医療法人社団嬉泉会 嬉泉病院
(東京都 葛飾区)
上畑 昭美 病院長
最終更新日:2024/02/19
透析治療を中核として地域に根差した病院
まだ透析治療が大学病院など限られた医療機関で行われていた時代に、地域に根差して透析治療を行う病院としてスタートした「嬉泉(きせん)病院」。葛飾区を中心としたエリアの透析治療・腎臓内科医療を担ってきた。2013年に循環器内科を専門とする上畑昭美病院長が就任後、循環器内科の診療にも注力し、一般内科や整形外科など地域住民のニーズに応える診療に幅広く対応。歯科・口腔外科の診療を行っていることも特徴で、透析患者や有病者の歯科治療も行う。さらに透析患者や心臓病患者へのリハビリテーションにも取り組む。また透析患者の個別送迎に加え、高齢者施設からの送迎に車いす4台乗車可能の福祉車両も運用。高齢化の進む地域できめ細かな医療サービスに尽力する。葛飾区病院管理協議会の事務局を担うなど、地域連携においても重要な役割を果たす同院。新型コロナウイルス感染症の流行に際しては感染した透析患者を受け入れる専用病床を設置し、睡眠時無呼吸症候群のオンライン診療を開始。さらに新病棟建て替えも視野に入れるなど、常に地域や社会に求められる医療の提供に尽力してきた同院について、上畑病院長に取材した。(取材日2022年11月10日)
まず、こちらの病院の成り立ちを教えてください。
当院は腎臓内科出身の先代理事長・須藤祐司先生が1973年に開業した病院です。当時は腎臓病患者さんへの血液透析治療の黎明期で、大学病院など限られた医療機関が提供していた治療を、地域に根差した民間病院で取り組んだ草分け的存在だったと思います。その後も透析患者さんに必要な診療科を増やすなど、透析治療を中心に発展してきました。私が病院長に就任してからは透析治療を中核として位置づけつつ、私の専門性も生かして循環器内科にも力を入れ、身近な生活習慣病診療にも取り組み、地域医療に貢献しています。患者さんは地域の方が中心で、透析患者さんは葛飾区や足立区、江戸川区、埼玉県草加市、千葉県松戸市などから来られています。スローガンとして、笑顔で優しく接する「和顔愛語」、地域の皆さんの健康を守る「地域密着」、専門職として学びを怠らない「自己改革」を掲げ、安全で質の高い医療の実践をめざしています。
透析治療や腎臓内科、腎臓リハビリについて教えてください。
専門的な透析治療を行う透析部門を設置して、慢性腎臓病の保存期から血液透析導入・維持を円滑に実施しており、透析については患者さんの体に配慮した血液ろ過透析としてオンラインHDFを行っています。血液透析に不可欠なバスキュラーアクセスの作製・管理も行い、近隣の透析クリニックからの紹介患者さんも受け入れています。また腎臓病患者さんの体力維持や合併症予防を目的に、透析中や非透析日に腎臓リハビリを行っています。腎臓リハビリは、昨今注目される分野で、当院スタッフも研究発表に積極的に取り組んでいます。腎臓内科では人工透析が必要になる前の慢性腎臓病の患者さんも多く受け入れ、腎臓機能に応じた治療を提供することにより、慢性腎臓病の進行阻止に努めています。食事の管理が重要であるため、外来での管理栄養士による栄養指導にも注力しています。2022年6月には腹膜透析の外来も開設しましたので、お気軽にご相談ください。
循環器内科や整形外科にはどのような特徴がありますか。
循環器内科では、透析部門と連携しながらシャントの狭窄に対してPTA(経皮的血管形成術)を実施するほか、透析患者さんが併発しやすい心臓血管病の診療にも注力しています。また冠動脈CTにより動脈硬化を診断し狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患の早期発見・治療、心房細動などの不整脈の治療管理にも努めています。血管造影装置の導入により下肢動脈の閉塞に対する積極的な治療も始めました。今後は心臓の血管造影にも取り組む予定です。高血圧・脂質異常症・糖尿病・高尿酸血症といった生活習慣病の患者さんの健康管理や予防、禁煙治療、睡眠時無呼吸症候群の診療も行っています。整形外科では、透析患者さんによく起こる手根管症候群や脊椎間狭窄症、高齢者に多い骨粗しょう症などの診療が中心です。また内科は、肺炎や肺気腫など呼吸器疾患、消化器疾患、脳梗塞など幅広い診療に対応し、必要に応じて専門的な医療につなげる役割も果たしています。
歯科と口腔外科を診療されていることも特徴だそうですね。
透析患者さんは水分管理を行うため口腔内が乾燥し、虫歯や歯周病になりやすい一方で、一般歯科では治療を断られるケースが多いことから、当院では早くから歯科・口腔外科診療を行ってきました。透析患者さんだけでなく、高血圧や糖尿病、心疾患、脳血管疾患などの全身疾患の患者さんを対象に有病者歯科治療を行っています。診療では医科・歯科連携を密に行い、治療中も血圧計などのモニター監視下で全身状態を把握するなど安全性を重視した歯科治療を実践しています。また口腔外科は病院内の手術室で外科処置を行い、設備や衛生面においても徹底した体制を整えているのも特徴です。有病者の抜歯や口腔外傷、小児の外傷にも対応していますので活用していただきたいですね。
地域連携や今後の展望について聞かせてください。
当院は先代理事長が立ち上げた葛飾区病院管理協議会の事務局を担い、葛飾区医師会病院部会とも協力して地域連携に取り組んでいます。葛飾区病院管理協議会の下部組織である連携部会では各病院の医療連携担当部署が集い受け入れ調整を行っています。この取り組みにより葛飾区は医療連携もスムーズで、高齢者施設の受け入れ体制も充実しているため、医療や介護がほぼ地域で完結できています。コロナ禍が収束したら対面会議も行い“顔が見える連携”を進めたいと考えています。展望としては「透析治療を中心として地域のニーズに応える病院」という当院の強みをさらに生かせるよう、新病院建て替えを準備中です。また透析患者さんには心臓血管病の合併症も多くニーズが高いので、循環器内科も部門化してさらに専門性を高めたいと考えています。長い歴史を持ち、地域の皆さんに愛されて支えられてきた病院として、地域のご期待にお応えしていきたいと願っています。
上畑 昭美 病院長
1982年防衛医科大学校卒業。同大学循環器内科に入局し、関連病院などで診療に携わる。ボストンのハーバード大学への留学やアフリカ・ルワンダ難民救済のためのPKO派遣なども経験する。専門は循環器内科。心不全、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患などの診療に携わる。2012年9月副院長として嬉泉病院に入職。2013年4月より現職。