日本赤十字社 武蔵野赤十字病院
(東京都 武蔵野市)
黒崎 雅之 院長
最終更新日:2024/07/05
人々から愛される高度急性期病院をめざす
1949年の開業以来、武蔵野市の基幹病院として地域の人々の健康を支えてきたのが、「武蔵野赤十字病院」だ。現在は、人口100万人を超える北多摩南部医療圏の高度急性期病院として、地域がん診療連携拠点病院や地域周産期母子医療センター、地域医療支援病院、三次救急医療機関、災害拠点病院をはじめとするさまざまな機能を担っている同院。同時に「愛の病院」を基本理念に、地域の人々を愛し、愛される病院になることをめざしている。そんな同院の院長を2024年より務める黒崎雅之先生に、同院のことについて詳しく話を聞いた。(取材日2024年5月31日)
こちらの病院では、どのような診療に力を入れていますか?
一つはがん診療です。われわれはがん診療に力を入れていて、それはほぼすべての臓器にわたります。そのような中で一つ特徴的なのが、「がんゲノム医療連携病院」に指定されていることです。ロボット支援手術や化学療法などの標準治療に力を入れているのはもちろんですが、臓器にかかわらず標準治療の後にがんの遺伝子を調べて、個々に適した治療を選ぶ個別化されたがんゲノム医療にも取り組んでいます。近年では、ゲノムの異常に対応した薬の開発が、ものすごいスピードで進んでいる一方で、ゲノム情報に基づいた治療ができる病院は全国でも限られています。ニーズはあるけど、治療にたどり着けない患者さんがたくさんいますので、絶対に力を入れないといけない分野です。この4月にはがんゲノム医療に深い知識と経験のある医師を部長に迎えましたので、これまで以上に積極的に取り組んでいきたいと考えています。
先生の専門分野についても教えてください。
私が専門の肝臓の分野では、各都道府県に肝疾患診療連携拠点病院があります。ほとんどは大学病院が指定されていますが、東京都は市中病院である当院と虎の門病院が担っています。これらの病院が、ウイルス性肝炎の患者さんをたくさん診てきたこと。また、当院では非常に早い時期から肝臓がんに対する低侵襲のラジオ波焼灼療法を導入するなど、肝臓疾患の治療に力を入れてきたことなどが理由です。そして、近年ではウイルス性肝炎が減っている一方で脂肪肝が増えています。そのほとんどは命に関わるような心配はありませんが、中には肝硬変や肝臓がんになるケースがあります。それを見極めるのは難しかったのですが、当院では国内でも早い時期からMRエラストグラフィというリスクの高い脂肪肝の発見に有用な検査を導入しています。先進の方法で診断や治療、生活指導も含めて管理しているところは、大きな特徴の一つです。
他に特徴的な取り組みはありますか?
心臓病、循環器疾患です。狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患に対しては、バイパス手術をする方法や、カテーテルを使って冠動脈の狭窄にステントを入れるような治療が普及しており、当院でももちろん取り組んでいます。加えて、慢性完全閉塞病変や石灰化を含めた難度の高い病変に対しても豊富な治療経験があり特殊なデバイスを用いた治療も行っています。さらに、心房細動でできた血栓が脳に飛んで脳梗塞を引き起こすことを防ぐために、左心耳と呼ばれるところを閉じてしまう左心耳閉鎖術や経皮的僧帽弁クリップ術といった先進の低侵襲な方法で、心臓病の治療することにも対応しています。
病院を運営する上で心がけていることを聞かせてください。
1つ目は、高度急性期病院としての専門医療や救急医療を推進すること。もう1つは、地域社会への貢献です。北多摩南部医療圏という人口100万人以上の皆さんの健康を守る使命がある病院ですから、高度医療が必要な患者さんを断らずにしっかり診させていただきます。3番目は、多種多様な職種の人たちが協力して、チームワークで医療を推進すること。病院はセクショナリズムが生まれやすいので、どうすればみんなが一つになれるのか。それには、お互いを尊重することが大切で、職種に関係なくお互いに良いところを見つけ合って、ポジティブに評価することを組織文化にしていきたいです。もう1つのメッセージとしては、誇りと愛着というキーワードです。自分自身がスペシャリストであるという誇りを持つのは大事ですが、加えて病院に対する愛着と誇りと持ってほしい。そう思ってくれる職員が多ければ、自然と病院は発展していくのだと考えています。
大きなプロジェクトが進んでいるそうですね。
当院は1949年にできた病院で75年が経過しています。現在の建物もかなり古くなっていますので、近代的な病院に生まれ変わる予定で新病棟の建設を進めていて、2025年の12月1日に開院を予定しています。病棟は全室個室です。個室のほうが落ち着いて療養できますので、患者さんには非常に良いと思います。また、手術室を現在の9室から13室に増やし、手術支援ロボットも1台から2台に。エックス線撮影装置も備えたハイブリッド手術室やPET-CTも導入します。さらには、地域周産期母子医療センターとして専用のフロアを設け、妊娠から出産までに何かしらのリスクを伴う妊産婦さんを収容するMFICU(母体胎児集中治療室)を用意します。これまで広さや設備などの理由で応えることができなかったニーズに、新病院で応えていきたいと考えています。どうぞご期待ください。
黒崎 雅之 院長
1987年東京医科歯科大学卒業後、同医学部第二内科に入局。武蔵野赤十字病院消化器科副部長、同部長、同院副院長などを経て2024年より現職。日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医、日本肝臓学会肝臓専門医。山梨大学第一内科非常勤講師(兼任)、東京医科歯科大学臨床教授(兼任)、東京医科大学客員教授(兼任)。