地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立足柄上病院
(神奈川県 足柄上郡松田町)
牧田 浩行 病院長
最終更新日:2020/11/25
急性期医療を中心に、地域を支える中核病院
小田急線の新松田駅から徒歩5分、JR御殿場線の松田駅から徒歩6分のところにある「神奈川県立足柄上病院」。1945年に医療施設を設立してから、松田町、山北町、南足柄市、大井町、開成町、中井町の足柄上地域の医療を支えてきた病院だ。救急告示医療機関、災害拠点病院として急性期医療に力を入れ、地域特性に対応した医療を提供している。2017年から病院運営を担うのは、整形外科が専門の牧田浩行院長。急な病状の変化に対応していく救急医療の充実と、さまざまな疾患に精通し総合的に診療する医師の育成、高齢者に多い運動器疾患への対応に重点を置き、さらに地域との密接な医療連携の充実で、患者の受け入れから退院までスムーズな医療供給体制の構築に努める。牧田院長は、同院の魅力を広め、研修医など医療人の育成にも役立てたいと意欲的だ。「地域の期待に応えてよりよい医療を提供したい」という牧田院長に、同院の特徴や展望を語ってもらった。
(取材日2019年10月18日)
こちらの病院の成り立ちや概略を教えてください。
当院の前身は、1945年に日本医療団が作った医療施設で、1950年に県立足柄上病院となり、1962年当地に移転しました。県西地域に位置する総合病院として救急医療、災害医療などを担うとともに地域特性に対応した医療を提供しています。県内でも特に高齢化が進む県西地域では、複数の疾患を抱える高齢の患者さんの割合が年々増加しています。一つの疾患を専門的に見るだけではなく、各診療科の領域を越えた総合的な医療が求められます。そこで多様な疾患に精通し、総合的に診療を行う医師の育成と、急な病状の変化にも対応可能な救急医療の充実、高齢者によくみられる運動器疾患への対応に重点をおいた取り組みを進めています。また臨床研修指定病院としてアットホームな雰囲気の中できめ細かな指導体制を整えています。
救急医療にも、総合診療の部門が対応するそうですね。
当院では、安全安心な医療の提供、社会の要請を担う政策医療の展開、患者中心の医療の実践、魅力ある自立した病院をめざすことの4つを理念として、断らない医療、当院を選んでくださった患者さんを裏切らない対応、そして「当院に来てよかった」と満足していただける医療をめざしています。そこで高齢化する地域の病院として、複数の疾患を抱える方が多い高齢の患者さんに適切に対応するために、内科を総合診療の部門としました。特に救急医療では、この部門が患者さんの受け入れを担当し、さまざまな疾患に精通した医師が診療科を超えて総合的に診療しています。このエリアは面積が広い一方で医療施設が少ないため、「専門の医師がいない」と他の病院で受け入れてもらうということが難しいのです。患者さんにとっての「最後の砦」だと肝に命じて、日々、診療に取り組んでいます。
高齢者に多い運動器の診療やリハビリも特徴と聞きました。
高齢の方は、運動器の疾患や骨折が起こりやすくなりますので、整形外科領域の診療やリハビリテーションに力を入れています。膝と股関節に対する人工関節置換術にも対応し、膝についてはコンピューターによる手術支援システムを導入して手術の精度を上げるよう取り組んでいます。リハビリテーションでは、痛みがなくなる、歩けるというだけでなく、スムーズに歩けることを目標に理学療法を行っています。治療やリハビリテーションについては学会にも積極的に参加して、新しい知識や技術を取り入れています。また特に大腿骨の骨折は歩行困難や寝たきりの原因となりますので、骨粗しょう症の診療により骨折を予防していく取り組みを始めています。そのため骨密度測定器を導入し、地域の開業医の先生方とも共同運用を行い、骨粗しょう症診療を広めているのです。将来的な医療への貢献として、遺伝子や生活習慣と疾患の関係についての研究にも参加しています。
地域の中で果たす役割についてお聞かせください。
この地域では人口減少と高齢化が進み、老老介護や独居高齢者が増えていますので、急性期治療後の高齢の方をどのように在宅医療につないでいくかが、大きな課題です。そこで当院では地域包括ケア病棟も活用しながら、当院の主治医と訪問看護ステーションの看護師が、地域の開業医の先生方と連携して、退院後の患者さんを支援する体制を整備しています。ここでも総合診療科が中心になり、診療だけでなく、家庭環境など患者さんのバックグラウンドにも配慮した総合的なケアを行っています。退院後もスムーズに在宅医療につなぎ、また体調が悪くなったときは速やかにバックアップを行う仕組みをつくっていますので、患者さんも、開業医の先生方も心強く感じていただけるのではないでしょうか。また地域包括ケア病棟では、医師やスタッフが認知症高齢者への接し方の考え方を取り入れたコミュニケーションやケアに取り組んでいるのも特徴です。
これからの展望についてお聞かせください。
人工関節置換術や内視鏡下で行う治療、将来の骨折や寝たきりを防ぐ骨粗しょう症診療など、地域のニーズの高い領域については診療体制を拡充していきたいと考えています。厳しい医療環境の中で、地域に求められる医療を提供するためには、病院機能を高め、病診連携、病病連携をより密にしていく必要があると考えています。例えば小児周産期医療については、拠点病院である小田原市民病院の医師による外来診療日も設け、連携を深めて効率的な医療体制を整えています。今後、高齢者の心疾患が爆発的に増えるという予想もあり、また高齢者の誤嚥性肺炎も増加傾向にあります。今後は予防医学にも力を入れ、早い段階からの医学介入や生活指導、リハビリテーションにより、地域の皆さんの健康を守っていきたいと思います。需要の高い医療には積極的に応え、必要とされる医療を行い、地域住民の皆さんを支えていく使命を果たしたいと考えています。
牧田 浩行 病院長
1990年国立滋賀医科大学卒業。横浜市立大学医学部整形外科に入局し、同大学の付属病院、横浜船員保険病院(現・横浜保土ケ谷中央病院)、平塚共済病院、住友重機健康保険組合浦賀病院(現・よこすか浦賀病院)などを経て、2012年に神奈川県立足柄上病院整形外科部長に就任。副院長を経て、2017年4月より現職。専門は関節疾患。股関節の人工股関節置換術も多く手がける。藤沢市出身。休日はテニスでリフレッシュ。