地方独立行政法人 岐阜県立多治見病院
(岐阜県 多治見市)
近藤 泰三 病院長
最終更新日:2020/11/25
最後の砦の意識をもって3次救急に対応
土岐川と山々の緑に囲まれた場所に立つ「岐阜県立多治見病院」。東濃・可児地域の基幹病院として、35の診療科を有し、先進の機器を備える高精度放射線治療センターをはじめ地域周産期母子医療センター、化学療法センター、救命救急センターなどのさまざまな医療部門も充実させている。近年になって緩和ケア病棟や精神科病棟も次々と開設。地域のニーズに応えるべく新病棟の建設も始動している。3次救急病院としての役割も大きく、近藤泰三院長は、「東濃・可児地域の最後の砦として職員たちは懸命に救急医療に励んでいます」と語る。9年前に地方独立行政法人となったのを機に、病院経営の仕組みも変化し、近藤院長も多くの改革に着手してきたという。どのように進化し、地域医療に貢献しているのかについて詳しく聞いた。
(取材日2019年8月16日)
こちらの病院の歩みについて教えてください。
当院は1939年に設立され、少しずつ診療科も増えて1958年に総合病院となりました。大きく変化したのは、2010年に地方独立行政法人となったことですね。地方独立行政法人となる前は、岐阜県内にある3つの県立病院の間で人事異動がありましたが、地方独立行政法人の場合、転勤がないので、職員は「自分たちの病院」という意識を強く持つことができます。地方独立行政法人というのは会社のようなシステムで、補助金を使って公立病院では取り組めないようなことにも取り組んでいけますので、今年の3月には院内保育所も新しくして、受け入れる幼児の定員を増やすことができました。子どもができたからという理由で辞める職員も少なくなりましたね。働きやすい環境づくりをすることで、患者さんにも良質な医療が提供できると思います。
数多くの診療科があるようですが、特徴的な診療科はありますか?
総合病院で精神科があるのは岐阜県では当院を含め2ヵ所です。精神科では、他科で入院中の患者さんがせん妄やうつ状態など精神的問題を呈した場合、主科と連携して治療を行っています。肺がん、肺気胸などの手術や肺外傷の治療をする呼吸器外科、乳腺・内分泌外科も他ではない診療科ですし、整形外科には、手を専門に診ている医師がいます。また、耳鼻咽喉科や歯科口腔外科での手術数が多いのも特徴ですね。補助金を受けているので政策医療という意味にもなりますが、結核病棟、感染症病棟を設置している数少ない病院でもあります。結核患者が減っているように思われていますが、日本は先進国の中ではかなり多いほうなんですよ。年を取って免疫が落ちたことで、罹患経験のある患者さんが再度、発症するんです。免疫が抑え込まれているだけなので、がんになった患者さんが結核も発症するということがあり、高齢者の割合が多いです。
3次救急病院としての役割についてお聞かせください。
さまざまな診療科を設置しているのは、東濃・可児地域における3次救急病院である当院の責務として、必要とされているからこそ設置したと言っていいかもしれません。中津川や信州の2次救急病院で手に負えないケースも含め、多くの救急搬送があり、ドクターヘリで搬送されてくるケースもあります。その多くが重篤な患者さんで、当院で手に負えない場合は愛知県に送るしかありませんから、職員たちはいつも「東濃・可児地域の最後の砦」という気持ちで懸命に医療にあたっています。愛知県などは、3次救急であっても1次救急や2次救急といった比較的軽症の患者さんも多いようですが、当院の救急科には軽症の患者さんはほとんど来ないので、研修医にとっても勉強になる医療機関でもあると思います。整形外科で取り扱う緊急外傷手術は県内でも特に症例数が多く、緊急の外傷手術も多数行っております。
先生がこの病院に赴任してどんな取り組みをされましたか?
地方独立行政法人となる前は、地域の医師会とのつながりが薄かったこともあり、地域医療機関との連携を強化しました。開業医の先生方を訪問したり勉強会を行ったり、地域住民向けには、当職員による健康講座も市内各地の公民館で年に20回ほど開催しています。私が小牧市民病院で考えたシステムなのですが、開業医の先生方に逆紹介した患者さんの通院先に、1年後に当病院への受診を促すお便りを送るという「多治見シャトル」も取り入れました。総合病院を退院した患者さんは、地域のクリニックで経過観察していただくのが普通ですが、中にはクリニックに通うのを嫌がる患者さんもいらっしゃいます。近くの医院に通院していても、「来年には検査のために当病院を受診できますよ」と伝えることで、患者さんも安心してクリニックに通院でき、病診連携につながるのではないでしょうか。
今後の展望と地域の方に向けたメッセージをお願いします。
2024年頃には新中央診療棟を完成させる予定で、まずは、最初に立体駐車場を作ります。地域がん診療拠点病院としての役割を果たすべく2013年に開設された高精度放射線治療センターでは、昨年から2台となった放射線治療器が現在フル稼働しており、がん治療に大きく貢献していることも知っておいていただきたいですね。2010年に完成した新病棟8階にある緩和ケア病棟では、「第2の家」をコンセプトに、医師、看護師、ソーシャルワーカーなどがチームで患者さんを支えています。最期の時期を当病棟で過ごすことだけを目標とするのではなく、症状を緩和した後の療養の場所を調整して、自宅での療養も含め、その人らしく過ごせるように支援することも大切にしています。今後も地域の皆さま、各医療機関とのコミュニケーションを図りながら、3次救急病院としての医療を引き続き行っていきたいと思います。
近藤 泰三 病院長
1980年名古屋大学医学部卒業後、複数の病院の勤務を経て、2014年に岐阜県立多治見病院内科部長として赴任。2018年から同院理事長兼病院長を務める。専門は循環器内科で、冠動脈血管形成術の黎明期より冠動脈インターベンション治療を数多く行っており、現在も外来診療をしている。また、大学時代から医療情報システムを得意とし、各勤務病院にて電子カルテの導入を主導的に進めてきた実績を持つ。