特定医療法人社団研精会 稲城台病院
(東京都 稲城市)
永野 満 院長
最終更新日:2024/11/28
患者に寄り添う精神医療の提供をめざす
稲城市若葉台の豊かな自然に囲まれた小高い丘に立ち、晴れた日には富士山や都心を一望することができるという恵まれた環境にあるのが、「稲城台病院」だ。精神疾患を専門とする病院として、認知症やうつ病から、統合失調症、発達障害、神経症などまで、心の病気や悩みに幅広く対応する同院。精神科の病棟に加え、内科療養病棟や回復期リハビリテーション病棟も運用し、訪問診療も提供するなど、精神疾患の急性期から慢性期まで一貫して、シームレスに患者やその家族を支えることをめざしている。そんな同院の院長で、「個別性を大切にして、患者さんがその人らしく生きられるよう寄り添っていくことを心がけています」と穏やかな口調で話す永野満先生に、同院のことや地域の精神科医療への思いなどを聞いた。(取材日2024年9月27日)
最初に病院を紹介していただけますか?
歴史からお話しすると、初代理事長の山田禎一先生が富山県から出てきて、調布市つつじケ丘に山田病院を開設したのが、当法人の始まりです。山田先生は、調布に来る前は金沢大学で助教授をしていましたが、その時の教授が日本の精神医学の草分けともいえる秋元波留夫先生で、お二人は師弟関係にありました。のちに、秋元先生は東京大学の教授になって、2人とも東京に出てきたわけですが、その後もお二人の関係は続いていました。そこで、当時の山田理事長と秋元先生が精神科の病院をもう一つつくろうということで、当時は本当に何もなかったこの丘の上に当院を開設したのです。それが1965年のことで、当時は112床でしたがその後に増床を繰り返して、2005年には新病棟も開設して、現在は381床を運用しています。当法人の「研精会」という名前は、「お互いに切磋琢磨してやっていくように」という意味を込めて秋元先生が名づけました。
こちらの病院の特徴はどのようなところでしょうか?
稲城市内には、クリニックを含めて精神科の医療機関がほとんどありません。そのため、うつ病や統合失調症、認知症、神経症、発達障害まで、さまざまな精神疾患に幅広く対応することで、市民のニーズに応えているということがまず一つ。次に、精神疾患の急性期から慢性期までに対応できるということ。病棟もありますので、外来から入院、退院して地域で支えることも含め、切れ目なくサポートできるのも強みです。そして、精神病院でありながら身体疾患にも対応できることです。例えば、認知症を含む精神疾患の患者さんに体の病気が合併している場合、リハビリテーションや入院が必要でも、一般の病院だと断られてしまうことがあるんですね。ですが、当院には回復期リハビリテーション病棟や合併症病棟がありますので、それらの患者さんも受け入れて、リハビリテーションや入院加療ができることも大きな特徴となっています。
診療で力を入れている分野は何ですか?
一つは、認知症です。当院は東京都から認知症疾患医療センターの指定を受けており、地域における認知症医療の中核を担っています。そのため、当院の医師などが市内各所へ出向いて、出前講座といった啓発活動に取り組んでいます。また、物忘れの相談をお受けする外来も毎日行っています。認知症も早期発見、早期介入することが予後に非常に影響するため、物忘れが気になった場合は速やかにご相談いただきたいと思います。加えて、もっと利用していただきたいのが、一般的な精神科外来です。不眠やストレス障害、うつ病、統合失調症などさまざまな精神疾患がありますが、同じ病気でも症状や抱えている悩みは一人ひとりで違います。当院では、精神療法や薬物療法、作業療法、SST(生活技能訓練)などから適切な治療法を組み合わせ、その人にとってベストな治療の提供をめざしています。軽症の方も気軽に相談できるということを、ぜひ知っていただきたいですね。
診療の際に心がけていることを教えてください。
個別性です。患者さん一人ひとりで病気も違えば、同じ病気でも生活背景なども違います。その個別性に合わせてきめ細かく、いろいろな治療を組み合わせて対応すること。それによって、最近は一般社会でも個性や多様性が重視されているように、患者さんがその人らしく生きられるよう寄り添っていくことを心がけています。それは医師だけでは実現できません。患者さんについては、診察室だけではわからないことが多いですし、看護師、リハビリテーションを担当する理学療法士や作業療法士、ケースワーカーなどのコメディカルのほうがよく知っていることもたくさんあります。ですから、医師はあくまでチームの一員としてそれぞれの意見を吸い上げて、その患者さんにとって何が良いのかを追求する。それを最終的に判断するのは医師になりますが、チームで関わることが非常に大切になってきます。そのため、当院では多職種連携によるチーム医療を重視しています。
最後に、今後の抱負と読者へのメッセージをお願いします。
まずは、訪問診療を拡大していくことです。今年から始めたこともあって数的にもまだ少ないのですが、拡張していきたいと考えています。もう1つは、急性期機能の強化です。基本的には、依頼があれば即日に入院できるという体制をつくっていきたいと思っています。さらには、退院を促進すること。特に、長期間入院している方は、退院後のケアがとても重要になってきます。そのため、地域で支えていくことが大事ですので、さまざまな事業所や行政も含めた地域連携を深めていきたいですね。そして、心の問題は目に見えにくいですが、誰もが抱えていることでもあります。今の社会にはいろいろな生きづらさがあって、その中でメンタルの不調を来すこともあると思います。そのようなときには、当院を頼りにしていただきたいですね。加えて、啓発活動などいろいろなかたちで市民の方々を支えていきたいと考えていますので、必要なときにはお気軽にご相談ください。
永野 満 院長
1985年東北大学卒業。自治医科大学大学院修了。茨城県立友部病院、東京都立中部総合精神保健福祉センターを経て、2003年より稲城台病院副院長。2014年より現職。専門は統合失調症の精神病理学。臨床では気分症、神経症、発達障害、認知症と幅広く取り組んでいる。稲城市における精神科病院の院長として、地域包括ケアシステムの構築に尽力している。精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医。医学博士。