椎名 浩昭 病院長

「地域医療と先進医療が調和する大学病院」を理念に、島根県のみならず、山陰地方の地域医療を支え続けている「島根大学医学部附属病院」。先進設備や技術を駆使した高度な医療に力を注ぐ一方、地域住民の安心して暮らせる環境をサポートするために、地域の医療機関や開業医と連携した包括的な医療やケアを実践。各領域で専門性の高い医師が集結し、多職種スタッフと連携したチーム医療を展開している。地域医療の中心的な役割も担いながら、県内で医療を完結できる体制を整えることが目標とのこと。「大学病院として先進的な医療を提供するのは当たり前です。必要な医療をすべて提供できないと、地域の大学病院としての責務を果たせないと考えています」と熱心に語るのは、病院長の椎名浩昭先生。泌尿器科を専門に、国内外での豊富な経験を持つベテランのドクターだ。今回、同院の特徴や注力している分野、今後の方針などを詳しく語ってもらった。（取材日2023年7月14日）

当院の特徴は、何よりも先進的で高度な医療とともに、地域に必要な医療にも力を入れていることですね。「地域医療と先進医療が調和する大学病院」を理念に掲げ、地域医療の中心的な役割も担いながら、県内で医療を完結できる体制をめざしています。具体的には、先進的な医療では重症外傷や脳卒中、心臓疾患の治療、ロボット支援手術、放射線治療などに力を注いでいます。一方、地域の方々が安心して暮らすことができるように、総合診療医センターや総合周産期母子医療センターをはじめ、小児医療や移植医療の充実にも取り組んでいます。また、地域におけるがん診療の質の向上と連携協力体制の構築に向けて、当院は都道府県がん診療連携拠点病院に指定されていることも特徴です。在宅緩和ケアとの連携を強化し、よりシームレスで継続的な緩和医療を実践していきたいなと。患者さんの人生観や価値観を含め、ご希望に沿った医療やケアに尽力したいですね。

県の肝疾患診療連携拠点病院として、肝臓内科では専門的な診療に取り組んでいます。慢性肝疾患の原因であるB型・C型のウイルス性肝炎をはじめ、アルコール性肝障害や非アルコール性脂肪性肝疾患、自己免疫性肝炎、肝硬変、肝細胞がんなど、幅広く対応できる点が強みです。また、県内でも数少ない低侵襲の肝硬度・肝脂肪量測定検査を導入し、生検なしで肝臓の線維化を評価するなど、負担の少ない検査に努めています。肝臓内科では当院で実施した血液検査の全結果を確認し、B型・C型の肝炎ウイルスの感染者の掘り起こしを積極的に行っている点も特徴ですね。一方、肝臓・胆囊・膵臓外科では、肝臓や胆囊、膵臓のがんや良性疾患に対して専門性の高い外科的治療を行い、県内でも実施病院が少ない高難易度手術に注力しています。腹腔鏡での肝臓切除・膵臓切除や、肝臓や膵臓がんに対するロボット支援手術などです。より精密で低侵襲の手術につなげています。

小児科には、小児だけでなく、新生児や神経、循環器、内分泌、小児がんなどを専門とする医師が多数在籍しています。質の高い医療を提供し、患者さんやご家族を包括的にサポートしていくことが目標です。心臓や神経、新生児、血液免疫腫瘍、内分泌、代謝、腎臓、アレルギー、遺伝性疾患、予防接種などの外来診療をはじめ、早産児、病気を合併した新生児に対する集中治療や先天性心疾患、小児がん、てんかん、食物アレルギー、感染症やアレルギー疾患など、あらゆる疾患に対応しています。また、近年は心の問題も増えてきました。必要に応じて、開業医と密に連携し、県内で必要な医療を完結できるようにしています。さらに、医療的ケアが必要な子どもたちやご家族が笑顔で暮らせるように、島根県医療的ケア児支援センターを設置しました。成人後も適切な診療科につないでいきます。そのほか、先天性の心疾患や脳神経疾患の治療にも熱心に取り組んでいます。

当院は、山陰地方でも数少ない先天性心疾患に対応できる施設です。心室中隔欠損症や心房中隔欠損症などをはじめ、多岐にわたる先天性心疾患の外科的治療を行っています。生まれながらに心臓に問題を抱える子どもたちが遠方に行くことなく、当院で良質な治療を受けることができるようにしていきたいなと。小児だけでなく、成人後に先天性心疾患が見つかった場合も、小児心臓外科や麻酔科の医師、臨床工学技士、看護師などが連携の上、チーム医療で対応しています。また、2023年5月には、小児脳神経疾患治療部門を開設しました。もやもや病など、小児の脳神経疾患を専門とする医師を中心に、県内だけでなく、山陰地方の患者さんに対応していく方針です。さらに、頭の形が変形する頭蓋縫合早期癒合症の早期発見に向けて、赤ちゃんの頭の形の外来診療も行っています。向き癖による頭の変形だと診断された場合、ヘルメットによる治療も可能です。

医療の本質は「利他行」。人のために尽くすのが病院の使命だと考えています。患者さん中心で安全・安心な最善の医療の提供をめざし、これからも質の高い医療を追求していきたいですね。近隣の医療機関との病診連携・病病連携もより一層強化してまいります。地域に根差し、地域に信頼され愛される病院として、人々が安心して暮らしていけるようにサポートしながら、広く地域の医療に関わっていく方針です。さらに、院内における医療業務の効率化や、患者に対するサービス面の向上にも取り組み、人工知能（AI）を用いた待ち時間短縮プログラムも開始していきます。どうぞ安心して当院にお任せください。