独立行政法人国立病院機構 下志津病院
(千葉県 四街道市)
重田 みどり 院長
最終更新日:2022/03/16
四街道市で地域医療を支える歴史ある病院
千葉市北側に接する四街道市の中心部にあり、総武本線四街道駅からも四街道ICからも近い交通至便な場所に位置する「下志津病院」。全国に140ある国立病院機構の病院のひとつで、結核療養、筋ジストロフィーや重症心身障害医療、気管支喘息の小児の長期入院療法など、時代と社会のニーズに応え、また難病患者、病気や障害のある子どもたちに寄り添ってきた歴史のある病院だ。各領域で専門的な医療を提供するとともに臨床研究にも活発に取り組み、医療の発展にも貢献してきた。2020年から病院運営を担うのは、小児科出身の重田みどり院長。重症の患者も多い病院として、患者一人ひとりを大切にする医療を理念とする。「強いリーダーシップを発揮するより、各部署の意見を聞きながらバランス良く病院運営を進めたいと考えています」と語る重田院長は、女性医師として仕事と家庭を両立してきた自らの経験も生かし、職員が働きやすい環境づくりにも積極的に取り組む。そんな重田院長に、特色ある専門医療に加え、近隣医療機関と連携しての高齢者医療など地域医療の一翼を担い、四街道市の市民病院的な存在をめざす同院について聞いた。(取材日2022年2月16日)
まず、こちらの病院の成り立ちを教えてください。
前身は陸軍病院で、戦後、厚生省に移管され結核療養所となり、その後、筋ジストロフィー病棟と重症心身障害病棟に転換されました。さらに、併設されていた養護学校と協力して、気管支喘息小児の長期入院療法が行われました。また地域のニーズに応えて外科、整形外科、リウマチ・膠原病内科、消化器内科の診療も開始されました。その後、治療法の進歩により、入院する病気も様変わりしています。例えば、気管支喘息は吸入ステロイド治療により入院の必要性が大幅に減少し、外来での対応が可能になりました。また、リウマチ・膠原病も生物学的製剤が登場したことによって入院治療から外来治療に移行してきています。現在は、筋ジストロフィー、リウマチ・膠原病、整形外科疾患、小児のアレルギー疾患などの専門医療と、重症心身障害医療に取り組むとともに、近隣医療機関と連携しての高齢者医療、高度急性期病院からの転院受け入れなど地域医療を担っています。
では、特色のある診療分野について教えてください。
当院の神経内科では、脳や脊髄、末梢神経、筋肉の病気について幅広く診療しています。難病の患者さまに寄り添ってきた歴史のある病院であり、診療とともに臨床研究も活発に行われてきました。以前から力を入れてきた筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症をはじめとする神経・筋疾患に加え、パーキンソン病、脊髄小脳変性症などの神経難病などの診療を行っています。診断には、CT、MRIなどの画像診断に加え、針筋電図や神経伝導速度検査、筋生検で、神経や筋肉の性状を評価することもできます。最近は、脳神経疾患や神経・筋疾患の原因究明や、遺伝子に関わる診断・治療方法の開発が精力的に進められており、当院でも高度な医療や先進の情報を患者さまに提供しています。また、神経内科領域でのリハビリテーションにも注力しております。さらに近隣の訪問診療の先生方と地域医療連携室を通じて連携を図り、神経難病の在宅療養支援も行っています。
リウマチ・膠原病内科、整形外科の患者さまも多いそうですね。
リウマチ・膠原病内科の領域では、約30年にわたり、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群などの膠原病の診療を行ってきました。これらの疾患は関節の腫れや痛みに加え全身に影響を及ぼす病気ですが、近年の治療薬の進歩により治療成績は著しく向上しました。当院では専門性が高く経験豊富な医師が多く在籍し、多様な疾患に対処できることが強みであり、地域の医療機関と連携して診療を行っています。整形外科では、高齢者の股関節・膝関節と脊髄脊椎の変形性疾患、転倒による股関節骨折などの紹介が多く、地域の中核的な病院として機能しています。関節リウマチ、変形性関節症、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、頸椎症性脊髄症などの診療に力を入れています。高齢化に伴い、骨折、手足の外傷など緊急の治療が必要な患者さまも増えています。骨粗しょう症診療も行っており、薬物治療による骨折予防をめざしています。
小児科、小児神経科の分野ではどのような特徴がありますか。
小児科では当初よりアレルギー疾患を専門としてきました。気管支喘息は吸入ステロイドや生物学的製剤などの治療法の進歩により重症例は減ってきており、現在は食物アレルギーが中心です。食物負荷試験による診断、最低限の食物除去を基本に、アナフィラキシーに対処するための薬の処方・指導などを行っています。スギ花粉症やダニアレルギーに対する舌下免疫療法、アトピー性皮膚炎のスキンケア指導も実施しています。また地域の小児救急医療に対応する病院でもあります。重症心身障害病棟は50年以上の歴史があり、千葉県の重症心身障害医療の中心的存在となっています。NICU(新生児集中治療室)退院後、在宅医療へ移るまでの間の入院や、医療的ケア児の短期入院にも対応し、通園ルームも開設しています。また、発達相談、心理面に関する面談も行っており、さまざまな症状で不登校になった児童が併設の特別支援学校に通いながら長期入院しています。
院長としての思いや展望について聞かせてください。
当院は筋ジストロフィーや重症心身障害など、障害のある方を対象とした医療に取り組んできた病院ですので、患者さま一人ひとりを大切にする医療をめざすことを理念として掲げています。また、職員が働きやすい環境づくりや、個人の生活や家庭を大切にできる体制も重要だと考えています。病院の展望としては、これからも筋ジストロフィー病棟、重症心身障害病棟の運営とともに、四街道市民の方が困った時に頼りにしていただける市民病院的な存在として、地域から望まれる役割を果たしていきたいと考えています。コロナ禍においても、職員一同細心の注意を払って感染症対策に取り組むとともに、四街道市の要請を受けて新型コロナウイルスワクチン接種会場を院内に設けました。将来的には老朽化した建物を建て替え広い敷地を整備して、小児から高齢の方、障害のある方も通院しやすい病院に生まれ変わり、四街道市の発展に寄与できる病院になりたいと思っています。
重田 みどり 院長
1984年筑波大学卒。筑波大学小児科および関連病院で研修後、夫の留学に伴い家族で渡米。フィラデルフィア小児病院で学ぶ。帰国後、横浜市、つくば市の総合病院小児科に勤務。2007年から勤務した国立病院機構千葉医療センターで教育研修部長、統括診療部長を経て、2020年、国立病院機構下志津病院に異動し現職。気候が温暖で自然に恵まれた千葉県が気に入り、休日は房総半島のハイキングを楽しむ。