある程度共有しなくてはわからないと思いますね。私が当院に着任して30年、人生の半分をここで過ごしてきました。長く勤めてこられたのは、この病院の在り方が好きだからだと思います。長く診ている患者さんや医療機関から紹介された患者さんは今も診させていただいていますが、動くことが好きだということもあり、院長として自分で動き、病院運営の考え方を示すことも大事だろうと考えています。
最後に、今後の展望をお聞かせください。

2023年の12月に、新型コロナ感染症用の病棟として使っていた40床を、一般急性期ではなく地域包括ケア病棟に転換する許可が下りました。地域包括ケアを始めるにあたっては今までの受け身の医療から、自ら外へ出ていく姿勢が必要です。赤十字病院は院内活動とは別に赤十字の啓発活動や一般的な救護などの活動がありますから、今後は病院としての考え方や活動を広くアピールしていきたいです。そのため、クリニックや施設を訪ね、当院が地域包括ケアに参入したことや当院の特色の宣伝活動に取り組んでいます。また、高齢者施設や介護老人保健施設を擁する近隣の公益施設と協定を結ぶ話が進んでおり、この取り組みをさらに広げていく考えです。医療再編の時代が来ている中、当院の立ち位置を見定め、専門性の高い地域医療を今後も継続していくこと、そして、南九州の赤十字病院として救急医療、災害医療、へき地医療のさらなる発展に努めてまいります。

砂原 伸彦 院長
1985年久留米大学医学部医学科を卒業後、鹿児島大学病院整形外科に入局。その後、10年間大学の関連病院や公的病院などに勤務。1995年、鹿児島赤十字病院に整形外科部長として着任。30年間、同院の医療を支え、赤十字病院としての使命を遂行してきた。2022年4月より現職。同院の整形外科の診療にも力を尽くす。日本整形外科学会整形外科専門医、日本リウマチ学会リウマチ専門医。