社会医療法人社団 新都市医療研究会〔関越〕会 関越病院
(埼玉県 鶴ヶ島市)
中川 芳彦 院長
最終更新日:2024/11/28
中核病院として断らない医療の実践をめざす
埼玉県鶴ヶ島市において、約50年にわたって地域密着の医療の提供に努めているのが、「関越病院」だ。現在は、救急医療を担うほか、内科や外科、整形外科、血液透析などの医療や地域包括ケア病棟の運用など、地域の医療ニーズに応えるための体制を整えている。また、同院が属する同法人内には、3つのサテライトクリニックや介護老人保健施設、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所があり、同院を含めた法人全体で連携し地域包括ケアシステムを実践することをめざしている。そんな同院の院長で、「いつでも、どこでも、誰に対しても断らない医療を、地域の中核病院としてしっかり実践することをめざしています」と優しい笑顔で力強く語る中川芳彦先生に、同院のことや地域医療への思いなどを聞いた。(取材日2024年9月11日)
最初に病院の成り立ちから教えていただけますか?
戦後、日本の医療制度や医学教育はGHQにより改革が行われました。以来、医学部を卒業して国家試験に合格しても、無休で働く医師インターン制度が続きました。当時、さまざまな学生運動が吹き荒れる中、いわゆるインターン闘争が大学医学部から起き、その制度は1968年に廃止されました。その際に東京大学医学部でも従来の医局講座制の弊害の改善を求め、各医局の有志が中心となり大学側と交渉しましたが、うまくいかなかったそうです。そこで大学を出て「自分達で病院を作って地域医療に貢献しよう」と、東大第二外科の有志が1970年に新都市医療研究会を結成し、埼玉県鶴ヶ島市と千葉県君津市に病院を作りました。その一つである関越会は、50年前の1974年に鶴ヶ島市に39床の病院として開設されました。以来、断らないかかりつけの病院として地域の医療ニーズに合わせ救急や急性期医療の充実を図り、現在は229床の中核病院に成長しました。
地域的には、どのような医療ニーズが高いのでしょうか?
坂戸・鶴ヶ島地区は人口17万人の医療圏ですが、2035年には14万6000人になる見込みで、今後は急速な人口減少が予想されます。高齢化も急速に進んでおり、当院も高齢者中心の医療に体制をシフトしてきています。入院患者さんは、心不全や肺炎、胆道感染症、尿路感染症、転倒による大腿骨骨折や脊椎圧迫骨折が多いですが、一つの疾患に対する治療では済まないことがほとんどで、複数の医師やコメディカルが連携しながら治療にあたっています。それでもすべての病気に対応することは難しく、大学病院などにバトンタッチをお願いすることもあります。具体的には、当院は埼玉医科大学病院と同大国際医療センター、同大総合医療センターの3病院から約10キロの等間隔に位置していて、そのいずれかにお願いすることが多いですね。同時に、それらの病院で急性期治療を終えた患者さんの後方支援病院として活用してもらうなど、病病連携も取っています。
診療体制についても教えてください。
まず整形外科では、脊椎や股関節、膝関節、足関節など部位別に専門の医師が在籍しており、手術も積極的に行っています。形成外科も近隣からの紹介も多く当院が誇る診療科の一つです。私が担当している人工透析部門では、血液透析を行う際の血液のルートであるバスキュラーアクセスの関連手術を近隣の透析施設や県外からも受け入れています。循環器内科では、心臓カテーテル検査や治療、不整脈、足の血管の治療も行っています。泌尿器科では、尿失禁治療や結石粉砕など。外科では腹部一般手術や腹腔鏡下手術、乳腺を中心に、緊急の手術にも積極的に対応しています。内科では、総合診療のほかに糖尿病、神経、呼吸器、リウマチに特化した外来も開設しています。また、内科と外科が連携して内視鏡検査や治療も行っています。十分とは言えないかもしれませんが、精神科や小児科、産婦人科以外はおしなべて対応できるよう体制を整えています。
入院の設備や患者サポート体制はいかがですか?
現在、HCU(高度治療室)12床、急性期一般病棟が4病棟、地域包括ケア病棟が1病棟の229床を運用しています。また、関越会の関連施設として、3つのサテライトクリニック、介護老人保健施設、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所などと連携し、法人全体で地域包括ケアシステムを実践することをめざしています。また、当院では早くからPFM(ペーシェント・フロー・マネジメント)に取り組んでおり、患者支援センターを開設して、地域医療連携や入退院支援、医療相談などに一元的に対応しています。予定手術で入院する患者さんも多くなり、「手術準備のための外来」を立ち上げて、多職種連携で患者さんをサポートしています。さらに、昨年には定められた基準を満たし、紹介受診重点医療機関となりました。当院が地域の中核病院になるべく、これまで以上に積極的に地域の医療機関との病病や病診の連携を深めていきたいと考えています。
最後に今後の抱負をお願いします。
断らない医療、それに尽きます。当院はもともと救急医療を要件として認可を受けた社会医療法人で、「地域の誰もが、いつでも適切な医療を受けられること」を目的に設立されたのが関越会です。そして、「anytime, anywhere, for anyone」をキャッチフレーズにしていますが、いつでも、どこでも、誰に対しても断らない医療を地域の中核病院としてしっかり実践していこうと、職員にはいつも伝えています。私自身も気概としては24時間365日を患者さんのために全力を尽くし、「ありがとう」と言ってもらえたら、それで疲れがすべて吹き飛ぶくらいの気持ちで働いています。そして、日本の医療はフリーアクセスが基本ですが、その中で、日々の診療を全力で行い、末永く地域の皆さまに選んでいただける病院であり続けたいと考えています。「断らない医療」を実践し、地域の中核病院として存在感を維持していきたいですね。
中川 芳彦 院長
宮崎医科大学(現・宮崎大学)卒業後、東京女子医科大学第三外科に入局。同大学腎臓病総合医療センターや関連病院勤務を経て、社会医療法人社団 新都市医療研究会〔関越〕会のサテライトクリニックに入職。25年以上にわたって透析医療やシャントの管理に携わった後、2021年より同院に赴任、2022年より現職。仲間とともに埼玉アクセス研究会を立ち上げ、会長も務める。