医療法人徳洲会 羽生総合病院
(埼玉県 羽生市)
松本 裕史 院長
最終更新日:2020/11/25
救急医療から看取りまで広いニーズに応える
羽生を中心とする埼玉北部地域の人々に長期にわたって質の高い医療を提供し続けること。設立以来「羽生総合病院」が変わらず掲げてきたミッションだ。同院は1983年に地域の住民が設立した埼玉医療生活協同組合を母体とし、徳田虎雄氏が理事長を務めていた徳洲会の協力を得て開院。24時間断らない救急を掲げに地域の医療を担ってきた。2018年5月に新病院に移転。集中治療室やPET-CT(がん検査などで使われる核医学検査の一種)、緩和ケア病棟なども完備。救急治療はもちろん、がん治療や循環器疾患の治療、小児科・産科の診療・治療などに至るまで幅広いニーズに応えている。2003年から院長を務め現在の同院をつくり上げてきた松本裕史先生にその思いを聞いた。(取材日2018年7月31日)
移転により、病院機能はどう強化されたのでしょうか?
まず救急医療の受け入れ強化が課題だったので集中治療室を作り1階は外来・2階は救急と分けたり、また屋上にはドクターヘリが止まれるようしたりと重症患者さんをきちんと受け入れられる体制を整えました。加えて、この地域は3割が高齢者ということもあり、がん治療をトータルで行える環境を整備しました。放射線治療装置や診断に役立つPET-CTも導入。また、グループ病院のメリットを生かし電子カルテとテレビ電話を利用して病院の垣根を越えた症例検討会、治療成績を相互に評価するピアレビューシステムを取り入れてマンパワーが足りない分をカバーし治療内容の充実につなげています。「私どもの病院で治療を受けた患者さん、頼ってくれた患者さんは最期まで面倒を見る」を実践するべく緩和ケア病棟も整えました。私は外科の医師ですがずっとこんな姿勢でやってきたのでそれを実現したというわけです。
建物の造りにもさまざまな工夫があると聞きました。
ええ。病院自体が癒やしの場所になることを大事にして、あちこちに絵を飾ったりリハビリテーションを兼ねた散歩道を作ったり。また入り口すぐの約200人収容のホールは通常時は待ち時間に楽しめるちょっとしたコンサートや医学知識を講演する場所として、災害時は椅子を壁に収納してトリアージ(患者の重症度に応じて治療の優先度を決定、選別を行うこと)スペースとして使えるようにしました。病室は看護師さんの「これがいい!」との声を反映した見守り型です。真ん中にナースステーションを置き、周りに部屋を配置するもので、カーテンでプライバシーは確保されつつ、人の気配が感じられる造りになっています。現場で働く人が意見を出し合い作り上げたのがこの病院なんですよ。スタッフと一緒にいろいろな病院を見学に行ってどんな病院が自分たちにふさわしいか10数年考え続けてきたこともあり良いものにできたと思っています。
一丸となって、より良い地域の医療をつくり上げているのですね。
スタッフもこの地域の方が多く、長く務めている人も多いので地域密着と言えるのではないでしょうか。そのため、「患者さんはみんな誰かの関係者」ということも多いですし常にそんな思いで働いています。新しい病院になり同じ生協の中にある介護施設のオフィスも病院の中にまとめました。情報共有が一層しやすくなり、医療・介護の連携もよりスムーズになっています。そんな中で訪問看護や往診、在宅での看取りも行っています。私も往診に行っていましたが患者さんの普段の生活を知ることができる往診はすごく意味があります。患者さんは自宅にいるほうがやはりいい顔をしていますね。ただ病院には安心感もあるので、何でも自宅がいいというものでもありません。だから、訪問看護の看護師さんと常に連携し入院が必要ならすぐ受け入れられるようにして、看取りまで含めて入院でも訪問でも対応できるようにしています。
どういうところに、院長としてのやりがいを感じていますか?
私の専門は外科ですが常にめざしてきたのは「ほかでやれないと言われた人たちを何とか治療する」ことです。無理だと言われるものをどうしたらやれるかを考え実現していくことにやりがいを感じていました。この病院の院長を引き受けたのもその一環です。15年間続けてきましたが職員が本当に真面目に一生懸命働いてくれ、そのおかげで確かな手ごたえを得ています。医療はチームプレーですから一人のスーパースターよりチームの力。そんな今の仕事に通じるマネジメントは昔学生バレーの監督をした時に学んだのかもしれませんね。目標を定め、何とかしてそこに辿りついてやろうとするから道ができるわけです。めざさなければ絶対にそれが実現することはありません。羽生一の病院、埼玉一、日本一でも、まずはめざすと決めるところから。「無理だ」ではなく「どうしたらできるか」を考え、常に1番をめざして挑戦を続けています。
最後に、今後の展望をお願いします。
新病院という箱はできましたがまだまだ十分使いこなせておらず、新しい施設をフル活用していくのは5年、10年先になるかなというところです。必要なのはマンパワーと人をきちんと育てられるシステムですね。その一つとして当院ではもう20年ぐらい看護学生の実習受け入れを続けています。仕事が忙しくそんな余裕はないと言われたこともあったのですが、「教えることでスタッフ自身が鍛えられるから絶対に続けよう!」と続けてきました。リハビリテーションの理学療法士や薬剤師も同様で、また近隣の高校生を対象に夏休みの一日看護体験を行ったりと教育は熱心にやっていますね。実際に実習に来た学生や体験を受けた子が看護師になって入職しています。また当院で生まれた人で看護師になって入職している人もいます。本当にありがたいですね。そうした積み重ねがあってこそ長く安定して存在し地域に貢献できるんじゃないかと思います。
松本 裕史 院長
1984年、群馬大学医学部卒業。専門は外科。三井記念病院、国立がん研究センター、群馬大学医学部附属病院、伊勢崎市民病院などで約20年にわたり研鑽を積む。2005年に羽生総合病院院長に就任し、「病院を新しくする」の使命のもとに改革を進め、新病院建設に尽力。2018年5月に移転を完了。人材育成に力を入れ、更に充実した医療をめざしている。