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公益財団法人復光会 総武病院

(千葉県 船橋市)

樋口 英二郎 院長

最終更新日:2023/06/07

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地域における精神医療の中核的病院

「精神疾患を患う人に見える世界と、その人自身を知りたかった」と「総武病院」の樋口英二郎院長はこの道に進んだきっかけを振り返る。日本で生まれた精神心理療法・森田療法を実践していた父のもとに、見えない何かに悩み、苦しむ患者が訪れるのを見て育った少年時代。形のない脅威におびえる患者と、患者を理解しともに脅威に立ち向かう父の姿が知的探求心に火をつけた。原点は「わかってあげたい」ではなく「知りたい」。精神疾患を持つ患者を特別視せず、一人の人として尊重しているからこそ抱く純粋な思いだろう。新人医師時代に総武病院に配属された際、「ずっとここで働きたい」と訴えるほど強い親近感を抱いたというエピソードからは、同院にも開院当初からそうした診療方針が根づいていることがうかがえる。院長職にある今もなお現場に立ち、学び続ける樋口院長に話を聞いた。(取材日2023年3月30日)

開院当初から、精神疾患を専門に診てきた病院だそうですね。

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当院は1953年、戦後の薬物中毒による精神疾患を診るための病院として生まれました。以降、時代の流れと社会のニーズに合わせて診療範囲を広げ、統合失調症やうつ病、不安障害などのストレス疾患、認知症、発達障害などを広く診る病院として発展しています。2001年には現在の病棟を開設し、敷地内に分散していた病棟を一元化しました。同時に、3階に精神科急性期治療病棟と亜急性期治療病棟、4階と5階、6階の一部に療養病棟、6階にシルバーケア病棟というように、状態や年齢に応じた機能分化も図っています。さらに、2017年には、人員配置や設備の基準、医療のレベルが基準をクリアしているとして、精神科急性期治療病棟が精神科救急入院料病棟になりました。精神科救急入院料病棟は「スーパー救急病棟」ともいわれ、急性期や慢性期の急性憎悪(ぞうあく)、認知症などに対して早期の集中的な治療を実施し、速やかな社会復帰をめざすものです。

スーパー救急病棟の設置には、厳しい基準があると聞きました。

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精神科の患者さんは社会復帰が難しい方も多く、入院が長期化しがちです。一方、生活環境や社会とのつながりを踏まえた手厚い支援があれば社会に復帰できる方も少なくありません。スーパー救急病棟では、多職種が連携して退院後の生活を見据えた治療を行うことで、適切な時期の退院につなげます。地域の医療資源と連携して、退院後のサポートをすることも重要な役割ですね。ただ、こうした体制を構築するには、各職種の専門性の高い人材と充実した設備が必要です。そのため、医師と患者の比率や常勤医師の人数、看護師の数、時間外や休日・深夜の年間診療数などが厳格に決められているほか、設備も病床の半分以上を個室にしなくてはなりません。そのため、その必要性の割には、余り数が多くないのが現状です。当院は、千葉県精神科救急医療システムの基幹病院として設置基準を満たし、切迫した状況にある患者さんとご家族のためのスーパー救急に注力しています。

どのような疾患の方が多いのですか?

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統合失調症が最も多く、うつや認知症、発達障害も増えている印象です。どの病気も、早期に変化を察知して治療につなげることが悪化を防ぎ、回復を早めると期待できます。特に統合失調症は身近な病気ですが、ご本人や周りの方が変化を察知して受診につなげている数は、残念ながら多くありません。私たち専門家は動きや会話の調子である程度類推できますが、実際には「何かおかしいな」と思いながら統合失調症に結びつかず、悪化してから受診するケースがほとんどです。市民公開講座などを通して、特徴的な初期症状や早期治療の重要性を啓発し、統合失調症で苦しむ方を少しでも減らしていきたいですね。認知症と発達障害については、それぞれ専門に診療する外来を設けていますので、気になる症状がある方はお電話で診察日時をご予約いただき、検査してみることをお勧めします。

良い意味で精神病院らしくない、明るい雰囲気が印象的です。

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かつては病棟の窓に鉄格子があり、地域の方から見れば閉鎖的で得体の知れない雰囲気だったと思います。実際、私が医師になったばかりの頃に総武病院に配属された時は、地域の人に道順を聞いても「そんな病院は知らない」と言われるなど、存在がタブー視されているのを肌で感じたりしたものです。その一方で、院内の雰囲気は今と変わらず、とても温かく親しみがありました。職種の隔たりがなく、院内が1つのチームになって患者さんを診ていて、非常に居心地が良かったのです。思わず自分から「ずっとここで働きたい」と言ったほどでした。敷地内に介護老人保健施設「やすらぎ」ができてからは、少しずつ地域の皆さんとの距離も縮まって、今の雰囲気に近くなっていった記憶があります。9年勤務した後に大学へ戻って講師となり、再び2002年に戻ってきた時には、新棟ができてより「地域の病院」として根づいているのを感じました。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

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まずは、スーパー救急病棟があることを広く知っていただきたいと思っています。ご家族が落ち着かなくて困っている、自分の感情がコントロールできないなど、さまざまな理由で日常生活に支障を来している方に当院を活用していただきたいですね。同時に、公益財団法人として、公益性のある事業にも積極的に取り組んでいきます。例えば、先ほどふれた市民公開講座による精神疾患の啓発や、夜間救急などです。また、当院には多くの患者さんがいますから、精神科ソーシャルワーカーなどさまざまな職種の学びの場としても適していますし、実際に患者さんと向き合って初めてわかることはたくさんあります。今後の精神科医療の担い手を輩出するための教育にも力を入れていきたいですね。ほかの病院の手が届かないところ、地域に不足しているところをできる限りカバーして、より質の高い医療を提供できるよう尽力してまいります。

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樋口 英二郎 院長

1989年東京慈恵会医科大学卒業。医師になって間もなく総武病院に配属され、自ら希望を出して同院に残り9年勤務。1998年に大学へ戻って講師となり、2002年に副院長として再び総武病院に赴任した。2017年より現職。診療のモットーは、「相手を尊重すること」「もし、自分の家族が入院することになっても、安心して任せられる病院をつくること」。専門は臨床精神医学。東京慈恵会医科大学精神医学講座客員教授。

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