医療法人社団じうんどう 慈雲堂病院
(東京都 練馬区)
田邉 英一 理事長
最終更新日:2025/03/14


精神疾患と認知症診療を柱に地域医療に貢献
武蔵関駅南口から徒歩で約15分。のどかな住宅街の一角に位置する「慈雲堂病院」は、1929年に設立され、90年以上もの長い歴史を持つ地域医療の拠点病院だ。精神科医療の草分け的存在として知られ、「開かれた精神医療」の実践に努めてきた。1994年から認知症の専門診療も開始し、2015年からは東京都の認知症疾患医療センターとしての役割も果たす。精神疾患と認知症診療を2本柱に、内科外来診療、患者の在宅での療養生活を支援する訪問看護ステーションやグループホームの併設、精神科リハビリテーションとしてのデイケアの運営など幅広いニーズに応える。「患者さんの受け入れ体制を整えておりますので、お気軽にご相談いただきたいですね」と語る田邉英一理事長に、病院の歴史や特徴、めざす医療について聞いた。(取材日2025年2月17日)
病院の歴史を含め、診療内容や病床数について教えてください。

当院は1929年に開設しました。もともとは、日蓮宗の僧侶がお寺で精神障がい者のケアを行っていた歴史を持ち、精神科医療の草分け的存在として、心病める方々の治療と社会復帰の促進に力を注いできました。長らく精神科診療がメインでしたが、高齢化社会を踏まえ、1994年から現在の「認知症治療病棟」にあたる専用の病棟を設置し、本格的な認知症診療を開始しました。現在、当院では認知症の患者さんが半数以上を占めており、残りは精神科の患者さんです。精神科の患者さんは、統合失調症やうつ病を中心とした気分障害のケースが多いですね。患者さんの平均年齢は70代と高く、長期入院されている方が多い傾向にあります。病床数は476を有し、精神科病棟、認知症病棟、精神疾患と認知症が混在した高齢者を中心とした病棟に分かれています。精神科のほかに内科の外来診療と、入院患者さん向けには歯科と皮膚科の診療も行っています。
認知症疾患医療センターの役割について教えてください。

「認知症疾患医療センター」とは、認知症患者とその家族が住み慣れた地域で安心して生活ができるための支援の一つとして都道府県が指定するもので、認知症疾患における鑑別診断、地域における医療機関等の紹介、医療相談などを行う専門医療機関です。認知症疾患医療センターは、東京都では各区市町村に1ヵ所の設置となるため、地域の拠点病院としての役割も果たしています。練馬区内の病院やクリニックはもちろん、大学病院や行政機関、老人ホームなどさまざまな施設から患者さんが紹介されてきます。妄想や徘徊が激しいなど精神症状が重い方が中心で、措置入院にも対応した精神科急性期病棟で治療を行うこともあります。当院には私を含め精神疾患と認知症の両方を診ることができる医師がおりますので受け入れ態勢は整っていると自負しています。認知症の患者さんの受け入れと治療には引き続き注力していきますので、お気軽にご相談いただければと思います。
こちらの病院の特徴や注力している領域について教えてください。

入院診療だけでなく退院後の生活を見据えて1997年に訪問看護ステーションを開設し、認知症や統合失調症などの精神疾患をお持ちの方を専門に診ています。訪問地域は練馬区西部、杉並区西部、武蔵野市、西東京市、三鷹市北部で、精神科看護に精通した看護師、作業療法士が担当しています。入院していた患者さんが地域にスムーズに戻れるよう、退院後のフォローやデイケアにも力を入れています。当院には認知症と精神科のデイケアがありますが、精神科のデイケアは、生活班と就労班に分かれているのが特徴です。生活班は、昔ながらの精神科のデイケアで、退院された方の「日中の居場所」としてスポーツ、手工芸、料理、レクリエーションなどの活動を行ったり、必要に応じて生活講座やコミュニケーションの練習などを行い社会復帰に向けてさまざまなリハビリテーションを行っています。就労班では、働く意欲を持つ方への就労支援に注力しています。
デイケアでの就労支援はどのような取り組みなのでしょうか。

デイケアでの就労支援は、当事者の「働きたい」という希望を大切にしながら、その人のチャレンジしたい気持ちを応援するオーダーメイドの伴走型個別就労支援である「IPSモデル」による取り組みを、10年以上前から行っています。疾患や障がいによって、「これまで仕事の経験がないけれども社会に出たい」という方の希望をかなえるため、就労班のスタッフが企業に出向いて人事の方とやりとりしつつ、履歴書の書き方から面接の練習、服装の指導など就職活動のサポートを本人のペースに合わせてきめ細かく行います。無事に就職が決まっても、「就職できたらそれで終わり」ではなく引き続きフォローを続け、医療や生活の支援も行います。支援を受けて就職された皆さんに、それぞれの持ち場で末永く頑張っていただけるように努めています。働く希望を持つ多くの当事者に適切な支援を届けられるよう、サポート体制を整えていきたいと思います。
最後に地域へのメッセージをお願いします。

当院は、専門の知識と豊富な診療経験を持つ医師や看護・コメディカルスタッフにより精神科の患者さん、認知症の患者さんを受け入れる体制を基軸として、内科外来診療、デイケア、訪問看護など幅広いニーズにお応えする地域医療の拠点病院として存在しています。病院やクリニック、行政機関、患者さんご自身やご家族の方などそれぞれのお立場からの相談を随時受けつけておりますので、お気軽に足をお運びください。また、地域にお住まいの方々を対象に、当院を会場に認知症やさまざまな精神疾患をテーマとした講演会や、認知症カフェの運営、地域の保健師さんや地域包括支援センターの職員さんなどに向けた症例検討会も開催し、院内では患者教育やスタッフ研修にも取り組んで対応力の向上を行っています。病院スタッフ一同、患者さんに安心して満足いただける医療やサービスを通じて地域の皆さんの豊かな人生を支えていければと思います。

田邉 英一 理事長
1992年日本大学医学部卒業。1996年日本大学大学院医学研究科卒業、千葉県銚子市立総合病院に勤務後2000年より慈雲堂病院に勤務。2004年に院長、2012年に理事長就任。精神科医、認知症サポート医として外来と入院診療も担当し、プレイングマネジャーとして病院経営に携わる。医学博士、日本大学兼任講師、慶應義塾大学非常勤講師も務める。日本精神神経学会精神科専門医。