東松山市立市民病院
(埼玉県 東松山市)
杉山 聡 病院事業管理者
最終更新日:2023/09/25
高い専門性を備えた地域中核病院をめざして
川越比企の公立病院である「東松山市立市民病院」は、1957年の開設以来、市民にとって身近な総合病院として地域医療の一翼を担い続けてきた。ピーク時には200床を超えるまでに増床したものの、近年は深刻な医師不足を背景に、厚生労働省が発表した公立病院の統合再編の検討対象に挙がるなど、岐路に立たされることとなった。しかし2019年4月に就任した杉山聡病院事業管理者を筆頭に改革を推し進めた結果、高度な専門性を備えたドクター陣が新たに加入し、救急対応や脳卒中の治療を強みとした地域の中核病院として生まれ変わりつつある。「市民にとって身近でかかりやすい病院であると同時に、専門性の高い医療に対応できる態勢を整え、地域の幅広いニーズに応えられる医療拠点をめざしたい」と語る杉山病院事業管理者に、同院の成り立ちと地域における役割、新たに加わったドクター陣の強み、救急体制の強化などについて、今後の展望を交えて詳しく聞いた。(取材日2023年7月31日)
こちらは開設から65年以上たつ歴史ある病院ですね。
当初は病床を持たない内科診療の拠点としてスタートしました。徐々に増床し規模を拡大したものの、新臨床研修医制度発足以降の医師の減少に伴い、病床数の削減を余儀なくされたり、救急要請にも十分対応できなかった時期もありましたが、市民にとってなくてはならない病院として行政のバックアップのもと運営されてきました。2019年に私が病院事業管理者兼病院長に就任し、施設の老朽化、医師不足といった課題を目の当たりにし、前途多難ではありましたが、東松山比企地域における中核病院としての役割を果たせる病院としてリニューアルすべく、改革を続けてきました。常勤医の人材確保、救急体制の強化などに奔走した結果、脳卒中治療の充実、救急受け入れ件数の増加など、地域住民の皆さんに安心感を持っていただけるような成果が徐々に出始めてきたところです。
患者層の特徴と、強みとされている分野について教えてください。
やはり高齢の患者さんが多いですが、神経難病や糖尿病、整形外科疾患などの専門的な診療を求めて当院の専門の外来を訪ねて来られる若い世代の方も増えています。2020年初めから新型コロナウイルス感染症の流行が始まり、第2種感染症指定医療機関である当院も対応に追われましたが、並行して常勤医の人材確保に努め、頼もしいドクターたちとのご縁に恵まれました。2021年春には、埼玉医科大総合医療センターの脳神経内科で、多発性硬化症など神経変性疾患の治療を数多く手がけて来られた野村恭一先生に来ていただいたほか、2022年4月からは脳卒中治療専門の医師も加わりました。血管内治療を得意とするドクターということで、血管撮影装置など関連機器も一新し、血栓回収や内頸動脈のステント留置など着実に実績を上げているところです。そのほか呼吸器内科、消化器内科など、現在は内科だけでも計8人の常勤医による体制を整えています。
近年は救急患者の受け入れにも力を注がれていますね。
この地区は比企広域消防の管轄なのですが、2022年の救急患者の受け入れのうち、この地域の中で対応できたのは6割程度で、残りの4割超を熊谷や行田、埼玉医大国際医療センター、埼玉医大総合医療センターなど地域外の医療機関へお願いせざるを得ない状況が続いていました。当院は公立病院ですから、せめて地域外へ出していた患者さんの2割くらいは引き受けられる態勢を整えなくては中核病院とは言えません。私自身、こちらに来る前は埼玉医大総合医療センターの高度救命救急センター長を勤めていた経験から、救急体制の強化を図り、2年ほど前は年間800件程度(2021年4月~2022年3月実績)だった救急要請の受け入れを、現在は1300件超にまで引き上げました(2022年4月~2023年3月実績)。特に脳梗塞の患者さんを積極的に受け入れており、救急体制の強化が当院の診療面の強みを生かすことにもつながっています。
病診連携や病院との連携体制についても教えてください。
当院は長年にわたって結びつきの強い日本大学や埼玉医科大学と連携しているほか、近隣には東松山医師会病院、埼玉成恵会病院等があります。特に東松山医師会病院とは距離が近く、診療実績も似ていることから、厚生労働省から統合検討対象とされた経緯がありますが、病院間で早々に話し合いを進め、互いの強みを生かしたすみ分けと連携強化を改めて合意することができました。また、当院には長年通院されている患者さんも珍しくありません。この地域の医療体制を考えれば、状態が安定している慢性疾患の患者さんを地域のクリニックにお返しすることも、市民病院が果たすべき役割の一つです。そうした考えのもと、今後も病病連携、病診連携の取り組みをより一層進めていきたいと思っています。
今後の展望についてお聞かせください。
泌尿器科・外科の手術用ロボットや整形外科手術用ナビゲーションシステム、先進の脳神経外科手術用顕微鏡などの導入や、外来の自動受付、会計の自動化などを検討しているほか、医師・看護師の増員を含め、地域の中核病院として診療環境をより一層充実したものにしていきたいと考えています。地域医療に対する地域の皆さんの要望として周産期や小児医療の充実を求める声が多く聞かれます。また、この地域には三次救急を受け入れる医療機関はありません。今後はより多くの市民の皆さんのニーズに対応出来るよう5疾病6事業体制の確立をめざし、更なる増床や地域救命救急センターの設立、新病棟建設などを計画したいと思います。地域にお住まいの皆さんにとって、かかりやすい病院であるとともに、高度な専門性を備えた信頼される医療機関として存在感を高めていけるよう、引き続き成長を続けていきたいですね。
杉山 聡 病院事業管理者
埼玉医科大学卒業。東北大学医学部附属病院脳神経外科に入局後、大分医科大学医学部附属病院脳神経外科などでキャリアを積む。埼玉医科大学総合医療センター高度救命救急センター長を経て、2019年4月に東松山市病院事業管理者兼病院長に就任。2021年4月からは病院事業管理者として、医師の招へい、経営強化など病院改革に奔走。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医。日本救急医学会救急科専門医。医学博士。