地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立墨東病院
(東京都 墨田区)
足立 健介 院長
最終更新日:2025/02/26


変革を続ける中核病院
145年前、明治時代に開設した本所避病院を前身とする「東京都立墨東病院」。現在は約150万人が住む東京都区東部医療圏の中核を担っている。足立健介先生は2021年に院長就任後、時代のニーズに合わせさまざまな改革を成し遂げてきた。まず、高度急性期医療を担う病院として、手術体制を強化するため手術部を創設した。手術室の物流体制を変え、手術支援ロボットを導入。コロナ禍にあっても高難度手術数と全身麻酔件数を大幅に増加させた。地域医療連携の強化を図るため、患者・地域支援センターを創設、戦略的病床運営のため、コマンド&コントロールセンター(C&Cセンター)の本格運用を開始した。「人は財(たから)だ」との発想のもと、墨東人材育成センターも開設した。新たな発想によるこの4年半の取り組みとその結果について足立健介院長に話を聞いた。(取材日2024年12月9日)
長い歴史のある地域の中核病院ですね。

当院のルーツは1879年にコレラへの対処のために開設された「本所避病院」という感染症病院です。1961年に現在の「都立墨東病院」へと名称を変更。前身の創設以降145年の歴史があります。1978年に精神科救急の事業が始まり、2017年には救命母体搬送を可能とする総合周産期母子医療センターとして指定されました。また、都内に4施設ある高度救命救急センターを擁する病院の中でも、公的病院として、最重症患者を積極的に受け入れています。こうした背景は救急医療に特化した病院運営を促してきましたが、「時代に選ばれる」病院となるためには救急一本足打法では太刀打ちできません。時代と地域のニーズに応える、「期待を超える」病院づくりを開始しました。
手術支援ロボット導入など手術室の変化が大きいようですね。

私がこちらに赴任した当時、高度な技術を要するがん手術はこの規模の病院としては非常に少なく、すでに全国各地の病院で導入が進んでいた手術支援ロボットは購入の予定がありませんでした。特に問題の多かった手術室の運営が、改革の第一番地となりました。平日の日勤帯の手術室稼働率は50%以下となっており、効率的とはとても言えない状況でした。加えて手術室の看護師不足が慢性化。これでは外科系に強い病院には到底なりえないと考え、まずは多職種による手術部を立ち上げました。物流や医療者の申し送り場所、手術間インターバルなどありとあらゆる点の効率化を図りました。手術支援ロボットも導入し、実働2年後には同手術は年間200件以上を数えます(2023年1月~2023年12月)。現在は平日日勤帯の手術室の稼働率が80%以上となっています。
手術室の人員確保にも尽力されたそうですね。

手術室看護師の離職については、優先度の高い解決すべき課題でした。以前は救急に特化していたために予定手術が少なく、看護師が体系的に知識や技術を身につけられないというジレンマに。学習と成長の機会が少ないことが看護師の定着を妨げていた一因と考えられました。対策として、がんなどの予定手術を増やし、手術手技のマニュアルなどの学習ツールを電子化しタブレット型端末などでいつでも閲覧できるようにしました。動画視聴もできるので学習効率は格段に上がりました。また、夜勤ができない手術室担当看護師の給与面にも配慮。今では定員を上回る人員を確保できています。ロボット支援手術は泌尿器科、婦人科、呼吸器外科、胃外科、大腸外科、肝臓・胆道・膵臓外科の6科で毎日行われています。
コマンド&コントロールセンターも立ち上げられています。

2022年7月独立行政法人移行を契機に、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進をめざしてシステム管理室を立ち上げました。2024年4月にはコマンド&コントロールセンター(C&Cセンター)を設立し、院内の英知結集の拠点としています。本システムはDPCデータ分析に基づいた戦略的病床運営を可能とします。電子カルテ上のリアルタイムデータを反映した患者重症度予測により、医療安全上でも大きなメリットがあります。また、病棟看護師の繁忙度をさまざまなパラメーターの組み合わせで算出します。数値を可視化し、病棟繁忙度に基づき救急患者の入院病床を決定できるので、入院依頼から決定までの時間が大幅に短縮しました。本システム導入は、医療DXのXの部分、すなわち変革を病院全体に巻き起こしたと自負しています。2025年度には地域医療連携にも活用の範囲を広げていく予定です。
今後の展望と地域の方々へのメッセージをお願いします。

地域の方々に安心して利用していただける、高度急性期医療を安全に提供できる病院でありたいと願っています。2020年10月には「患者・地域支援センター」を開設。今後は急性期病院と在宅医療に携わる医療機関との狭間を埋め、患者さんとご家族のサポートにも注力してまいります。高齢になっても地域で長く生活していただくため地域医療機関とともに歩んでまいります。人財育成センターでは地域の方と共同で特定行為可能な看護師の養成を開始しています。冒頭の「時代に選ばれる病院」、「都民の期待を超える病院」の目標を経て、上記取り組みにより昨年は「デジタルと人で墨東の未来を創る」を目標としました。私たちのめざすビジョンは、患者さんにも職員にも選ばれるマグネットホスピタルで、そのパッションはウェルビーイングホスピタルとなることです。今後も地域の中核病院として精進を続けます。どうぞよろしくお願いいたします。

足立 健介 院長
1984年自治医科大学卒業。東京都立府中病院、自治医科大学附属大宮医療センター(現・自治医科大学附属さいたま医療センター)、東京都立多摩総合医療センター、荏原病院副院長を経て、2020年東京都立墨東病院副院長。2021年4月から現職。難題が山積な中、孤軍奮闘から仲間を得て強力なリーダーシップで変革を進めている。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医、日本救急医学会救急科専門医。