医療法人 養和会 養和病院
(鳥取県 米子市)
野坂 仁愛 病院長
最終更新日:2024/08/01


心と体のリハビリテーションを提供
JR境線三本松口駅から徒歩約10分の場所に位置する「養和病院」。昭和初期に中国地方で早くから精神科病院として開院して以来、90年以上にわたり地域に親しまれてきた病院だ。現在は精神科、神経内科、リハビリテーション科、形成外科、内科の5つの診療科と230の病床を備え、精神疾患に対する治療や高齢者医療を提供している。2021年に同院へ入職し、2022年より9代目病院長を務めているのは、野坂仁愛(のざか・きみやす)先生。消化器外科を専門とし、がんの手術に数多く携わってきたドクターだ。同法人が運営する各施設や地域の医療・福祉・介護機関と手を取り合い、患者の早期回復、社会復帰へ向けて尽力しているという。「地域の皆さんの幸せのためには、職員が元気であることが大切」と語る野坂先生に病院の成り立ちや特徴、地域との連携について話を聞いた。(取材日2024年6月24日)
病院の成り立ちと歴史について教えてください。

1930年に初代院長である廣江和一先生が米子脳病院として開院したのが当院の始まりです。精神科の病院として発足しましたが、近隣に医療機関が少なかったこともあり、発熱したりケガをしたりといった内科や外科の症状でも当院にかかられる方が多かったようで、地域に密着した医療機関でした。一貫して精神科医療を行ってきましたが、1980年代には時代のニーズに応える形で、認知症を中心とした高齢者医療にも取り組むようになりました。平成に時代が移ってからは、当法人が介護分野での事業も展開。介護老人保健施設の開設に至りました。そして、1996年にはリハビリテーション科を開設。診療の幅が広がりました。何度か名称変更を繰り返した後、2006年にリハビリテーション病院としての機能も持つこととなり、再度、養和病院と改称しました。開院から90年以上にわたり、常に時代の先を読み医療や福祉、介護の需要に応えてきた歴史があります。
来院される患者層や病院の特徴をお聞かせください。

急性期の治療を終えた患者さんが、回復期の治療を行うために大学病院や基幹病院から転院されるケースが最も多いです。老人保健施設に入所されていて、治療が必要となったことで来院される方もおられます。外傷の場合は50代くらいの方もいらっしゃいますが、患者さん全体では80代、90代が多くを占めています。精神科の病院として長く診療を行ってきた実績を生かし、急性期から慢性期まで幅広い精神疾患に対応している点や、近年、患者数が増加している認知症の治療を行っていることが一番の特徴です。精神科病床170床の中にも、急性期治療病棟、精神療養病棟、認知症治療病棟の3つの病棟を設置しています。さらに、充実したリハビリ体制も当院の強みです。適切な治療と多種多様なリハビリにより、一日も早く社会復帰、家庭復帰できるようにして差し上げたいと思っています。「養和病院にかかれば安心」と思ってもらえるような存在でありたいですね。
リハビリではどのような取り組みをしていますか?

リハビリテーション科には理学療法士や作業療法士、言語聴覚士など約100人のリハビリスタッフが勤務。脳性まひ、脊髄損傷、認知症、骨折など、脳血管・運動器・呼吸器に関するさまざまな疾患に対応します。中でも特徴的なのは、利用者さん一人ひとりの体調や状態に合わせたリハビリメニューを作成している点です。日常生活の状況や体の状態を診た上で、オーダーメイドのリハビリを提供。VR(バーチャルリアリティー)など先進技術も積極的に導入しています。車いすの身体適合評価を行うシーティング専門の外来など、分野に特化した外来の充実も特徴といえます。摂食嚥下に対しては誤嚥性肺炎の発症予防をめざし、内視鏡を用いたリハビリ体制を構築。さらに、心理室では公認心理師・臨床心理士によるカウンセリングを行い、ご本人とご家族の情緒の安定をめざす取り組みも行っています。体のリハビリに加えて、心のリハビリにも注力しています。
病院運営で大切にされていることは何ですか?

当院が所属する法人では理念として「ご利用者の幸せ 地域の幸せ 職員の幸せを提供します。」を掲げていますが、その言葉のとおりですね。治療やリハビリを通して利用者さんや地域の皆さんの幸せにつなげていきたいです。そのためにはまず、職員自身が幸せであることが重要だと考えています。週に1度、各部署の代表者が集まってミーティングを行うのですが、その場でも「職員は当院の財産であり、宝。みんなの元気が一番大切」という話を繰り返ししています。職員の心身の健康を守ることも私の使命だと考えています。そして病院全体を「ワンチーム」と捉え、チームワーク良く仕事をすることも意識しています。先日も職員駅伝大会を開催し、多くの職員が出場しました。陸上競技場のトラックをチーム内で40周するという競技方法で、走った人も応援した人も皆が一緒になって楽しみました。今後もそういった活動を推進していきたいと考えています。
地域との連携も重視されているそうですね。

入退院時のサポートとして、地域連携室が病院やクリニック、高齢者施設・福祉施設や在宅支援事業所などと密に連絡を取り合い、ご利用者やご家族との橋渡しをしています。ご家庭に帰ることが難しく、長期的に医療と介護を必要とする方に対しては、併設している介護医療院への入所の案内も行い、医療だけでなく介護の面でもサポートさせていただいております。地域連携の一環としては、病院やクリニックの医師や看護師、福祉や介護に携わるスタッフが一同に集う勉強会へ積極的に参加しています。会議では今まで実際に起こった症例の振り返りを行い、今後に向けて改善できる点を共有しています。書面では伝わらないこともたくさんありますし、地域を支える多職種のスタッフが直接、顔を見合わせて話をすることで、より連携が深まっていると実感しています。このようなつながりも大切にしながら、誰もが暮らしやすい地域づくりに向けて今後も尽力してまいります。

野坂 仁愛 病院長
1982年鳥取大学医学部卒業。専門は消化器外科で胃、大腸、肝胆膵など消化器に関する手術を数多く担当し、研鑽を積んだ。山陰労災病院では外科部長、副院長を歴任。院長代行を経て、2022年より現職。同院では内科の外来診療を担当。患者の状態をしっかりと自身の目で診る、患部に触れる、胸の音を聞く、といった診療の基本に重きを置き、診療にあたる。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医。