防衛医科大学校病院
(埼玉県 所沢市)
塩谷 彰浩 病院長
最終更新日:2025/01/28
育成を担い、地域住民の健康も守る
1977年に開院した「防衛医科大学校病院」は、埼玉県所沢市の広大な敷地に立つ病院だ。医師である医官、看護官などの育成を担う防衛医科大学校と並び立ち、医官等の卒後教育に寄与すると同時に、地域医療の拠点として埼玉県西部に広く高度な医療を提供する。「自衛隊の病院というと閉ざされたイメージを持つ方も多いのですが、当院はこれまで50年近くにわたり、地域の皆さんに広く門戸を開いてきました。防衛医大病院があるから安心、と言ってくださる方も多く、県西部における最後の砦と思い、その使命を果たしています」と塩谷彰浩病院長。同院ならではの医療の特色や今後の展望などについて話を聞いた。(取材日2024年9月13日)
地域の方が日常的に受診される病院なのですね。
当院は、医官や看護官などの育成を最大の任務としながら、地域の皆さんに広かれた大学病院として1977年から診療してまいりました。特定機能病院、第三次救急指定病院、災害拠点病院の承認や指定を受け、高度な医療を総合的に提供できる県西部最後の砦として日々の診療にあたっています。自衛隊の病院には、自衛官のみが利用できる職域病院もあるため、新たに転入された方の中には当院もそうした病院の一つであると誤解される方がいらっしゃるかもしれません。身近な地元の病院として頼りにしていただけるとうれしいですね。一方、防衛医科大学校を卒業した医官や看護官は、医療者としての高いスキルと知見、臨床能力に加えて幹部自衛官に求められる資質を習得し、事態対処や大規模災害を想定した教育・訓練を受けています。そこで得た災害医療、感染症対策、救急医療の知識と経験を地域医療に還元する循環は、私たちの大きな特徴です。
幅広い診療科目の中でも、特に強みがあるのはどの領域ですか。
泌尿器科では、尿道狭窄の診療に力を入れております。尿道狭窄は、骨盤骨折や会陰部の外傷、経尿道的手術、放射線治療の後遺症として発症することが多く、非常にポピュラーな疾患です。当科では、高度で治癒率が見込める尿道形成術を提供しており、口腔粘膜を用いた尿道形成術を含むさまざまなタイプの手術に対応しています。全国から多くの患者さんが紹介され、すべての尿道形成術は保険適応です。患者さん一人ひとりに最適な治療を提供することと、それによる生活の質向上をめざしています。尿道狭窄でお困りの方は、ぜひご相談ください。また、近年患者数が増加している大腸がんを中心に、下部消化管外科の上野秀樹教授を筆頭に豊富な症例を誇ります。早期大腸がんに対しては、転移のしやすさを評価した上で適切な外科治療を選択する取り組みも行っているんですよ。
先生のご専門である耳鼻咽喉科領域についてもお聞かせください。
得意とする慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎に対する手術治療のほか、高度感音難聴に対する人工内耳埋込み術にも対応しています。また、口腔咽喉頭・頭頸部領域のがんでは、単にがんを取り除くことのみならず、術後のQOLにも配慮した治療を心がけてきました。特に喉は、嚥下や発声といった重要な機能を担っているため、できる限り機能を温存することが非常に重要です。当院では、内視鏡を用いた経口的咽喉頭がん切除術を独自に開発し、従来のように皮膚や気管を切開せずに口腔内からがんを切除することによって、根治と機能温存の両立ができるようになり、国際的にも注目されています。がんの場所や進行度によって、適した治療法を提案していきたいですね。今挙げた診療科以外にも、すべての診療科が非常に高いレベルで質の高い検査・治療を行っており、満足度の高い治療を提供できると自負しています。
病院長就任後、どのようなことに力を入れておられますか。
大きく2つあります。1つは、定期的に病棟を回り、スタッフと対話することです。病院の医療安全が脅かされる要因の大半はコミュニケーションエラーだといわれています。患者さんに安心安全な医療を提供することは医療の基本ですから、平時から信頼関係を深め、些細なことでも報告し合い、進言し合える体制を構築したいと考えています。毎年配布する安全ハンドブックの病院長メッセージでも、ストレスや怒り、不条理な力関係などが心理的安全性を低下させ、コミュニケーションエラーを起こすことについて注意喚起しました。一人ひとりが上手に感情をマネジメントできるよう促し、患者さんも働く人も安心できる病院づくりを進めていきたいですね。それからもう1つは、地域医療連携の強化です。患者支援センターが中心となって回復期、慢性期の病院との関係づくりに努めるほか、年に2回開催する地域連携の会ではテーマを決めて勉強会を行っています。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
2022年に閣議決定された国家安全保障戦略に従い、防衛力整備計画において示された「戦傷医療の教育・研究の強化」、「医官及び看護官の臨床経験をより充実させるために必要な運用改善」を実現するため、当院でも、自衛官の健康管理だけでなく外傷等に対処する能力の向上に努めていきます。具体的には、当院に「外傷・熱傷・事態対処医療部門」を立ち上げる準備を進めており、救急医療における外傷の症例を積極的に集めて地域貢献するとともに、訓練などで負傷した自衛隊員を一貫して治療できる体制の整備を始めました。将来的には、それら専門的な技術と知識を持つ医官、看護官についても育成できる体制となります。施設の老朽化に伴う建て直しの計画も着々と進んでいます。今後も引き続き、「防衛医科大学病院なら家族を診てもらいたい」と言っていただけるような病院をめざして、努力と研鑽を続けてまいります。
塩谷 彰浩 病院長
1987年慶應義塾大学医学部卒業。同大耳鼻咽喉科准教授を経て2006年度から防衛医科大学校耳鼻咽喉科教授。2021年度から現職。「喉頭機能の温存と再生」の観点から頭頸部外科学、喉頭科学の分野で実績を残しており、咽喉頭がんの低侵襲手術として経口的咽喉頭部分切除術(TOVS:Transoral Videolaryngoscopic Surgery)を自ら開発し、普及させた。