医療法人学而会 木村病院
(千葉県 千葉市中央区)
渡邉 博幸 院長
最終更新日:2025/02/10
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地域のニーズに応え進化を続ける精神科病院
千葉駅からバスで10分ほどの住宅街に位置する「木村病院」は、1928年開設の精神科病院。90年以上にわたり、地域に根差した精神科医療を提供してきた。時代と地域のニーズに応え、1997年頃から収容型医療からの脱却を進め、現在では入院治療の軸を救急急性期に移行。精神科救急医療にも注力し、24時間365日体制で精神科救急患者を受け入れている。また、病床数を削減しながらストレスケア病棟の設置や、女性と児童を専門に診る外来など新たな専門医療サービスを展開。若い世代や子育て世代のニーズに応える医療提供体制を構築している。2016年から院長を務める渡邉博幸先生は、千葉大学社会精神保健教育研究センター特任教授を兼任する経験豊富なドクター。国保旭中央病院では精神科病床の減少などの構造改革に取り組んだ経験を持つ。「精神科医療は決して特別なものではなく、誰にとっても身近な存在です。気軽に相談できる環境を整え、セーフティーネットとして機能する病院でありたいと思っています」と語る渡邉院長に、同院のこれまでの変革と診療内容について話を聞いた。(取材日2025年1月15日)
病院の成り立ちについて教えてください。
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当院は1928年に開設された精神科病院です。「精神医療は、家庭的看護によって開放的に行われるべきである」の理念のもと、100年近くにわたり地域の精神科医療を支えてきました。一般的に精神科病院は郊外にあることが多いですが、当院はアクセスの良い静かな住宅地に位置しています。近隣には幼稚園やスーパーなどもあり、地域に開かれた都市型の精神科病院であることが当院の特徴だと思います。かつては約280床を有する入院中心の病院でしたが、故木村章先代理事長の意向により方向転換。2014年頃から長期入院患者さまの地域移行を進めながら病床数を減らし、収容型の病院から社会・福祉資源を活用しながら患者さまが地域で生活できるよう支援する病院へとかじを切りました。私は2016年に院長として入職し、単に病床を減らすのではなく病棟の役割や機能を見直すことで高規格化を図るなど、院内の構造改革を進めてまいりました。
具体的にはどのような取り組みを進めてきたのですか?
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長期入院されていた患者さまの地域移行を進めるための退院支援を行いながら、ストレスケア病棟、精神科救急急性期病棟(スーパー救急病棟)の建設と運営、難治性の統合失調症に有用とされる抗精神病薬の導入、訪問サービスの実施といったプロジェクトに取り組んできました。ストレスケア病棟では、職場や学校、家庭などでストレスを抱えた方々を受け入れ、心身の回復をサポートしています。当院の特徴として、うつ病などで休職・休学中の方に加え、産後や育児期のメンタル不調に悩むお母さんも積極的に受け入れています。これは、病棟の立ち上げに関わったスタッフに産休明けのママさんが多く、「産後の女性を支えたい」という声が上がったことがきっかけでした。こうした新しい取り組みはトップダウンではなく、現場のスタッフのアイデアから生まれることが多いです。皆が主体的に考えチャレンジできる環境が、当院の特色であり強みだと感じています。
病床削減を進める中で病院の役割や患者層に変化はありましたか?
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長期入院患者の地域移行に伴い、入院治療の軸を精神科救急へと移し、24時間365日体制で急性期治療に対応するようになりました。また、病床数を減らした分、外来機能の充実を図ってきました。特に、精神科医療の中でニーズはあるものの十分に対応されてこなかった分野にアプローチしようと考え、児童や学生、単身のビジネスパーソンなど若い世代を対象とする医療に注力。2017年に女性のメンタルヘルスを専門に診る外来を、2019年に児童精神科に特化した外来を開設しました。その結果、統合失調症の患者さまが減り、うつ病や双極性障害、不安障害、児童の発達障害の患者さまが増加。「精神科病院=長期入院」というイメージも変わり、外来通院で治療を完結できる方が増えています。外来診療は予約制とし、初診の予約を取る際に精神保健福祉士が病状をお聞きした上で診察を行う体制を整えています。
女性や児童に特化した外来について教えてください。
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女性の心のケアを専門に扱う外来では、産後のメンタル不調を訴える20~30代の女性を主に診察しています。精神的不調があっても受診に至らず、結果的に虐待や無理心中といった深刻な事態に発展するケースもあります。こうした問題に対応するため、地域の保健師さんや助産師さん、産科医療機関と連携し、診療にあたっています。受診時には保育士による託児サービスも用意しており、育児に悩む方が安心して相談できる環境を整えています。また、児童を専門に診る外来では、発達障害や虐待による心の問題に幅広く対応し、特に重症例は児童相談所など行政機関と連携して支援しています。現在、入院患者の約20%が10代のお子さんで、衝動性が高く、自傷行為を繰り返すケースも多く、その背景には深刻な虐待体験があることが少なくありません。当院ではトラウマケアに力を入れ、専門のスタッフが勉強会などを重ね、個々のケースに応じた治療を行っています。
最後に、地域の皆さんにメッセージをお願いします。
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当院では反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)を導入しています。これは、うつ病の治療法の一つで、薬が効かない方や副作用で服薬が難しい方に対し、磁気刺激を用いて脳の働きの調整を図るものです。入院が必要ですが、現理事長・木村大先生の専門分野でもあり、積極的に取り組んでいます。今後、精神科医療は福祉や行政の保健領域と連携しながら、地域全体で患者さまを支える方向へ進んでいくと思います。当院ではこれまでもその流れを意識して医療に取り組んできましたが、今後もより一層、地域に根差した医療を提供していきたいと考えています。精神科医療は特別なものではなく、誰にとっても身近なテーマです。気軽に相談できる場として必要なセーフティーネットの役割を果たせるよう、精神科だけでなく内科や産婦人科など身体科の医師とも連携を深め、福祉や教育の分野とも協力しながら、地域の皆さまにとって身近で頼れる存在になれたらと思います。
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渡邉 博幸 院長
1992年千葉大学卒業後、同大学医学部精神医学教室入局。1998年同大学大学院修了後、同大学精神神経科助手、同講師を経て、2009年国保旭中央病院に入職。地域精神医療推進部長として病床削減や精神科訪問診療に取り組む。2011年千葉大学大学院医学研究院精神医学准教授、2013年千葉大学社会精神保健教育研究センター特任教授、2016年より現職。専門分野は多職種協働モデル・周産期メンタルヘルスケア。