山岨 達也 病院長

1938年2月に職域病院として開設された「東京逓信病院」。日本郵政株式会社の企業立病院だが、企業の職員のみならず、千代田区をはじめ幅広い地域から多くの患者が受診する病院として親しまれている。二次救急医療に専門的に従事する病院として、年間数多くの救急搬送を受け入れる。2023年には救急専門の医師を増員し、救急医療のさらなる充実を図っている。がん診療にも注力しており、地域のがん診療の中核的な役割も担う。同院の特徴は、急性期病棟以外に緩和ケア病棟、地域包括ケア病棟を持つこと。緩和ケア病棟では、がん患者の心身の苦痛を和らげるための医療を、地域包括ケア病棟では病状が安定した後、自宅や施設に戻るまでの生活の準備やリハビリテーションを提供する。2023年4月に新しく病院長に就任した山岨達也（やまそば・たつや）先生に、特色ある診療科や同院の強み、地域医療への思いなど話を聞いた。（取材日2023年12月11日）

地域の皆さまや受診される患者さんに安心・安全かつ良質な医療を提供するためには、医療レベルを上げることが重要です。感染症対策は医療レベルの差が出やすい指標の一つですので、手洗いや消毒など基本的な対策を一から見直しました。手洗いの実践率など、データをもとに改善に取り組んだことで、職員の意識が短期間で大きく変わりました。また、外科系の医師には、患者さんにとっては一生に一度の手術になるかもしれないという意識で、常に手術に取り組むよう改めて申し伝えました。同時に、手術同意書も全科分、自らチェックしました。同じ術式の手術でも、既往歴、基礎疾患、特異体質など注意すべき点は患者さん一人ひとり異なります。一般的な説明事項だけでは足りない部分は、別枠で記載するように改善しました。細かいようですが、そうした記載があれば、医療従事者側も手術前に注意すべき点が共有でき、結果的に医療事故防止にもつながります。

これまでも肺・胃・大腸・乳がん・前立腺がんの診療に注力する病院として「がん難民をつくらない」取り組みを行ってきました。今年はさらに、さまざまな部門・職種のメンバーによるチーム医療を一層強化しました。近年がん診療の進化は目覚ましく、従来の手術、抗がん剤、放射線治療の他、がんゲノム医療に至るまで多岐にわたります。地域のがん診療の中核的な役割を担うとともに、緩和ケア病棟では痛みの治療や終末期医療に精通した緩和ケアチームが残された時間を患者さんらしく過ごせるようサポートしています。緩和ケア病棟は非常に見晴らしが良くリラックスしていただける雰囲気で、宿泊可能な家族控室や談話室、キッチンも備えています。今後、18床のうち8床を個室に改修する予定です。また緩和ケア病棟から退院され、新たな治療に挑戦したり、在宅療養に戻ったりと希望のある緩和ケア病棟をめざしています。

近年は入院患者の高齢化が進んでいます。急性期を脱しても在宅復帰が難しい方も多いのが現状です。引き続きケアが必要な方は、2020年に開設した地域包括ケア病棟に転棟いただき、退院に向けた積極的なリハビリを行います。また、心不全、心筋梗塞、心臓手術後などの患者さんに対する病棟内心臓リハビリを開始しました。リハビリ室まで移動する必要がなく、術後すぐに心臓リハビリを開始することが可能です。当院の人間ドックはどなたでも受けていただけます。内視鏡を駆使した高精度な消化管検査や、各種がんの腫瘍マーカー検査などに対応しています。検査枠に限りはありますが、人間ドックのオプションの脳ドックや肺がん検診、人間ドックを受けずに単独で受けられる脳ドックなども実施しております。もし異常が見つかれば、当院で治療できることが大きな強みです。女性デーも設けていますので、気軽にご利用ください。

当院の大きな特徴の一つが救急総合診療です。現在、数多くの救急搬送を受け入れていますが、2023年4月に救急専門の医師を1人増員して3人体制とし、さらに多くの患者さんを受け入れています。2023年4月に部長交代した眼科では、加齢黄斑変性に対して抗VEGF薬硝子体内注射から光線力学的療法まで対応しています。緑内障は診断から手術、白内障同時手術も行っています。循環器内科は、地域の医療機関と連携して「心不全パンデミック」に備え、心不全専門の外来と心血管専門の外来を新設しました。生活習慣・食事・運動指導、薬物療法などに加え、症状の原因を広く精査できることは、総合的に対応できる病院ならではの強みでしょう。また、現代の整形外科治療で大きな一分野となっている関節鏡手術も得意としている治療です。今後はより侵襲性を抑えた先進的な治療法にも対応できるよう、準備していけたらと考えています。

当院は一般急性期だけでなく、緩和ケア病棟、地域包括ケア病棟を有しています。急性期医療、緩和医療、救急医療、地域と連携した医療を含め、患者さんの病状や生活に合わせた医療を幅広く提供することで、多くの患者さんのお役に立ちたいと考えております。現在、特に力を入れているのが地域医療連携です。当院のある千代田も他地域同様に、高齢化が進んでおり、地域のかかりつけ医の先生方と連携を密に、紹介・逆紹介のさらなる徹底を心がけています。手術など高度医療が必要な時は当院を安心してご利用いただけるよう、経験豊富な専門の医師による医療レベルの向上に精進してまいります。また、二次救急医療に従事する病院として、多くの患者さんおよび社会に貢献したいと思います。当院の最寄り駅である飯田橋駅は複数の公共交通機関の利用が可能です。今後は各沿線の開業医の先生方とも連携の枠を広げていく予定です。