日本大学病院
(東京都 千代田区)
松本 直也 病院長
最終更新日:2023/09/12
先進的な医療と地域医療支援の両立を図る
24時間365日対応する救命救急センター機能を有し、千代田区で重症の救急患者を多く受け入れている「日本大学病院」。松本直也病院長は「駿河台で長年診療してきた私にとって、御茶ノ水・駿河台近辺は特に愛着のあるエリア。少しでも地域への恩返しができればと思いました」と2023年4月の病院長就任時の思いを明かす。同院は眼科、循環器病、消化器病、整形外科といった分野の診療に強みを持つほか、脳腫瘍や三叉神経痛の治療、糖尿病指導・治療、女性特有の病気に対し、多様な診療科が一体的に診療を行っている。大学病院として先進的な治療を行う一方で、救急医療をはじめ地域医療への支援も重視し、「地域の医師会の会員となって、地域の医療ニーズを検討しています」と松本病院長。「一定の期間内に最大3回まで使える『リフィル処方箋』の導入は、患者さんの利便性向上と、新たな紹介患者さんの受け入れやすさにつながりました。今後も地域全体にメリットのある取り組みを強めたいですね」と話す松本病院長に、同院の診療の特徴や今後の展望を聞いた。(取材日2023年7月4日)
この病院の成り立ちや特徴を教えてください。
当院は開院して50年以上がたった駿河台日本大学病院を新築移転し、2014年に誕生した病院で、その際に「日本大学病院」と名称も改めました。板橋区にある日本大学医学部附属板橋病院の分院ですが、病床320床と中規模なため診療科同士の垣根が低く、小回りが利くのも当院の特徴と感じます。例えば、他の診療科に検査を依頼するとき、新人医師が指導医に相談するときなども話がスムーズで、患者さんにとって適切な診断・治療をスピーディーに実践できる環境だと思っています。また、前身の病院も含めると駿河台で長年診療している私にとって、御茶ノ水・駿河台近辺はとても愛着がある地域なんです。文豪ゆかりの施設などを背景に豊かな文化が根づき、学生が楽しめるカジュアルな飲食店もたくさんあります。病院長就任の話をいただいた時は、少しでもそうした地域への恩返しができればという気持ちも強かったですね。
診療面ではどのような強みがあるのでしょうか?
外来と入院の機能を分野ごとに集約し、一体的に診療するアイセンター、循環器病センター、消化器病センター、整形外科センターが強みの一つといえます。特にアイセンターでは網膜・硝子体の病気に力を入れ、眼内治療の際は非常に小さな穴から器具を入れる小切開手術により、患者さんの体への負担を極力抑えています。また加齢黄斑変性の硝子体内注射による治療、白内障手術についても、地域の眼科の先生方から多くの患者さんをご紹介いただいています。循環器病センターは循環器内科と心臓血管外科が密接に連携し、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)など専門的な治療まで行います。さらに血管が詰まらないようにする治療薬が適さない患者さんに対し、内視鏡を使って血栓のもとになる血腫を除去する内視鏡的血腫除去術も開始しました。消化器病センターは消化器内科と消化器外科が連携して消化器がんなどの治療に従事しています。
ほかにも専門的に部門を設けて診療されている部署がありますね。
当院では、複数の診療科による共同診療体制を取っています。例えば女性特有の病気を扱うレディースセンターは婦人科、乳腺・内分泌外科、健診センターが連携しています。当院4階に女性向けの健診と外来のエリアを設け、健診から診断・治療までワンストップで受けられるのが特徴。乳がんや子宮の良性腫瘍・悪性腫瘍のほか、骨盤臓器脱や子宮脱にも対応しています。脳腫瘍や三叉神経痛の治療を行う脳腫瘍・頭蓋底センターでは、脳神経外科に耳鼻咽喉科、日本大学歯学部付属歯科病院から招いた歯科口腔外科の歯科医師が加わり、鼻や喉、口腔に近い頭蓋底部分の治療を協力して実施。糖尿病指導・治療を行う糖尿病・肥満症治療センターでは、糖尿病や肥満症など内分泌・代謝関連の病気が対象です。消化器外科や消化器内科、糖尿病専門の医師、看護師、管理栄養士、リハビリテーションスタッフなどが体重と血糖値のコントロールを指導します。
救急医療などの地域医療にも力を入れていると伺いました。
当院には重症の患者さんを診る救命救急センターがあり、主にICU(集中治療室)5床、CCU(循環器系の集中治療室)3床、HCU(高度治療室)12床を使って治療を行っています。救急科に在籍する日本救急医学会救急科専門医に加え、CCUでは循環器内科の医師も加わって救急医療にあたります。このほか脳卒中の患者さんは脳神経外科が協力するなど、各診療科が一体となって救急医療の充実を図っています。特徴の一つは、8時~18時の救急受け入れは、医師の確認なしに地域医療連携室で判断するため対応が非常にスピーディーな点です。病室が満室なとき以外は基本的に救急を受け、重症の方以外に中等症の患者さんにも対応して、地域の皆さんの安心に少しでもつながればと思っています。また、当院は災害時に医療支援を行う地域災害拠点病院にも指定され、万一のときにも地域貢献ができる体制を整えています。
最近の取り組みや今後の展望をお聞かせください。
前述の共同診療体制は2022年からスタートしたほか、循環器内科では心臓病の治療後に登山などハードな運動を希望する方の外来診療、重症心不全の患者さん向けの外来診療も始めました。通院しやすい都心の立地を生かし、専門性の高い外来診療を広くご提供しています。また、症状が安定した患者さんには、1枚の処方箋を一定の期間内に最大3回まで繰り返し利用できる「リフィル処方箋」の対応を開始しました。診察時にリフィル処方箋を受ければ、その後の2回は診察の必要がなく、患者さんの利便性も向上します。加えて当院の外来も比較的余裕ができ、新たな紹介患者さんの予約も受けやすくなっています。そうしたご紹介の引き受けも含め、今後は地域医療の支援にさらに力を入れる考えで、千代田区医師会、神田医師会の会員になり、地域の先生方とご相談をしながら、健診の強化による健康増進など必要となる医療ニーズを検討しているところです。
松本 直也 病院長
1989年日本大学医学部卒業。駿河台日本大学病院循環器内科で診療後、1998年から米国のシダーズ・サイナイ・メディカルセンターの画像診断科に研究員として留学。2001年に帰国し、日本大学医学部内科学系循環器内科学分野助教、同准教授を歴任。2014年同教授に就任。その間、駿河台日本大学病院(現・日本大学病院)循環器内科で診療にあたり、同院循環器病センター長も務める。2023年4月から現職。