QOLに大きな影響がある肩腱板断裂
関節鏡下手術で改善をめざす
医療法人親仁会 佐藤病院
(栃木県 宇都宮市)
最終更新日:2025/04/25


- 保険診療
スポーツをしている人や、日常生活の中で肩の痛みや動かしにくさに悩む人は少なくないだろう。特に中高年の場合、肩の痛みをいわゆる「五十肩」だと思い込み、痛み止めの薬や湿布を使いながら様子を見ている人もいるかもしれない。しかし、「五十肩だと思っていても、実は肩腱板が断裂しているケースも少なくありません」と話すのは、「佐藤病院」でスポーツ整形外科を担当する鈴木一秀先生。肩関節のスペシャリストでもある鈴木先生によると、肩腱板の断裂を放置すると症状が悪化し、最悪の場合は人工関節が必要になることもあるため注意が必要だという。そこで今回は、鈴木先生に肩のケガ全般のことや、特に代表的な肩腱板損傷の治療法について、詳しく教えてもらった。(取材日2025年2月14日)
目次
気づかないこともある肩腱板断裂。痛みがあるときには専門家を受診することが大切
- Qスポーツ整形外科ではどのような患者に対応していますか?
- A
スポーツ整形外科の鈴木先生。肩関節疾患を専門にしている
スポーツ整形外科で診るのは、急激な外力によって生じる「スポーツ外傷」と、同じスポーツを長期的に行い、同じ部位に繰り返しの負荷がかかり続けてしまうことで、慢性的に組織が損傷される「スポーツ障害」に分けられます。スポーツ外傷では、突き指や骨折、打撲、脱臼、靱帯損傷、腱断裂、肉離れなど。スポーツ障害は、野球肩や野球肘、テニス肘、テニスレッグ、ゴルフ肘、ランナー膝、ジャンパー膝、アキレス腱炎、疲労骨折などがあります。当院では、さまざまなスポーツのアスリートレベルから、趣味のスポーツによるケガや障害に対応しています。私はスポーツ整形外科の中でも、特に肩関節疾患を専門にしています。
- Q肩関節の疾患にはどのようなものがありますか?
- A
スポーツに関連する肩のケガは、インナーマッスルである肩腱板の損傷や断裂、上腕二頭筋長頭腱の付着部である上方関節唇の損傷、肩関節の脱臼や亜脱臼が代表的です。肩腱板損傷は、野球の投球動作で徐々に起こるほか、ラグビーなどコリジョンスポーツの外傷で完全断裂することもあります。外傷性肩関節脱臼や亜脱臼は、肩に強い衝撃が加わることで発生し、特にコンタクトスポーツに多く見られ、野球ではスライディング時に起こることもあります。一方、加齢によって生じる肩の障害には、いわゆる五十肩(肩関節周囲炎)があります。五十肩は肩腱板の断裂など器質的な変化がないにもかかわらず、肩に痛みや可動域の制限が生じる状態を指します。
- Q肩腱板の断裂には、どのような治療方法がありますか?
- A
長期にわたるリハビリテーションでも理学療法士が親身にサポート
まずは、消炎鎮痛剤の服用やヒアルロン酸などの注射、運動療法といった保存療法を検討します。しかし、肩腱板断裂は自然に治ることはなく、放置すると悪化する可能性があります。特に手が上がらない、痛みで夜眠れないといった症状は、現役で力仕事をしている人にとって大きな支障となりますので、手術治療を優先したほうが良い場合も少なくありません。手術後は、断裂の程度によって2週間から1ヵ月半程度、装具で肩を固定する必要があり、車の運転やデスクワークに支障が出ます。通常の生活に戻るまでには約3ヵ月、スポーツの再開には6ヵ月前後かかるため、断裂の大きさや患者さんの社会的背景を考慮して治療方針を決定することが重要です。
- Q関節鏡視下手術を実施していると聞きました。
- A
関節鏡視下手術で患者の負担を減らすよう努めている
当院で行う肩腱板断裂の手術は、基本的に関節鏡下で実施します。肩の周辺に1センチ程度の小さな穴を5つ開け、カメラと鉗子を挿入して手術を行います。肩腱板断裂の手術では、切れた腱板を引っ張り、スーチャーアンカーと呼ばれる糸のついた楔を使い、腱板の付着部である大結節という骨に縫いつけて修復をめざします。断裂が大きい場合などには再断裂のリスクを避けるため、損傷部にコラーゲンシートを貼りつけて修復を図ることもあります。手術は全身麻酔で行い、所要時間は30分から1時間程度。入院は通常4日から1週間程度ですが、高齢者の一人暮らしなど日常生活に支障がある場合には、装具が外れるまで入院することも可能です。
- Q手術後や退院後に気をつけることはありますか?
- A
再断裂を防ぐためにも慎重なリハビリテーションが必要だと語る
腱を骨に再び定着させ、元の強度に近づけるには6ヵ月程度は見る必要があります。この期間中に無理に動かしてしまうと、再断裂のリスクがあるため、慎重なリハビリテーションが欠かせません。断裂が大きい場合は約6週間、小さい場合でも3週間程度の固定が必要で、その後は段階的にリハビリテーションを進めます。リハビリテーションは、他の人に肩を動かしてもらう他動運動から始め、1~1ヵ月半が経過した頃から自分で動かし始めます。その後、腱の修復状態を確認しながら日常生活動作を徐々に増やしていきます。この間、強い力を加えると腱に負担がかかるため、片手で重い物を持つことや手をついて体重をかける動作は避けることが重要です。