社会福祉法人恩賜財団 済生会中和病院
(奈良県 桜井市)
中島 祥介 病院長
最終更新日:2024/12/09


地域に愛され必要とされる病院をめざす
桜井市の「済生会中和病院」は、1942年に開設された済生会桜井診療所を前身として、1954年に開院した。同院の母体である済生会は「施薬救療の精神」のもと、「病、老い、障害、境遇などに悩むすべてのいのちの虹」となるべく、社会的弱者にも親身に寄り添った医療をめざす福祉法人。同院も済生会の一員として、会の理念を大切にしながら、地域の特性に合わせた「地域とともに歩む病院」としての医療活動を展開している。2015年に地域医療支援病院に承認され、2019年には在宅療養後方支援病院となり、手術支援ロボットを導入するなど、診療のレベル向上に注力。地域包括ケア病棟、防災センターや健診センターも設置するなど、地域の医療機関、行政、そして何よりも地域住民との良好な関係を深め、医療と福祉を支える地域にとってなくてはならない病院をめざしている。2024年には創立70周年を迎え、「もう一歩前進できないかと常に考えています」という病院長の中島祥介(よしゆき)先生に、地域における同院の位置づけや注力している診療、今後の目標などについて語ってもらった。(取材日2024年9月27日)
地域における病院の位置づけや特徴を教えてください。

桜井・宇陀地区でのスムーズな医療の提供をめざして、宇陀市立病院との連携を進めているところです。当院は主に急性期、宇陀市立病院は回復期医療を担当しており、当院の医師が宇陀市立病院で診療を行い、手術が必要と判断した患者さんを引き受けるといった取り組みもスタートしています。当院には48床の地域包括ケア病棟があり、回復期医療も提供していますが、48床の規模では到底足りず、宇陀市立病院との連携が欠かせません。地域の人口が減少傾向にある中、奈良県の地域医療構想では、急性期医療の割合を減らし、回復期のベッド数を増やしていくというのが基本的な考え方です。しかし桜井・宇陀地域では、急性期医療を受けるために遠方の病院を受診される方も少なくありません。こうした地域の特性を考えると、急性期医療の機能充実が必要で、県の理解・協力を得ながら地域の急性期医療を十分に受け止められる病院としての機能の充実をめざしています。
特に注力しているのはどのような診療ですか?

当院は、がん診療に力を入れており、手術、抗がん剤による治療、放射線療法などすべてに対応できるがんの集学的治療で、幅広い種類のがんに対応しています。より安全に高度な化学療法が提供できるよう無菌室を設置し、放射線治療においては、周囲の正常組織への影響を最小限にする定位放射線治療や強度変調放射線治療など高精度の放射線治療を提供しています。済生会の「施薬救療」の精神に則ってがん相談支援センターを設け、患者さんやご家族のさまざまな悩みに対応しているのも当院らしい特徴です。さらに、より質の高いがん医療を推進すべく、手術支援ロボット導入を目標にクラウドファンディングによる資金調達に挑戦しました。おかげさまで目標を超える支援をいただき、2024年11月には手術支援ロボットを取り入れた手術を開始する予定です。たくさんの応援メッセージも頂戴し、地域の期待に応えられるよう尽力してまいります。
急性期医療についてはいかがですか?

地域医療支援病院として、救急医療の充実は重要な課題です。救急医療を含めた桜井・宇陀地区での当院の医療貢献度は、現在50%弱で十分とはいえず、行政からの助言もいただきながら75%を目標にさまざまな取り組みを実践しています。例えば、腹痛に加えて吐血や下血を伴い、緊急の治療が必要と考えられる重症腹症の患者さんを迅速に受け入れられるよう、奈良県の重症腹症の救急患者受け入れのためのネットワークに参加。小児救急についても奈良県のネットワークに参加し24時間体制で断らない救急に努めています。また、脳血管内治療の専門家が加わり、院内の脳卒中センターと消防救急隊との間にホットラインを設け、脳卒中の受け入れにも力を入れています。放射線科にはがん治療や救急医療にも役立つIVR(画像下治療)のエキスパートも在籍。従来なら開腹手術が必要となったケースに対して、画像で確認しながら治療を提供できるのも当院の強みです。
地域連携のための取り組みについても教えてください。

2015年に地域医療支援病院に承認され、現時点で関連医療機関は134施設に上ります。さらに2019年には在宅療養後方支援病院となり、12の医療機関との連携体制を整えています。院内に相談支援センターを設けており、地域連携に関わるさまざまな職種のスタッフが在籍しているのが当院の特色です。相談支援センターは地域医療支援病院、在宅療養後方支援病院としての要となる医療・介護・福祉の連携を担当しており、急性期の治療を終えた患者さんが、不安なく回復期診療や在宅療養に移行できるようサポートする地域連携室や、入退院や治療に関わる悩みなどに対応する医療相談室としての役割を担っている部署です。済生会の重要事業の一つである「無料低額診療事業」の推進に向けての活動を担当しているセクションでもあります。社会情勢や医療を取り巻く環境が厳しさを増す中、今後も済生会の精神を大切に奮闘努力を続けます。
今後の展望や目標を聞かせてください。

私自身、常に夢を持つようにしています。どんな大きな夢を持っても、夢は無料ですからね(笑)。私は外科の医師で、ヨーロッパの中でも肝臓移植の豊富な実績を持つドイツのボン大学に勤務し、帰国後は国内での肝臓移植のスタートに向けて注力しました。国内での肝臓移植の実現は、外科医としての夢だったからです。当院の場合は、救急医療、がんの治療で、もう一歩前進できないかと常に考えており、チームワークを生かして夢に向かって挑戦していくつもりです。まだまだ充実させるべき部分は多くありますが、当院にはそれを実現できる力が備わっていると思います。夢の実現は、1人では難しくても、皆で協力すればかなうと信じています。当院にはさまざまな職種のスタッフが在籍していますので、それぞれの立場を尊重し、各人が意欲を持って力を発揮できる病院づくり、もう1歩挑戦してみようと思える環境づくりが、病院長としての大きな使命だと考えています。

中島 祥介 病院長
1975年奈良県立医科大学医学部卒業。ドイツボン大学外科助手、奈良県立医科大学消化器・総合外科教授、同大学附属病院副院長等を経て2019年より現職。不思議なこと解決すべきことをサイエンスして技量(アート)を身につけ患者や周囲の仲間へのヒューマニティーに基づき医療として提供することをモットーとする。専門は消化器外科、肝胆膵外科、移植再生医学。日本外科学会外科専門医。趣味は音楽、公募でオペラに出演も。