医療法人湘和会 湘南記念病院
(神奈川県 鎌倉市)
井上 俊夫 院長
最終更新日:2020/11/25
時代の流れを読む医療で地域の声に応える
「私には、理念がないことが理念ですね、強いて言えば皆さんの肥料になればいいと思っています」と笑う「湘南記念病院」井上俊夫院長。ざっくばらんでありながら、意味深いトークが印象的な、もともとは乳腺外科を専門とする外科の医師だ。同病院の開院時から外科分野をリードするとともに病院運営に関わり、2008年から院長となった。乳腺外科専門施設の立ち上げ時は、乳腺外科領域で注目される土井卓子医師を招聘し、充実の医療提供に取り組んだ。今や、全国から乳がん患者が訪れる病院となっている。井上院長が話す「理念がない」とは、時代に合わせて柔軟に対応しなければならない、という思いから。「空気を読まずに時代を読むのがモットー」など、話をしていると次々と名言が飛び出した。親しみやすい笑顔の中に、患者にとっても医療者にとっても、そして医療環境を守る病院にとってもプラスになる「三方一両得」の医療をめざすという強い信念が感じられる。鎌倉の街に似合う、まさに剛と柔を合わせ持つ魅力的なドクターと言えるのではないだろうか。
(取材日2015年11月24日)
まずこちらの病院の特徴を教えてください。
当院は、一般病床と療養、回復期リハビリテーション、地域包括ケアを含めて161床の病院です。内科、外科などの15診療科に加え、乳腺外科専門の施設や回復期リハビリ病棟・リハビリ専門施設といった高度な専門医療も提供しており、身近な病院でありながら、質の高い総合的な医療が受けられるのが特徴です。湘南鎌倉病院で脳卒中と診断された患者さんを受け入れ、在宅医療につなぐ中継点の役割も果たしています。中でも、病理学や化学療法のスペシャリストが在籍する乳腺外科専門施設は、全国から患者さんが来院されています。同施設を作るきっかけは、かねてより乳腺外科分野の治療に従事していた土井卓子先生との交流にありました。先生とは鎌倉市の乳がん検診などでお会いするたび、「乳がん手術を手がける施設をつくりたい」と夢を語りあっていたものです。経営陣などに強く働きかけたところ、その熱意が実を結び、施設の立ち上げにつながりました。
院長として大切にされているのは、どのような点ですか?
リーダーには、俺についてこいと引っ張るタイプと、裏方に徹するタイプがあります。私は後者。人間は判断を間違えることがあるし、その時は正しくても状況が変われば、間違いになるわけですから、ついてこいとは言えないと思っています。また怒って解決したらみんなが萎縮しますから、怒りたいことはあっても怒らない。院長室はありますが、扉1枚でもあれば交流がしにくくなりますから、ずっと医局でドクターたちと一緒にいます。朝や昼休みに顔を合わせていると「院長、こんなことがありました」と気軽に相談してくれるからコミュニケーションも取れ、トラブルも未然に防げます。もっとも、私がずっと医局にいるから、みんなは悪口が言えないと思っているかもしれませんね(笑)。外科の医師として手術に参加したい思いもありますが、今は裏方に徹するのが楽しくて仕方がありません。
ドクターや職員に対して心がけていることはありますか。
自分がやりたくないことはやらせないことですね。疲れてヘトヘトになった医師による診療は、結局、患者さんのためにならないし、病院にとってもマイナスになる。当院は、忙しくはありますが、ドクターもやりがいを感じて診療に携わってくれているので、みんな生き生きしています。患者さんも安心して主治医のもとで治療に取り組めますし、軌道に乗って病院としても収益が上がっていますから、三方一両得ですよね。また、女性ドクターの職場環境にも配慮しています。子育て中の女性ドクターはフレックス勤務にし、院内保育園も充実させました。その代わり子育てが終わったら、あとに続く人のサポートをしてほしいと伝えています。「荷物を持てる人は持てばいいし、他の荷物を持っている人には持たせることはない」という方針ですね。ですから、医師不足の時代ですが、どんどん女性ドクターが来てくれて、結果的に良い診療が提供できていると思っています。
医師として、院長として大切にされている理念はありますか?
時代も環境もどんどん変わっていきますから、理念がないことが理念ですね(笑)。信条は、これだと思ったら、とにかく突き進むこと。嫌だなと思うことは無理にやらない。空気ではなく時代の流れを読むこと。それほど神様を信じているわけではないのですが、巡り合わせというか、「これをやりなさい」と言われているような気がする時があるんです。乳腺外科専門施設の件も「やるべきだ」と感じたので、突き進みました。経営陣には「すぐに年間100症例にする」とホラを吹いて説得したのですが、あっという間にその数を超えていきましたね。お金がなくて検査機器もそろえられなかったのですが、たまたま試作品を提供してもらってうまくいったり、幸運が積み重なったりして、ここまで充実した施設になりました。
では、今後の展望についてお聞かせください。
医療制度も人口動態も変わっていきますから、柔軟に適応していかなければならない。その中で、許される限り自分のやりたいことをやっていきます。現在計画しているのは、近隣の高齢者施設とのネットワークの充実です。スマートフォンを活用して地域のケアマネジャーさんと連携し、情報交換しながら患者さんの受け入れ体制がつくれないかなと考えているところです。時代の流れを読みつつ柔軟に、地域の医療サービスを充実させていきます。患者さんへは、乳がん検診や早期発見の大切さを強くお伝えしたいですね。当院の乳がん検診は予約制のため、待ち時間が短く気軽に検診を受けていただけますし、万が一の際も専門的な診療をご提供できますから、どうぞ気軽に来院してください。これからも身近さと専門性の高さを兼ね備えた病院づくりに取り組んでまいります。さまざまな面で役立つ存在として、活用していただければと願っています。
井上 俊夫 院長
1975年慈恵会医科大学卒業。がん研有明病院や慈恵会医科大学の関連病院にて、外科にとどまらず整形外科や皮膚科など幅広い診療科を経験する。1989年より同院勤務、外科部長を経て2008年より現職。趣味は機械いじりで、かつてはコンピューター関連企業への就職を意識していたこともあるほど。現在もサーバーや医師紹介サイトの立ち上げに携わるなど、培った技術を医師の仕事に役立てている。